「はぁ…」
スマホのカレンダーを見てため息をつく。
こんなことは初めてで、毎月順調にくるタイプなだけに不安に駆られていた。
生理がこない。
もちろん避妊はしている。
たまにゴム無しでする時も津軽さんは必ず外に出すし。
…あまり良くない事だと、わかってはいるけど。
(どうしよう…)
「どうしたのー?」
「ぎゃっ!」
突然降ってきた声と後ろからの抱擁に心臓が飛び跳ねた。
「脅かさないでくださいよ!」
「Firstnameちゃんが自分から驚いたんでしょ?」
首を回して見上げればそこにはもちろん津軽さんの顔。
間近で見る顎のラインがすごく綺麗で、まるで彫刻みたい──とうっかり見惚れそうになったけど、その視線が私のスマホに落とされているのを見て我に返った。
咄嗟にスマホを胸に伏せる。
でもこれがかえって怪しい行動だったとすぐに気付いて、しまった、と思った。
私が見ていたのはただのカレンダーなのに。
「こ… 今年は暖冬らしいですよ」
適当なことを言って誤魔化す。
「へえ、そうなんだ」
津軽さんは特に気に留める様子もなく答えた。
「でも暖冬とかいって何だかんだ寒いよねー」
「ですよね、はは」
「Firstnameちゃん」
「はい!?」
思ったより大きな声が出てしまった。
けどやっぱり津軽さんは気にする風でもなく、火にかけられた鍋を指差した。
「牛乳、沸いてるよ」
鍋の中で牛乳が煮えたぎっていた。
「ああっ!」
「ココアにタバスコ入れてねー」
そう言って津軽さんは私から離れ、リビングのソファへと戻っていった。
コンロから鍋を下ろしたところで意図せず二度目のため息が出る。
(まだ何か言うような段階じゃない)
(たかが一週間だし… 遅れてるだけだよ)
「うん。そのうち来るよ」
自分との会話を済ませ、気を取り直してタバスコ入りココアを作り始めた。