ちょろい二人

 僕の恋人はとってもちょろいんだ。ちょっとしたことで直ぐに怒ったり泣いたりするんだけど、宥めれば直ぐ機嫌が良くなるんだよ。単純というか、まあ其処が可愛いんだけどね。
 この前も一緒に出掛けたんだけど、偶然同じところに十神君と澪田さんが出掛けていて、ばったり出会してね。二人とちょっとお喋りしたんだけど、彼が段々不機嫌になってきてさ。二人と別れた後、すっごくねちねち文句言われちゃったんだ。
 俺と一緒に居るのに他の奴と楽しくすんなよ、とか。俺だけ見てろよ、とか。もっと構えよ、とか。色々言ってくるんだよ。
 でもさ、それって凄く嬉しいことだと思わない? つまり彼は、こんな僕の為に嫉妬してくれている訳じゃないか。それだけ僕のことを愛してくれているという訳で――もう最高だよね!
 だから僕は嬉しくて言ったんだよ。
「嫉妬するくらい愛してくれてありがとう」
 ってね。そしたら彼、顔を真っ赤にして怒っちゃって。嫉妬なんかしてねえし! ってぎゃんぎゃん喚く喚く。でもそれが照れ隠しだって僕は知っているから、怒る彼が愛おしくて堪らなかったよ。
 だからもうちょっと彼を弄りたかったんだけど、あんまり遣り過ぎると本当に拗ねちゃうからね。怒る彼を宥める為に、ぎゅっと彼を抱き締めて「僕も愛してるよ」って言ったんだ。
 そしたら急に静かになってね。暫くすると彼が僕のことを抱き締め返して「俺の方が好きだし」とか言ってね! もうっ、もうっ、堪らないよね!
 それからすっごく甘えてきてさ、手を繋いできたり腕を組んできたり、おまけに頬にキスをしてきたり。
 正直ね、今すぐ襲ってしまいたかったよ。外だから我慢したけどね。微生物にも劣る下等生物な僕にだって、自制心くらいはあるよ。


 で、今何の話をしていたっけ? 彼が可愛いって話だっけ? あっ、彼がちょろいって話だったね。ごめんごめん。
 でもね、そんなちょろい彼が可愛いんだよ! 判るかな、判るよね? ちょっとしたことで一喜一憂し、怒っても直ぐ機嫌が良くなる彼が本当、ちょろ可愛いんだ!
 だけどちょっと心配なんだよね、ちょろ過ぎるから。悪い奴に騙されないか心配で心配で。彼、昔悪い奴に裏切られたこともあるみたいだし。これからはちゃんと僕が守っていかないとね。悪い虫が付いたら困るし。恋人として当然だよね!
 僕のような疫病神が彼を守るだなんて烏滸がましいし、寧ろ僕なんて居ない方が彼の為になると思うけどね。
 でも、僕は彼が好きだから。絶対に幸運の反動には巻き込まないし、絶対幸せにするって決めたんだ。喩え僕が死んでもね。彼に言ったら怒りそうだけど。
「俺を置いて死んだら、永遠にねちねち文句言うからな!」
 って、彼なら言いそうだよね。でも、僕は守るから。彼の為なら死ねるよ。それぐらい愛してるんだ。
 それにさ、大事な人を亡くすくらいなら死んだ方が増しだよ。僕の経験論だけどね。
 えっ、冗談に聞こえない? 冗談じゃないんだから当たり前だよ、面白いことを言うなあ君は。


 兎に角、僕はそれだけ彼を愛しているってことだから――彼にちょっかい出さないでね。君のことは信用しているけど、魔が差すってこともあるしね。釘を刺しておかないと。念には念を入れておかないと、やっぱり不安だからね。
 えっ? 独占欲? まあ、ちょっと強いかもね。でも仕方ないじゃない、それだけ彼が魅力的なんだから。ねっ。
 という訳で、呉々も彼に手は出さないこと。良いね? ちょろいからって落とそうとしないでよ。判った?
 うん、約束だよ。破ったらグングニルの刑だからね。




