信じれば、きっと救われると、そう信じていた。
 疑わず、只管に信じていれば、救われると。


 でも――裏切られた。


 只管に信じていたものは徒の瓦落多と化し、俺は何も信じられなくなった。
 そして俺は、何も信じなければ、自分が傷付かないことに気付いた。
 最初から期待するから、信じてしまうから傷付くのだ。
 なら、最初から期待しなければ、信じなければ――裏切られずに済む。
 そう悟ってから俺は、何も期待せず、何も信じずに生きてきた。
 きっとこれから先、死ぬまでずっとそうやって生きるのだと――思っていた。


 でも――信じてしまった。


 希望ヶ峰学園に入学してから、俺には沢山の友人が出来た。親友と呼べる存在まで出来てしまった。
 もう、期待しないと、信じないと決めていたのに――俺は、期待してしまった。信じてしまった。
 皆なら、俺のことを裏切らないんじゃないかと――そう、思ってしまったのだ。
 だから、俺は――。

「――左右田」

 一人の男が部屋に入ってきて、俺の名前を呼んだ。
 その男は、大事な大事な俺の親友――田中だった。全身に返り血を浴びていて、いつも逆立てていた髪がべったりと下りている。

「左右田よ。頼んでいた物は出来たか?」

 田中が優しく、俺に話し掛けてくる。思わず泣きそうになったが、ぐっと堪える。

「――で、出来ました。貴方に頼まれていたもの。ちゃんと、造りましたから」
「そうか――」

 流石、俺様の魂の伴侶だ――と言って、田中が俺を抱き締めた。田中から漂う腥い血の臭いが気持ち悪くて、思わず吐きそうになるが、ぐっと堪えた。

「左右田よ。貴様は本当に素晴らしい男だ」

 田中が俺の頭を撫で、耳元で囁く。

「貴様のお蔭で――今日も沢山、殺すことが出来た」

 絶望的だろう――と、田中が吐息混じりで俺に囁く。
 俺の頭を撫でていた手は、いつの間にか背中にまで下りていて――ぎゅっと、強く抱き寄せられた。

「絶望的だろう? 貴様の造った機械達が、愛しい愛しい我が子達が、人や動物を無惨に残酷に――ぶち殺してんだぜ?」

 田中の口調が、変化した。

「なあ、すっげえ絶望的だろ? 絶望的に絶望してんだろ、左右田ぁっ? この素晴らしい絶望はな――間接的にだけど――てめえが生み出してくれたんだぜ。本当にありがとう! ありがとうございますっ!」

 耳元で叫ばれて鼓膜が痛い。俺を抱き締める田中の腕が痛い。心が、痛い。

「なあ、左右田ぁっ。お前も早く絶望しようぜ? 俺達さぁ、親友じゃん。親友が絶望してんだから、お前も絶望すべきじゃん? 何でお前はまだ、こっちに来ないの? 俺、めっちゃ寂しいんだけど」

 そう言いながら田中が、俺の着ているつなぎ服のファスナーに手を掛け、ゆっくりと下ろしていく。突き飛ばしたくなったが、ぐっと堪えた。

「ああ――まじで絶望的。抵抗しようぜメカニックちゃん。本当に食っちまうぜ? 俺、前からお前のこと――滅茶苦茶に犯したくて泣かしたくて仕方ねえんだからさあ!」

 親友を犯して泣かすなんて絶望的――と、田中は嬌声のような絶叫を上げた。

「っつうかお前、何で敬語な訳? 一人称も私だし。俺と一緒にくっだんねえ日常生活送ってた時は、今の俺みたいな喋り方だったじゃねえか。すっげえ寂しいんだけど――絶望的なくらいに!」

 瞬間。世界が反転し、背中に衝撃と痛みが疾った。
 何が起こったかすぐには解らなかったが、床の冷たさを掌に感じて、俺は――田中に押し倒されたことを、理解した。

「ああっ、良いっ! その絶望的な表情、すっげえ良い! そのまま絶望しよ? なあ! もうお前の口調真似んのも疲れちまったんだよぉっ。なあ、傍に居てくれよぉっ。んで、昔みたいに俺が厨二語で喋って、お前がそれに突っ込むの! そんで一緒に――沢山、殺そう?」

