今日から楽しい楽しいテスト期間が始まった。


何で楽しいかというと、Firstnameの部活が休みになって一緒に過ごす時間が増えるから。


勉強なら教えてあげられるし、そう言えばFirstnameには俺との放課後を断る理由はないし。

毎日だって会えるわけだ。



───ということで早速、彼女はテスト勉強のために俺の家に来ている。



「…ってこと。わかった?」

「なるほど! ありがとうごさいます」



躓いていた数学の問題の考え方を教えてあげると、Firstnameは納得がいったようで顔を明るくした。


笑顔でお礼を言われて俺も嬉しくなる。



「津軽先輩、教えるの上手ですね」

「そ?」

「わかりやすいです。私の見てもらってばっかりですみません」

「いいよ、全然。俺はそんなにやることもないし」



Firstnameの視線がテーブルを走る。


ノートやプリントを広げている彼女に対し、俺は教科書を一冊開いているだけだ。



「先輩ってテスト勉強とかあまり必要ない感じですか?」

「んー、まあ。授業聞いてれば」

「頭いいんですね…」



感心したように俺を見るFirstname。


もちろん多少は勉強している。

けど、もともとの要領の良さのお陰で成績は常に上位だ。

学年首席の秀樹くんには及ばないとはいえ勉強で苦労することはあまり無い。


別に自慢するようなことではないけど、好きな子から感嘆を含んだ眼差しを向けられるのは嬉しかった。



Firstnameの頭をぽんぽんする。



「それ解き終わったら休も。ずっと数字とにらめっこして疲れたでしょ」



いい子いい子と撫でてやると、Firstnameは微笑んで頷いた。








ベッドに背中を預けて並んで座り、菓子をつまみながらの休憩タイム。



「Firstnameちゃんと兵吾くんって昔から知り合いなんだよね。剣道の」

「はい。小学生の時に道場で一緒でした」

「全然知らなかったからほんとびっくりしたなー」

「加賀さんから聞いてると思ってましたよ」

「兵吾くんって俺にはなんにも教えてくれないんだもん」



この前、兵吾くんと二人で購買に行ったらFirstnameと鉢合わせた。


弁当派の彼女が購買へ来ることは珍しいし、接点の少ない3年と1年が校内で会うことはそうは無いから、俺は嬉しかったんだけど。


お久しぶりですだの元気そうだなだの、彼氏を差し置いて親しげに会話するFirstnameと兵吾くんに、何も知らなかった俺はめちゃくちゃ嫉妬して───


……いやその話はいいとして、とにかく二人が旧知の仲だということにすごく驚いたのだ。



聞けば兵吾くんはFirstnameを妹のように可愛がっていたそうだし、二人は俺よりも先にLIDEを交換してたのかとか考えるとそれも面白くないけれど。



(Firstnameの彼氏は俺だし。Firstnameが好きなのは俺だし)



俺たちはれっきとした恋人同士なのだ。



元カノ襲来という危機はあったけど、雨降って地は強固に固まり、結果として二人の関係は前へ進んだ。


裸で抱き合い、お互いを隅々まで知った俺たちの間にもう距離は無い。



ちら、と視線を隣にやる。



襟元から覗く鎖骨。

Yシャツを盛り上げる胸のふくらみ。

スカートから伸びる、眩しい太もも───



気づけば俺の手はFirstnameの体へ伸びていた。


柔らかな内ももを撫でていた。



「いたっ!」

「何ですかこの手は!」



パシッと手を叩かれる。



「何って、手だよ」

「それはわかります。何で触るんですか」

「休憩時間だから」

「ダメです」

「何でよ?」

「テスト前だからですよ!」

「テスト前は触っちゃだめなの? 」

「ダメです。そういうのは、試験が終わるまで禁止です」



意志が強そうな目で言われる。



(……おあずけ!? テストが終わるまで!?)

(真面目かよ!!)



別にいいじゃん、と出かかった言葉を呑み込む。



相手はFirstnameなのだ。



大事にしたいし、大事だから、押し付けたくない。



「…じゃあキスだけ。それならいいでしょ?」



それでも諦めの悪さが顔を出すあたり、以前はあれほど我慢していられた自分がちょっと信じ難い。



「…キスだけ、なら」



頷いたFirstnameに嬉しくなって、俺はすぐに口付けた。



柔らかな唇。


ただ合わせるだけで気持ち良くて、もう何度もしているのに飽きることなく幸せを感じる。

今までの女とは感じたことのない心地良さ。


愛おしくて愛おしくて───



キスに浸りすぎた結果、俺は無意識にFirstnameの胸に手を置いてしまった。



小さな体がぴくりと揺れ、勢いよく俺を押し返す。



離れた唇と、Firstnameの本気のジト目。



「………」

「ごめん」

「………」



二人を包む、ちょっと気まずい沈黙。



「テストが終わったらって言いましたよね」



ぷいっと顔を逸らされる。



「うん…」



やば、怒らせたかも───と思っていると。



「…私だって我慢してるんですよ」



小さな、小さな小さな声で言われた。


ほんのり頬を染めて。



(…可愛い…)



口元が緩む。


二人ともしたいなら我慢する必要なくないか、とは思うけど。



可愛いFirstnameを見ていたいからそれは言わないでおく。



俺は顔を逸らしたままの彼女に抱き着いた。



「ちょっ…」

「これだけ。本当に何もしないから」



まだ始まってもいない試験を恨めしく思いながら、小さな体を抱き締める。



(テスト、早く終わんねーかな)



柔らかい体も甘い香りも、俺には刺激物でしかないけれど。



それでも触れたくてFirstnameを抱きしめる。



(はーー…)



こっそりと溜め息を吐いていると、細い腕がゆっくりと俺の背中に回った。



……好きな瞬間だ。



(おとなしく勉学に励むかー…)



こうなった以上は、学生の本分を全うするしかない。


おあずけ期間の終了を心待ちにしながら。



(がんばれ、俺…)



勉強を───いや、禁欲を。





自分を励ましながら、未練がましくFirstnameを抱きしめ続けた。



























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