「ところでウサちゃん。君はどこの班の所属だっけ?」
隣を歩くウサに尋ねる。
この質問するの、何回目だろう。
「津軽班です」
「なら他所の班員たちと仲良くするのってどうなのかなー」
すぐそこのエレベーターホールに着いてしまわないよう、殊更ゆっくりと歩く。
「世間話をしていただけですが…」
「その世間話から情報を抜き取られるかもしれないんだよ」
西日が差す時間帯なのに廊下は薄暗い。
窓から覗く空は低く、どんよりと曇っている。
「本当に何でもない話ですよ?」
「そんなのわかんないでしょ。彼らがどう思ってるかなんて」
「わか…りませんけど、そんな疑うような真似」
「わからないから疑うの」
嘘はついていない。可能性はある。
その可能性を否定する根拠を、少なくとも俺は持ち合わせていない。
事実、馴れ合う必要はどこにも無い。
「俺たちは全員、公安刑事なんだから」
ウサの顔を一度も見ることなく言う。
少しの沈黙のあと、ウサは返事をした。
「…はい」
彼らといた時の声とはまるで違うトーンだ。
我ながら狡いと思う。
こう言えば、ウサは何も言えなくなるとわかっているんだから。
くだらない、ともう一人の自分が俺を嗤う。
(…ただの独占欲だ)
ウサがいる普通の世界。
行くことができない世界。
線の向こう側でウサと「普通」を共有している彼らが、俺はたまらなく羨ましい。
窓の外に目をやるとやはり空は重く、今にも降りだしそうな顔をしていた。