誰だって生き方を選べる。


望む選択をすることができる。



それがどれほど幸せなことか知らないでいられるのは、それが「普通」で「当たり前」だからだ。



どんなに願ったって俺はそっちには行けない。



夢なんて見るだけ無駄だとわかっている。



なのに───





俺は、こんなにも苦しい。








デスクに頬杖をつき、菓子を食べながら目の前の光景を眺める。


いつもと変わらない公安課。



少し離れたところで、ウサと誠二くんが世間話をしている。



(また缶コーヒーあげてる)



週に何本貢いでんだよ、と心の中で毒づく。



(…あ、誠二くん笑った)



わかりづらいけど、あまり人に見せない、というかウサにしか見せない表情だ。



ちり、と胸が焦げるような感覚を覚えた。



そこにどこからか登場した透くんが混じり、場が一気に賑やかになる。



公安刑事としては先輩後輩の関係にあるとはいえ、ウサからしたら同い年の透くんはとっつきやすいんだろう。


ジト目でツッコミを入れるウサに透くんも楽しそうだ。



するとパソコンから顔を上げた歩くんが3人に向かって何かを言って、ウサと透くんから驚きの声が上がった。


そして歩くんに何かを指摘された様子のウサは苦虫を噛み潰したような顔をする。


ウサは同意を求めるように誠二くんを仰ぎ見るものの、首をかしげられて肩を落とした。



周介くんは今ここにはいないけど、いたらさりげなく加わってウサのフォローに回っていただろう。


兵吾くんと秀樹くんだって、会話に参加することはなくてもウサの話はちゃんと聞いている。



要は、ウサがいると全てがウサを中心に回るのだ。



(…おもしろくない)



空になった菓子の袋を手の中で潰す。


くしゃ、と乾いた音が鳴った。



(ウサはお前らのもんじゃないだろ)



でも、俺のものでもない。



「ウサちゃん!」



ぱっと俺を見るウサ。



おいでおいでと手招きすると、ウサは難波室の面々に頭を下げてからこちらへやって来た。



そんな何でもない事にまた胸が焦げるような感覚を覚えた。



「何ですか? 津軽さん」

「お菓子買ってきて」



くしゃくしゃになった袋を見せる。



「無くなっちゃった。たけのこ」



ウサは頷いた。



「ちょっと多めに買ってきますね」



さっと踵を返すウサ。


俺は椅子から立ち上がって、聞き逃されないように大きめの独り言を呟いた。



「あ、俺トイレ行こっと」



ウサが振り返る。



「そこまで一緒に行こ?」



そのまま自分で買いに行けばいいのに、とウサの顔に書いてあるけど無視する。


ウサと連れ立って公安課を出た。






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