「終わりましたね、クリスマス」
「終わったねー」
黒澤さん主催のクリスマスパーティーを終えて。
帰宅する皆さんを見送った私たちは、公安課に戻って来ていた。
彼女が待っている百瀬さんは津軽さんによって帰されたけど、どうにもこうにも津軽班は仕事が山積みなのだ。
しかし何となくすぐに取りかかる気にもなれず、私たちは適当に引いた誰かのイスにそれぞれ座っている。
「もうこんな時間かー。今年も結構遅くまでやったね」
「なんだかんだで盛り上がりますもんね。黒澤さんには感謝しないと」
「まあね。もうすっかり恒例になってるし。代わり映えしないっちゃしないけど」
津軽さんは長い脚を組み替えた。
「代わり映えしなくてもいいじゃないですか」
「うん?」
「毎年同じ日を皆さんと過ごせるのは嬉しいです」
問うような視線を向けられる。
「こういう仕事ですから。今年も無事に…全員で一年を過ごせて良かったって思うんですよね」
常に危険と隣り合わせの仕事だからこそ。
誰一人欠けることなく、毎年同じ日に全員で笑い合えることの幸せを感じている。
「…そうだね」
津軽さんが微笑む。
その目は加賀班と石神班のデスクへ向けられていた。
「透くんの前世ってカレンダーだったのかな」
「は…?」
「イベント大好きっ子だから」
(たしかに…カレンダーの化身というか…)
妙に納得してしまう。
季節のイベントを欠かさない黒澤さんは、もはや存在自体がカレンダーに近いと思った。
津軽さんは首の後ろで手を組んで天井を仰いだ。
イスがギッと鳴る。
「クリスマスが終わったってことは今年もあと一週間か。はっや」
「本当ですよね」
「最後の最後まで仕事になりそうだけど。Firstnameちゃん的には、どんな一年だった? 」
「うーん。そうですね…」
津軽さんにつられて目線を上へやる。
ざっと今年を振り返った。
「良い一年でしたよ。怪我も病気もなく過ごせましたし」
「俺ともラブラブで過ごせたし?」
(ラ、ラブラブ…)
言葉の破壊力に狼狽える。
頭から否定できないくらいには、仲は良い方…だと思うけど。
それは自分たちで使う言葉なのかと思うと顔がにわかに熱くなり、隣を見られなくなった。
「ちょっと…無言とかやめてよ」
不服そうな津軽さんの言葉は、流すことにしたい。
「…仕事!仕事しないと!」
私は勢いよく立ち上がった。
イスを片付け、自分のデスクへと身を翻す。
しかし。
「Firstname、忘れ物」
「はい?」
呼ばれて振り返ると、ちょいちょいと津軽さんが手招きしている。
座ったままの彼に近付くと。
頬を両手で引き寄せられて、唇を塞がれた。
「………」
重なるだけの静かなキス。
深夜の静寂に包まれる公安課に、溶けるように馴染む。
「…ん…」
かと思いきや下唇を甘噛みされ、声を漏らすとその隙を逃さすことなく津軽さんの舌が入り込んできた。
歯列をなぞられ、舌をくすぐられる。
がっちりと頬を固定されたまま。
「……んんっ」
だんだんと、息が苦しくなってきて。
「……んんんんんんんっ!」
ジタバタし始めるけど、津軽さんは離してくれない。
(酸素がっ!!)
津軽さんの手首を掴んでもびくともしないので、仕方なくその肩を突き飛ばすように押し返した。
ぷはっと離れた口で息を大きく吸い込む。
酸欠のせいで頬が熱い。
「ここっ! 職場っ!!」
思わず叫んだ。
「いいじゃん、誰もいないし。クリスマスだし。…ラブラブだし」
同意を求めるように見てくる。
「…ソ、ソウデスネ…」
そう簡単には流されてくれない津軽さんだった。
「さてと。あと一週間頑張りますか」
津軽さんがイスから立ち上がる。
身長差で見上げた私の頭に手を置いて、くしゃりと髪を撫でて。
デスクへと向かって行く。
「…、はい!」
私も自分の席に座る。
ふー、と息をひとつ吐いて、頭を切り替えて。
PCを立ち上げて分厚いファイルを開く。
津軽さんと、皆さんと、変わらず過ごせることに感謝しながら───
もうひと頑張りだと、気合いを入れた。