――――




 俺の恋人がすっげえちょろい。何がちょろいって、ちょっとしたことで直ぐ自虐に走ったり引き隠ったりするんだけど、宥めれば直ぐ機嫌が良くなるんだよ。単純というか、まあ其処が良いんだけど。
 この前もさ、レストランでソニアさんと談笑――っつうか俺が一方的に話し掛けてたっつうか、独り芝居みたいな感じだったんだけど――兎に角、ソニアさんと話してた訳なんだよ。そしたら偶然彼奴がそれを見てたみたいでさ、後ですっげえ文句? 言われたんだわ。
 やっぱり僕みたいな愚かで情けないゴミ屑野郎よりソニアさんが良いんだね、とか。こんな僕だけを見ていて欲しいだなんて烏滸がましいよね、とか。こうして構って貰っているだけでも有り難いと思わなきゃいけないよね、とか。色々言ってくるんだよ。
 でもよぉ、それってすっげえ嬉しいことだと思わねえ? つまり彼奴は、俺の為に嫉妬してる訳じゃん。それだけ俺のことが好きっつうことで――ちょっと嬉しいよな!
 だから俺、嬉しくて言ったんだよ。
「嫉妬するくらい俺が好きなんだなぁ」
 ってな。そしたら彼奴、照れ臭そうに笑って「ごめんね」とか言っちゃってさあ。謝る必要ねえのに。でも其処がまた良いっつうか、いじらしくて可愛いっつうか。
 だから彼奴のこと抱き締めて「謝らなくて良いし、つうか嬉しいし、お前のこと好きだから」って言ったんだよ。そしたら彼奴、固まっちゃって。でも暫くしたら抱き締め返してきて「僕も好きだよ」とか言ってよぉっ! 何つうかもう、堪らなかったぜ!
 それからすっげえ甘えてきてよぉ、擦り寄ってきたり髪の毛を指で梳いてきたり、しかもその――く、唇にキスとかしてきたりしてよぉ。
 正直あのまま行くとこまで逝っちまっても良いかなって思ったんだけど、俺達まだ学生の身分だし、そういうのは早いかなって。えっ、真面目? うっせうっせ! 俺は真面目じゃねえし!


 ん? ところで何の話してたっけ? 彼奴が可愛いって話か? ああ、彼奴がちょろいって話か。悪い悪い。
 でもな、そんなちょろい彼奴が可愛いんだよ! 判るか? 判るよな! ちょっとしたことで自虐に走って、でも好意を示せば直ぐ元気になる彼奴が本当、ちょろ可愛いんだよ!
 だけどちょっと心配なんだよな、ちょろ過ぎるから。悪い奴に騙されないか心配で心配で。彼奴、才能に振り回されて酷い目に遭ってるみたいだし。これからはちゃんと俺が守ってやらねえとな。あと、悪い虫が付いたら困るし。恋人として当然だよな!
 俺みたいな機械弄りしか能の無い奴が、彼奴に何かしてやれるのかって話だけど。
 でも俺、彼奴のこと好きだから。一生養ってやるつもりだし、絶対幸せにするって決めたんだ。彼奴の不運は怖いけど、巻き込まれても絶対離れねえ。
「もう僕から離れて。僕が居たら君は幸せになれない」
 って、彼奴なら言いそうだけどな。でも、離れてやんない。俺が意地でも守ってやる。それくらい彼奴が好きなんだ。
 大体よぉ、好きな奴を捨ててまで手に入れた幸せって、本当の幸せじゃないと思うんだよな。俺の経験論だけど。
 まあ、俺も色々遭ったしな。正確には捨てられた側なんだけど。でも、捨てた側は幸せそうに見えなかったからな。


 兎に角、俺はそれだけ彼奴が好きってことだから――彼奴にちょっかい出すなよ。お前のことは信用しているけど、魔が差すってこともあるからな。釘を刺しておかないと。念には念を入れておかないと、やっぱり不安だしな。
 は? 独占欲? まあ、ちょっと強いかもなぁ。でも仕方ないじゃねえか、それだけ彼奴が好きなんだし。なっ。
 っつう訳で、絶対彼奴に手ぇ出すなよ。良いな? ちょろいからって落とそうとすんじゃねえぞ。判ったか?
 おう、約束だぞ。破ったら片道分しかない宇宙旅行の刑だからな。




――――




 昨日は狛枝、今日は左右田。時間差攻撃とも言える惚気話を聞かされた俺は、ぐったりとベッドに寝転んだ。
 何が悲しくてホモになってしまった友人とソウルフレンドの惚気を聞かなければならないんだ――と思いつつ、二人の話をちゃんと聞いてやった俺は、やっぱりお人好しなのかも知れない。
 バックログを見てみる。狛枝の分はもう消えてしまっていたが、今日の分――つまり左右田の分はしっかり残っている。覚えている限り、狛枝の惚気と大差無い。同じようなことを言っていて、正直苦笑いしか出てこない。
 恋人というのは似てくるものなのか? 飼い犬が飼い主に似てくるのと同じ感じで。
 とりあえず俺が言えることは、お互いちょろいと色々大変だなあ――という他人事な感想くらいだった。

[ 236/256 ]

[*戻る] [進む#]
[目次]
[栞を挟む]


戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -