バナナに練乳を掛けて食うと美味い

 バナナに練乳を掛けて食べると美味いんだぞ――俺のソウルフレンドである日向創が教えてくれた、まさかの組み合わせ。
 チョコバナナは祭りの出店で売っていたりするが、練乳バナナは見たことも聞いたこともなかった。
 牛乳とバナナの組み合わせは身体に良いらしいし、悪くない組み合わせだと思う。糖質は多そうだが――構わない。一個くらい食べたって、太りはしないだろう。太り易い体質という訳でもないし。
 という訳で俺はバナナと練乳を確保し、レストランにてそれを食おうとしてるのだが――。

「――な、何だよ、お前等」

 昼飯時は終わり、レストランに用など無い筈なのに――日向創、田中眼蛇夢、狛枝凪斗、花村輝々が居座っていた。しかも此方に注目している。
 もしかして――食いたいのか?

「んだよお前等、食いたいのか?」

 俺がそう尋ねると、狛枝が何故か興奮した様子で躙り寄ってきた。何事だよ。

「良いの? 僕みたいな塵屑が烏滸がましいとは思うけど、良いって言うなら左右田君を」
「鎮まれ下郎!」

 得体の知れぬ狛枝の狂気に引いていると、田中が狛枝を蹴飛ばした。狛枝は何を言い掛けたのだ?

「狛枝、今何を言い掛け」
「気にしなくて良いんだよ左右田君! 僕達に構わず、どうぞどうぞ!」

 俺の言葉を遮って花村が急かしてくる。何でそんなに必死なのだ。しかも全員俺のこと凝視してくるし。構わずと言われても、そんなに見られていたら食い難い。
 仕方ない、場所を変えるか。
 そう思い、席を立とうとした――その時、日向が勢い良く立ち上がった。その所為で椅子が倒れたが、日向は構うことなく俺に指を差す。

「それは違うぞ!」

 何がだよ。

「日向。お前が何を言いたいのか、さっぱり判んねえよ」
「左右田、お前――食べる場所を変えようとしたな?」
「えっ、あ、まあ」

 何で悪いことをしようとしたのを咎められている感じになっているのだ。俺は悪くないぞ。
 でも不思議と、俺が悪いような気がしてくる。

「左右田、レストランならバナナの皮をすぐに捨てられるんだぞ。それに、お前のコテージと違って機械臭くないから食べ易いし。大体、レストランは食事を取る場所だ、此処で食べなくて何処で食べるんだ」

 そ、そうか! 確かにそうだ、日向は正しい。

「すまねえ、俺が間違ってたぜ」
「判ってくれれば良いんだ」

 日向の意見に従い、俺は再び椅子に座った。が、矢張り此奴等の視線が気になる。何なんだよもう。

「――あのよお、そんなに見られてっと食い辛えんだけど」
「じゃあ僕が代わりに君を食べ」
「黙れ下郎!」

 何かを言い掛けた狛枝が、また田中に蹴飛ばされている。何で今日に限って田中は暴力的なのだ。

「おい、何があったか知らねえけど、あんま狛枝のこと蹴飛ばしてやんなよ」
「ぐっ――す、すまん」

 俺がそう窘めると、田中は眉を顰めながら不服そうに謝った。不服そうにしながらも謝る素直さだけは認めてやらないこともない。

「――あはっ。左右田君に心配して貰えるなんて、やっぱり僕は幸運だね! 素晴らしいよ!」

 相変わらず仰々しい振る舞いをする狛枝に、俺は思わず苦笑する。

「幸運って程のもんじゃねえだろ」
「いや、幸運だよ。そしてこの恩は今返さないと、僕は死んでしまうかも知れない」

 えっ、まじで?

「まじか?」
「まじだよ。幸運の後には必ず不運がやってくるんだ。だから僕は君に、恩返しという名の不運を支払わなければならないんだ!」

 何だかよく判らないが、鬼気迫る狛枝の雰囲気に飲まれてしまう。

「そ、そうか。じゃあどうしたら良いんだ?」

 幸運だとか不運だとかのシステムは理解の範疇を超えているので、とりあえず本人に尋ねてみた。すると狛枝は、俺の手にあったバナナと練乳を取り上げ――バナナを剥き、練乳を先端から滴るように掛けて俺に差し出した。

「君の食事の手伝いをさせて欲しいんだ」

 手伝い?

「えっ、どういうこと?」
「僕が食べさせてあげるってこと」

 それが不運に入るのか判らないが、本人がこう言っているのだから不運なのだろう。
 他の奴等からの視線がより一層鋭いものになった気もするが、俺は狛枝の差し出したバナナを銜え――。

「ちょっと待った!」

 バナナを銜えたままの状態で、花村に待ったを掛けられてしまった。何なんだよ。

「あんだよ」
「左右田君、練乳バナナの正しい食べ方を知らないでしょ?」

 はあ? 正しい食べ方?

「あんだよほれ」
「やっぱり知らないんだね。駄目だなあ左右田君。ちゃんと正しい食事マナーを身に付けなきゃ、ソニアさんに嫌われちゃうよ?」

 何、だと? それは困る!
 俺はバナナから口を離し、花村に懇願した。

「それは嫌だ、頼む。その、正しい食べ方ってのを教えてくれ」

 俺が両手を合わせて拝むように頼むと、花村は勿論だよと言って遣り方を教えてくれた。流石、変態だけど超高校級の料理人だな。

「先ずね、練乳を舐め取るようにバナナを舐めるんだ」

 えっ。

「何かそれ、逆にマナー違反じゃね?」
「ちっちっちっ、判ってないなあ左右田君。練乳バナナの場合は、それが正しいマナーなんだよ」

 そうなのか? いや、超高校級の料理人である花村が言っているのだから、それが正しい食べ方なのだろう。
 花村の指示通り、俺はバナナに舌を這わせ、練乳を舐め取った。

「――甘い」

 俺がぼそりと呟いた瞬間、日向と田中が蹲り、狛枝は自分の鼻を押さえてぷるぷる震えていた。何だよその反応。
 訳が判らないなりに、俺は花村の言う通りバナナを舐めた。暫くそうしていると、練乳を全部舐め取ってしまい、徒のバナナに成り下がってしまった。

「花村、練乳全部舐め取っちまったんだけど」
「じゃあ――狛枝君、もう一回バナナに練乳掛けて」

 何、だと?

「お、おい。まさかまた舐め取んのか? 練乳ばっか舐めたくねえよ、バナナ食わせろバナナ」
「慌てなくても、その太くて硬い棒状のものを食べさせてあげるから」

 何だその遠回しな表現は。
 俺が困惑している最中、狛枝は指示通りにバナナへ練乳を掛け始めた。再びバナナが、白い液体塗れになる。

「よし。じゃあ狛枝君、そのバナナを左右田君に突っ込んで――抜き差ししまくって」

 は?

「は? えっ、何その食べ――んぐぅっ」

 俺の発言は、狛枝がぶち込んできたバナナと共に口内へ消えた。
 いきなり過ぎて混乱している俺を無視し、狛枝がバナナを抜いたり突っ込んだりしてくる。どうしたら良いんだ、噛むのか?
 そう思って口を動かそうとすると、花村が再び待ったを掛けた。

「駄目だよ左右田君、バナナを噛んじゃ」

 何でだよ、いつ食うんだよこれ。
 疑問に思いながらも花村の言うことを聞き、俺は狛枝のするがままになり、じっと堪えた。

「っ、んんっ――ふ、ぅっ――」

 偶に喉の奥まで突いてきて、苦しさのあまりに顔を顰めて呻いてしまう。そんな俺を見詰めて、此奴等は顔を真っ赤にしている。何でだ。笑ってんのか畜生。
 何だか段々自分が惨めになってきた。涙腺が緩んできて、涙が頬を伝い落ちる。
 口を開けっ放ししているので、顎も疲れてきた。口の端から、練乳と唾液の混ざったものが垂れ落ちる。もう閉じたい。
 だけど花村が、まだ駄目と言うように俺を凝視していて――閉じるに閉じられない。もうきつい。摩擦と唾液でバナナが溶けてきた。練乳とバナナの味がする。美味い。


 はっ、まさか――これが目的だったのか!


 バナナをじわじわ溶かし、練乳と絡めて味わう――これが練乳バナナの食べ方なのか! 納得した。
 納得した俺は狛枝の律動を甘んじて受け――バナナに舌を絡めて、溶けた果肉と練乳を吸った。ごくんと飲み込めば、粘っこい液体が食道から胃へと流れていく。
 鼻から息を漏らせば、バナナと練乳の薫りが通り抜け、爽やかで濃厚な甘さを味わった。目の前に居る狛枝が、涎を垂らして俺を見ているのが怖い。

「――狛枝君、もう良いよ」

 花村がそう言った瞬間、狛枝は俺の口からバナナを引き抜いた。どろどろに溶けたバナナから、練乳と俺の唾液が滴り落ちる。何だか口寂しくなって、俺は口周りに付いた汁を舐め取った。

「ふっ、まるでサキュバスの宴を垣間見たが如き愉悦だ」

 田中がストールで目以外を隠しながら、訳の判らないことをほざいていたが、そんなことはどうでも良いのである。俺はバナナが食いたいのだ。

「なあ、花村ぁっ。俺、バナナ食いたいんだけど」

 俺がそう訴えると、花村は意味深長な笑みを浮かべた。

「んっふっふっ、慌てなくても大丈夫さ。これで最後だからね」

 最後。ということは――漸くバナナが食えるのか!

「で、どう食えば良いんだ?」
「先端から少しずつ、歯を立てないように唇で食んでいくんだよ」

 歯を立てないようにか。通常のバナナなら少し難しいが、先程の過程でどろどろになったこれなら容易である。
 そっと、狛枝が恍惚たる表情でバナナを差し出した。俺はそれを唇で食み――少しずつ、果肉を擦り潰すように咀嚼していく。
 何故か日向が此方を凝視したまま、はあはあと息を荒げているが、一体どうしたのだろうか。

「――んっ、んんっ」

 ぬちゃりぬちゃりと、果肉の潰れる音がする。唇だけで啄み、少しずつバナナがなくなっていく。何だかバナナにキスしているみたいだな。
 そうやって地道に食べていくと――漸くバナナが、俺の胃袋へ全て収まった。長かった。長かったぞ。

「――御馳走さん。いやあ、練乳バナナって食うの時間掛かんだな。祭りの出店にねえのも納得だぜ」

 からからと笑いながら俺が言うと、何故か皆、俺のことを罪悪感溢れる眼差しで見てきた。何だ、一体どうした。

「僕なんかが言うのも失礼だろうけど――左右田君、鈍感過ぎるにも程があるよ。練乳にバナナときたら精」
「沈黙の黄金脚!」

 サイレント・ゴールデン・フット――などと叫びながら、田中は狛枝の脳天に踵落としを食らわせた。お前、狛枝に何の恨みがあるんだよ。

「田中、お前今日変だぞ。狛枝のこと蹴りまくるし、ストール頭に巻きまくって目しか見えてねえし。日向も何かはあはあ言ってるし――花村も、狛枝も可笑しいぞ。お前等、何か企んでんのか?」

 訝しげに四人を睨め付けると、四人はお互いを見合わせ――レストランから逃走した。
 は?

「なっ――ちょっ、お前等待てよ!」

 途中まで追い掛けたものの、示し合わせたように四人がばらばらの方向へ逃げたので、誰を追うべきか迷ってしまい――結局、四人共捕まえることが出来なかった。畜生。
 ――まあ良いか、練乳バナナ美味かったし。
 どうせ下らないことを企んでいたのだろうと自己完結し、俺は腹ごなしに島を散歩することにした。




 翌日の朝。花村に教えて貰った食べ方で練乳バナナを食べたら、顔を真っ赤にした女子連中に突っ込まれ、漸く俺は奴等の企みを理解し――女子達と共に、四人を吊し上げてやった。

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