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「気持ち良いでしょ?」

 狛枝が片方の乳首を指で捏ね回しながら、もう片方に舌を這わせて妖艶な笑みを零した。その配慮も何も無い真っ直ぐな質問に対して俺は、自身の顔が熱くなっていくのを感じながら何度も頷く。
 俺の心臓が爆発してしまいそうな程に激しく脈を打っている。もしかしたら狛枝にも聞こえているかも知れない。恥ずかしい。淫らだ。だけど、拒絶出来ない自分が居る。もっとして欲しいと思っている自分が居る。
 これが本当の自分なのだろうか。

「素直な左右田君も可愛いなあ」

 狛枝は愉快そうに笑い、俺の腹を指先でそっと撫でた。触れたか触れなかったか判らない程の、肌の表面を掠るような撫で方で。
 擽ったくてぞくぞくする。しかしその感覚が妙に心地良く、段々と下半身に熱が籠もってきた。

「あ、勃ってきたね」
「うぅっ」

 表現を一切暈さない狛枝の発言に羞恥心を揺さぶられ、行き場の無い情動が口から漏れた。もう少し言い方を考えて欲しい。それとも今まで俺は、毎回こういうことを言われていたのだろうか。
 そう考えるだけで顔から火が出そうだ。

「ねえ左右田君、服脱いでくれないかな」

 心の中で悶絶していると、狛枝がそんなことを言ってきた。服を脱ぐ?

「な、何で服を?」
「これからが本番だからだよ」

 本番? まだ本番ではなかったのか? これ以上の何かがまだ待ち構えているのか?
 ぶるりと身体が震えた。恐怖と不安と――期待によって。何をされるのだろう。今よりももっと凄いのだろうか。想像するだけで背中に電流が疾り、より一層心臓の鼓動を早める。

「じゃ、じゃあ、脱ぎます」

 緊張のあまりに噛みまくりつつ、狛枝の手を借りて何とか上体を起こし、自分でつなぎ服を脱ぐことにした。
 しかし、なかなか脱げない。手が震えている。腕が引っ掛かって脱げない。つなぎ服はこんなにも脱ぎ難いものなのか。

「左右田君、大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
「大丈夫じゃないよね。ほら、落ち着いて。深呼吸、深呼吸」

 狛枝は諭すように言いながら俺の服を掴み、引っ掛かっていたところを脱がしてくれた。俺は言われた通りに深呼吸をし、落ち着いてから何とかつなぎ服を脱ぐことが出来た。
 今身に付けているのはシャツとパンツと靴だけで――何というか、一枚剥いだだけで色々と無防備になってしまった気がする。高が一枚、されど一枚ということか。

「これも邪魔だから脱がすよ」

 服一枚の有り難みを痛感していると、突然狛枝に靴を脱がされ床に放り投げられた。物は大切にしないといけないだろうと注意しようと思ったが、する前に何故か再び押し倒され――股を思い切り開かされた。
 ――えっ?

「あの、狛枝さん?」
「何かな」
「何をする気ですか?」
「何って、セックスだよ」

 何気ない質問に答えるように爆弾発言をぶちかました狛枝は、平然とした様子で自身の羽織っているパーカーのポケットから何かを取り出し、中身を手に塗り付け始めた。べたべたとした粘着質な液体だ。

「せ、セックス?」
「そうだよ――って、まさか左右田君、セックスの意味も忘れちゃった? 雄蕊と雌蕊から教えた方が良い?」
「いや、其処まで忘れてはいませんよ! というか俺達男ですよね? 出来ませんって!」
「出来るよ、此処で」

 狛枝は謎の液体でべとべとになった手を俺のパンツの中に突っ込み、本来触れられることの無い大事な大事な箇所に指先を宛行った。
 瞬間、俺の顔が無意識に引き攣る。

「そ、其処は排泄孔ですよ?」
「そうだね。でも、中に挿れることも出来るよね」

 にっこりと人好きのする優しい笑みを浮かべながら、狛枝は無慈悲に指を一本中へ挿れた。粘度の高い液体の所為で、指が容易く中へ入り込んでいく。
 狛枝は俺に構うことなく指を蠢かせ、遠慮無く腸壁を蹂躙する。本来何かを挿れる場所ではないところに異物を挿れられ、嬲られ、苦しさのあまりに呻き、戦慄いた。
 しかしその苦痛も最初だけで、何故か段々と慣れていき、しかもある箇所を押されると気持ち良いと感じるようになってきた。男なのに、男なのにこんなところに指を挿れられて気持ち良いだなんて――。

「ほら、いけるでしょ? もう一本挿れるね」

 ぐちゅぐちゅと厭らしい音を立てながら二本の指で中を広げられ、恥ずかしさで死にそうになる。
 だがそれ以上に快感が羞恥心を削いでいき、もっと中を暴いて欲しいと思ってしまう。陰茎も完全に勃ち上がり、パンツを押し上げて先走りを垂らしている。その所為でパンツは無惨な程にぐちゃぐちゃだ。

「あはっ、凄いことになってるね」

 狛枝は楽しそうに俺の体内を掻き乱しながら、空いた手でパンツを掴んで引っ張った。中途半端に脱がされ、パンツが膝のところで引っ掛かっている。
 脱がすならちゃんと脱がして欲しいが、そんなことを言う余裕は俺に残されておらず、只管に狛枝の愛撫を受け止めることしか出来なかった。

「気持ち良い?」

 態々聞いてくるところに意地の悪さを感じつつも、俺は素直にこくりと頷いた。

「正直だね、可愛いなあ」
「か、可愛いなんて、言わないでくださいっ」
「照れてるの? やっぱり可愛いね」

 可愛い可愛いと連呼され、頭の中が沸騰しそうになる。この極悪人面の何処が可愛いというのだ、ちゃんと見てくれ。
 でも、可愛いと言われても嫌な気分じゃない。何だかもう色々と末期な気がする。それとも俺はこういう人間だったのだろうか。
 嗚呼、恥ずかしい。

「――もう良いかな」

 そう言って狛枝は、腸内を弄んでいた指を引き抜いた。ずるりと抜けていく喪失感に一抹の寂しさを覚えてしまい、自分の淫らさを嫌という程に感じる。
 普通ではない筈の状況なのに、どうしてこんなに興奮しているのだろう。

「挿れても良いよね?」

 狛枝が自身のズボンを下ろした。パンツごと下ろしたらしく、彼の股間には陰茎が――勃起した陰茎が聳え立っている。それは凶悪な太さと長さを誇り、狛枝の中性的な相貌には似つかわしくない代物だった。
 挿れても良いかというのは、その――この凶器を俺の中に挿れても良いかということだろう。こんな恐ろしい物が、そういう目的で使われる場所では無いところに入るのか? 裂けないか? 腸壁に孔が空かないか? そんな不安に駆られる。
 しかしそれ以上に挿れられてみたいという浅ましい欲望と好奇心が頭を擡げ、俺は狛枝の問いに対して首肯することしか出来なかった。

「本当に素直だね、新鮮だなあ」

 狛枝はくすくすと笑いながら俺の両足を持ち上げた。通常他者に見られることの無い局部に視線を感じ、今更ながらに恥ずかしさで息が詰まる。

「じゃあ、挿れるね」

 狛枝が両足を持ったまま俺に覆い被さる形になり、排泄孔に熱いものが宛行われた。狛枝の陰茎だ。焼けてしまいそうな程に熱く勃起した陰茎、それが今から俺の中へ入ろうとしている。
 ずぶりと、陰茎の先端が中へ入った。腸壁を押し広げるように、ずぶずぶと食い込んでいく。指とは比べ物にならない質量と熱量に、思わず顔が歪んだ。
 しかし、止めて欲しいとは思わない。寧ろもっと奥へ、もっと中へ挿れて欲しいと思う程、それは苦痛を上回る悦びを俺に与えているのだ。
 半分程は中に入ったが、この時点でもう中が熱くてきつくて堪らない。だけどそれが心地良く、心身が満たされていくような気分になる。
 何分掛けたのか判らないが、それは根元まで俺の中へと収まった。俺は強いられている体勢の苦しさも忘れ、その様子をじっと見続けていた。体内で熱いものが小さく脈を打っているのが判る。それを感じて俺は、狛枝と一つになったことを実感した。

「大丈夫? 苦しくない?」

 狛枝が心配そうに此方を見ている。俺を労ってくれているのか。その優しさに胸がぎゅっと締め付けられる。

「大丈夫、です」
「本当に?」
「はい。だから、あの――俺のこと、好きにしてください」

 狛枝になら何をされても良い。滅茶苦茶にされても良い、滅茶苦茶にされたい。そんな思いが湧き上がり、狛枝を誘うようにゆらゆらと腰を振る。
 ごくりと、狛枝が生唾を飲んだ。

「――君が誘ったんだからね」

 狛枝は言い訳じみた独り言を呟き、俺に伸し掛かって腰を振り始めた。

「んっ――あぁっ!」

 腸壁を抉るように貫かれ、内臓を引き摺り出すように引き抜かれる。それが何度も何度も繰り返され、快感に身悶え、喉から嬌声が漏れ出た。
 今まで味わった記憶の無い怒濤のような快楽の波に翻弄され、意識が飛んでしまいそうになる。それでも狛枝はお構い無しに俺を揺さぶり、何度も何度も腸内を蹂躙した。
 目の前がちかちかと光って見える。光の中に狛枝の顔が見えた。女性にも見えた筈の顔が、今は男にしか――雄にしか見えない。俺は今、雄と化した狛枝に犯されているのだ。
 改めて自分が狛枝に犯されていることを自覚すると、下半身にぞくぞくと甘い痺れが疾った。狛枝に犯されているという現実が、どうしようもなく俺を情欲に狂わせ、理性を掻き消していく。

「ひ、うぅっ――あぁ、はぁっ――こまえりゃ、さんっ。もっと、もっとぉっ」

 狛枝の腰に足を絡め、自らも腰を振って快楽を貪る。ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が鳴り響き、俺は激しく興奮した。
 もっと狛枝に犯されたい。もっと、もっと激しく喰い漁られたい。狛枝に、狛枝に滅茶苦茶にされたいのだ。

「そ、左右田君っ――すごいっ、凄いよぉっ」

 はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら、狛枝は俺の動きに合わせて腰を打ち付ける。奥の奥まで届くような深い一撃を何度も食らい、身体が歓喜に打ち震えた。
 もっと、もっとだ。もっと中を掻き混ぜて欲しい。擦って欲しい。貫いて欲しい。抉り出して欲しい。もっと。狛枝にもっと、いつものように――いつも?
 瞬間、脳裏に様々な映像が生々しい現実味を纏わり付かせて再生され始めた。膨大過ぎる情報量に眩暈を覚えるも、狛枝の陰茎が気持ちの良いところを擦り、現実に引き戻される。快感と眩暈で気が触れてしまいそうだ。

「――左右田君、もうっ」

 狛枝は切羽詰まった表情を浮かべ、何かを懇願するような声で俺を呼んだ。脳裏に巡る映像の一部と重なる。
 俺は以前にも狛枝のこんな姿を見たことがある――ような――気が――す――る――。


 ――嗚呼、見たことがある。


 刹那、頭の中がすっきりした。
 映像は記憶に変わって脳へと再び収納され、眩暈は完全に治まっている。今まで判らなかったことが判る。今までの人生が思い出せる。狛枝と何をしてきたか、全て思い出せる。
 でもこんなことで全てを思い出すなんて、どうかしている。狛枝のあんな顔を見て思い出すなんて――本当に俺はどうかしている。

「――狛枝ぁっ」

 だけど俺は此奴が好きだから、それは仕方がないことなのかも知れない。
 認めたくはないし、本人に言うつもりも一切ないが。

「俺も、もう無理っ」

 中をぎゅっと締め付け、狛枝の陰茎を圧迫した。締めれば締める程、俺の性感帯にも強く陰茎が当たり、快楽の絶頂へと叩き上げられる。
 狛枝も一心不乱に腰を振り続け、そして一際強く中を穿ち、根元まで陰茎を挿入して果てた。どくどくと激しく脈を打つ陰茎を体内に感じながら、俺自身も絶頂を迎えて精を吐き出した。
 俺はだらしなく精液を垂れ流す自分の陰茎を一瞥して息を吐き、狛枝を見遣る。狛枝は酷く満足げな様子で俺を見、にっこりと微笑んで俺にキスをした。

「今、僕のこと『狛枝』って呼んだよね。記憶戻ったの?」

 鼓膜から脳髄まで侵食するような甘ったるい声音で囁く狛枝に対して俺は――。

「――まだ思い出せねえので、もう一回お願いしますね」

 俺は鋭利な歯を剥き出しにして笑い、不自然過ぎる敬語を吐き捨てて、腸内に挿れられたままの陰茎をぎゅっと締め付けてやった。

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