 完全に下ろされたファスナーの隙間に、田中が手を入れた。そして、俺の着ている肌着を捲り、有りもしない胸を優しく撫でてきた。
 興奮して体温が上がっているのか、田中の手はいつもより温かくて――その温もりが悲しいくらい心地良くて、何だか泣きたくなってしまう。

「絶望的に俎板――まあ、男なんだから仕方ねえんだけど」

 そう言って田中が、俺の胸にある乳首をべろりと舐める。俺は吃驚して思わず、ひっ――と悲鳴を漏らしてしまった。

「あっ、やっと反応した。胸、弱いのか? ああっ、やっべえ。まじ可愛い、食いてえ。ああでも、犯したら作業に支障が出るからって、彼奴等に止められてるし――食いたいのに食えないなんて、絶望的ぃっ!」

 ぶち犯したくて堪んねえよ――と、田中は腹を抱えて哄笑した。

「ああ――男が男に、しかも親友に犯されるって、絶望的に絶望的な絶望だと思うんだよ。絶対気持ち良いし、最高に絶望出来ると思うんだよ。なあ、そう思わねえ?」

 一頻り笑った田中は、笑い過ぎたのか、涙を浮かべながら俺に聞いてきた。
 けど、俺には何と答えれば良いのか解らなくて――無言で田中から目を逸らした。

「あっ、無視された。ちょい絶望。しかも目まで逸らされた、まじ絶望! 本当お前って、一体何回俺を絶望させる気なの? まじで惚れちまうぜ。もう惚れてるけどな! だからこそ愛してやりたいんだけどなぁ――」

 一回だけなら許されねえかな――と、田中が不気味なくらい真剣な表情で呟いた。
 ぞっと、背筋が凍った。

「作業に支障が出なきゃ良いんだろ? ちょっとだけなら、ちょっとだけなら――」

 そう言いながら田中が、俺のつなぎ服を脱がそうと手を動かし始めた。
 流石にこれ以上は我慢出来ず、俺は田中の手を掴んで動きを封じた。

「おっ? 抵抗しちゃう? しちまうのメカニックちゃん? 良いねえ。無抵抗なお前より、抵抗するお前を犯す方が絶望的だもんな!」

 流石親友、俺の気持ち解ってくれてるなあ――と、田中は嬉しそうに笑い、俺の額に口付けを落とした。
 我慢出来ずに抵抗してしまったことが、徒になってしまった。
 田中は完全に欲情してしまったようで、俺の頬や耳、首筋へ噛み付くように口付けを落とし始めた。

「んっ、超可愛い。ぶち壊してやりてえくらい、愛してるぜ左右田ぁっ」

 がりっと手首を噛まれ、思わず田中の手を離してしまった。

「はぁい、片手が自由になりましたぁっ」

 戯けた様子で自由になった手を振り、田中はその手を俺のつなぎ服の中へ――パンツの中へ突っ込んだ。いきなり直に陰部を撫でられ、息が詰まる。

「あれ、そこは喘ぐとこだろ。何で黙りなのかなあ、メカニックちゃぁん」

 やっぱり揉むべきか――と言いながら、田中が俺の股間を弄り始めた。他人に触られたことがなかったので、その未知なる感覚に、変な声が出そうになる。

「おっ。今の左右田、すっげえエロい顔してる。気持ち良いか? 親友に股間弄られて、気持ち良いか? 何か硬くなってきたけど、気持ち良いか?」

 気持ち良いかと、しつこく何度も田中に聞かれ、元々緩い涙腺が緩み始める。
 親友に股間を弄られて感じている自分が情けなくて、ぼろぼろと涙が溢れ出した。そんな顔を田中に見られたくなくて、顔を両腕で覆い隠す。

「泣く程良いのか?」

 ぐいっと腕を引っ張られ、無理矢理泣き顔を暴かれた。むかつくくらい楽しそうな田中の顔が、俺の眼前に在って――唇に、田中のそれが押し当てられた。
 ぬるりと、田中の舌が口内に入ってきた。
 俺の鋭利な歯に臆することなく、侵入者は歯肉や硬口蓋を撫で回し、俺の長い舌に絡み付いてくる。田中の舌が中で蠢く度に、頭の中が真っ白になって、背中に奇妙な痺れが疾った。

「――っはぁっ」

 田中が俺の口を解放した。
 舌が引き抜かれ、一瞬寂しいと思ってしまい――自己嫌悪に苛まれ、また涙が滲んできた。

「ははっ、泣き過ぎ。本当、お前って泣き虫だよなあ――もっと泣かせたくなっちまう」

 そう言って田中が、俺の服を脱がしに掛かった。けどもう、俺に抵抗する気力はなかった。

「あれ、抵抗しねえの? 股間弄られて、ディープキスされて――もうその気になっちまったか? 結構ちょろいな、左右田ぁっ」

 けらけらと愉快そうに田中は嗤い、俺の服を少しずつ剥いでいく。脱がしにくそうにしていたら、ちょっと身体を浮かせてやって――ああ、俺は何がしたいのだろうか。解らない。
 犯されたくないのに、そうなるように動いている自分が居る。

「無抵抗どころか協力的じゃねえか、左右田ぁっ。そんなに犯されてえの?」

 違う――そう言いたいのに、声が出ない。
 何とか否定しようと口を開閉させている間に、俺はとうとう丸裸にされてしまった。床の冷たさが、背中から直に伝わってくる。

「おお――こんな工場に引き籠もってるから、貧弱もやしになってるかと思ってたけど――良い身体してんじゃん」

 そう言いながら田中が、俺の身体を撫で回した。微妙な力加減で撫でてくるものだから、擽ったくて反射的に身を捩る。

「あっ、擽ったかったか? ごめんな、早く――犯されてえよな」

 にっこりと歪な笑顔を浮かべた田中は、俺の足を持ち上げて――誰にも見せたことのない部分を、思い切り曝け出された。
 瞬間、俺の中で麻痺していた羞恥心が爆発した。

「――っ、や、やだっ。は、恥ずか、しい」
「あ、やっと喋った。っつうかよお、今更恥ずかしいとか言われても、もっと恥ずかしいことしちゃう訳だし――あっ」

 忘れてたわ――と言って田中は俺の足を離し、自分の服のポケットに手を入れ、何かを取り出した。

「じゃんじゃかじゃんっ! 潤滑剤ぃっ! あっぶねえ、無理矢理ぶち込んで怪我させたら、作業に支障が出るどころじゃねえよ」

 うっかりうっかり――と言いながら、田中が自身の手にその潤滑剤とやらを塗りたくる。
 それを見て俺は、これからされるであろうことに対し――叫び出したい気持ちを、ぐっと堪えた。

「あれ、まぁた黙り? はあ、これだから――雑種はつまらんな。もっと足掻いてみせろ」

 田中の口調が、変化した。いつもと同じ、昔の――田中みたいな口調に。
 何で今更、変えてしまうのだろうか。あのままだったなら、これは田中じゃないって――思っていられたのに。

「ふっ。良いぞ、今の貴様の表情――正に絶望を体現したかのような、悲愴と苦痛に塗れている」

 それでこそ、我が魂の伴侶に相応しい――そう言って田中は俺の足を広げ、本来挿れるべきでないところへ指を突っ込んだ。
 ぐうっ、と声が漏れる。
 苦しい。気持ち悪い。田中の指が腸壁を不規則に擦り、得体の知れない恐怖と痺れが全身に広がる。

「ひっ――ぬ、抜い、てっ」
「抜く訳がないだろう。貴様を犯し尽くて絶望へ叩き堕とし、そして――」

 絶望という名の楽園で、永遠に俺様と共に堕ち続けようぞ――と言い、田中は恍惚とした笑みを浮かべた。
 ぐちゅりと、指が引き抜かれる。
 散々掻き回されたそこは、自分でも判るくらいに締まりがなくなっていた。
 かちゃかちゃという音がする。
 それがズボンのベルトが外れる音だと気付いた時には、田中はズボンを下ろし、俺のよりも立派なそれを勃起させていて――ぐっと、俺の穴へとそれを宛行った。

「左右田。愛しき我が魂の伴侶よ。俺様の愛と、絶望を――受け止めてくれ――」

 ――ぐちゅりと、田中が俺の中に挿入ってきた。

[ 93/256 ]

[*戻る] [進む#]
[目次]
[栞を挟む]


戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -