仰げば尊し

 あちしはウサミ。魔法少女ミラクル★ウサミ。そして先生でもありまちゅ。希望ヶ峰学園77期生の皆さんをらーぶらーぶさせる為、ジャバウォック島で修学旅行でちゅよ!
 どんな困難も皆でやれば解決出来るんでちゅ。それを知ってもらう為に学級目標を立て、そして皆さんがらーぶらーぶ出来るように、お出掛けチケット制度も導入しまちた。
 今では皆さん、らーぶらーぶでちゅ! 皆仲良しになって、あちしも嬉しいでちゅ! 偶に湧いてくるモノクマは鬱陶しいでちゅが、魔法でちょちょいとぶっ飛ばせば良いだけでちゅから――まあ良いでちゅ。気にしまちぇん。
 皆さんが仲良くなってくれれば、あちしはそれで満足でちゅから。


 と思って皆さんを見守ってきたんでちゅが、最近ちょっと気になることがあるんでちゅよね。
 気になることと言うのは左右田君のことでちゅ。左右田君は明るくて元気で突っ込み上手で、でも泣き虫で寂しがり屋な可愛いあちしの生徒でちゅ。
 そんな左右田君はソニアさんに片想いをしていて、毎日アタックしては砕けていたんでちゅけど――最近何故かあちしのところに来るようになったんでちゅ。
 先生はお出掛けチケットの対象外だって言ったんでちゅけど、左右田君が寂しそうな顔をしてて、思わずお出掛けチケットを受け取ってしまったんでちゅ。
 それから殆ど毎日あちしのところへ来るようになってしまって――どうしたら良いんでちょう。
 左右田君の希望の欠片は殆ど集まっていまちゅし、特に問題は無いんでちゅけど、何故あちしを誘うのか判らないんでちゅ。理由を聞いても言葉を濁すだけなんでちゅ。皆さんも不思議がって左右田君を見ていまちゅが、左右田君は動じまちぇん。
 あとお出掛け中、左右田君は皆さんとの出来事をあちしに聞かせてくれるんでちゅけど、その間ずっとあちしを抱っこしたままなんでちゅ。あちしは一人で歩けるのに、左右田君はあちしを抱えて離さないんでちゅ。
 それに時々、左右田君はあちしのことをぎゅっと抱き締めてくるんでちゅ。それに頭を撫でてきたりして――あちし、勘違いしそうでちゅ。もしかして左右田君は、あちしのことが好きなんじゃないかって。
 そんなことある筈が無いって判ってまちゅ。あちしは縫いぐるみ、左右田君は人間。見た目も中身も何もかも違いまちゅ。左右田君が好きになる筈ありまちぇん。
 それに左右田君はソニアさんのことが大好きなんでちゅ。ずっと見守ってきまちたから判るんでちゅ。だからあちしのことが好きなんてこと、ある訳ないんでちゅ。
 あちしは此処でしか生きられない、ただの縫いぐるみなんでちゅ。先生だと言っても、魔法が使えると言っても、あちしは此処でしか生きられない縫いぐるみなんでちゅ。
 だから恋とか愛は、あちし自身には意味の無い、関係無いものなんでちゅ。皆さんがそれらを育み、あちしが皆さんを見守る――それがあちしの役割なんでちゅ。
 あちしは幸せでちゅ。それがあちしの存在意義であり、あちしの喜びなんでちゅ。それ以上を求めるなんて、あちしには出来まちぇん。
 あちしは、あちしは――だから。




――――




「ウサミ」

 左右田があちしのところへ来まちた。明日で修学旅行は終わりなのに、左右田君は最後まであちしと過ごすつもりなんでちゅか。希望の欠片は全部集まってまちゅけど、最後くらいソニアさんにアタックしてみても良いんじゃないでちゅか。

「左右田君、あちしは――」
「話があるんだよ」

 あちしに有無を言わさず、そう言ってチケットを差し出した左右田君は、今まで見たことが無いくらい真剣な表情をしていまちた。
 話って、一体何なんでちょう。

「話って」
「とりあえず、軍事施設行こうぜ。着いたら話すから」

 聞く間すらくれず、左右田君はあちしを抱えて軍事施設へ歩き始めまちた。
 いつになく強引でちゅ。一体何の話なんでちょう。ちょっとだけ、怖いでちゅ。
 軍事施設への道中、左右田君は殆ど無言で歩いていまちた。あちしは話し掛けようとしまちたが、左右田君の目は何処か遠いところを見ていたので、結局話し掛けられまちぇんでちた。
 そして軍事施設に辿り着きまちた。相変わらず誰も居まちぇん。此処を好んで来るのは左右田君くらいでちゅから、当然と言えば当然なんでちゅが。

「戦車の中で話したいんだけど、良いよな?」

 監視カメラの行き届かない戦車内は少し不安でちたが、あちしは左右田君を信じて頷きまちた。すると左右田君は手慣れた様子であちしを抱えたまま戦車に登り、ハッチを開けて中に入りまちた。
 中は暗いでちゅ。申し訳程度の灯りはありまちゅが、それでもやっぱり薄暗いでちゅ。
 そんな戦車内に左右田君は腰を下ろし、あちしをぎゅっと抱き締めて黙り込みまちた。いつもなら何か喋ってくれるのに。
 あちしはどうしたら良いのか判らず、左右田君のするがままに抱き締められていまちた。すると突然、左右田君の身体が震えまちた。それに、何か押し殺すような声がしまちゅ。
 あちしは気付きまちた、左右田君が泣いていることに。

「どうちたんでちゅか?」

 そう聞いても、左右田君は何も答えまちぇん。ただ堪えるように泣き、あちしを強く抱き締めるばかりでちゅ。
 何とかちないと。あちしは先生でちゅ。生徒である左右田君を守ってあげないといけまちぇん。先生は生徒を守る為に居るんでちゅから。

「何かあったんでちゅか? あちしで良ければ聞きまちゅよ。あちしは左右田君の味方でちゅよ」

 そう言ってあちしを抱き締めている左右田君の腕を撫でると、左右田君は一層強くあちしを抱き締め、こう言いまちた。

「――ありがとう」

 一瞬、理解出来まちぇんでちた。何故いきなり礼を言われたのか、あちしには判らなかったんでちゅ。あちしはまだ何もしてまちぇん。
 それなのに左右田君は、何度も何度もあちしに「ありがとう」と言うんでちゅ。

「ど、どうちたんでちゅか? 何でいきなり『ありがとう』だなんて」

 あちしがそう言うと左右田君は鼻を啜り、あちしの頭を優しく撫で始めまちた。

「いきなりじゃねえよ。ありがとう、本当にありがとう。ウサミの御蔭で、俺達は仲良くなれた。絆が出来た――あの時と違う仲になれた」

 ――あの時?
 あの時って、一体何時のことでちゅか?
 まさか――いや、そんな筈無いでちゅ。そんな筈が。だって、皆さんの記憶は――。

「――記憶は消した筈って、思ってるだろ」

 考えていたことを言い当てられ、あちしは思わずびくりと身体を震わせてしまいまちた。あちしの反応で図星を指したことを確信ちたのか、左右田君は申し訳無さそうに謝りまちた。

「ごめんな、騙すようなことして。実は俺、最初から記憶消えて無かったんだ」

 ぽつりぽつりと、左右田君の口から真実が零れまちた。

「皆お互いのこと全然知らない素振りでさ、それに合わせて俺も初対面な振りしてたんだ。勿論、最初の時点で七海が部外者だって気付いてた」
「何で、黙ってたんでちゅか?」

 あちしがそう尋ねると左右田君は暫く黙り込み、怖々と口を開きまちた。

「全員絶望させてやろうと思ったから」

 左右田君の言葉に、あちしは身体が凍り付くような思いに駆られまちた。
 左右田君は皆さんを絶望させる為に、虎視眈々と毎日を過ごしていたんでちゅか?
 あちしがぶるぶると恐怖に震えていると、左右田君は慌てて訂正しまちた。

「最初の頃はそう思ってたけど、今は違うから! 何かさ、皆とわいわいやってたら楽しくなってきてさ。絶望してたあの頃より楽しくて――何かもう、絶望とか馬鹿らしくなっちまって」

 からからと笑う左右田君は、あちしの知っている明るくて元気な左右田君でちた。

「別に好きで絶望してた訳じゃなかったし、このまま皆と普通に仲良く出来るなら良いやって思って黙ってたんだけど――ウサミには感謝してるし、やっぱり言おうと思って何回もチケット使って誘ってたんだよ。結局今日まで言えなかった訳だけど」
「だから毎日誘ってきたんでちゅか」
「へたれでごめんな。拒絶されたらどうしようって思ったら怖くて」

 そう言って恥ずかしそうに笑う左右田君に、あちしは首を横に振りまちた。

「左右田君はへたれじゃないでちゅ。左右田君は勇気を出して、あちしに本当のことを言ってくれまちた。それはとっても勇気が要ることでちゅ。だから卑屈にならなくても良いんでちゅよ」

 あちしがそう言うと、左右田君は照れ臭そうに笑ってくれまちた。そして――左右田君は、ある歌を唄い始めまちた。


 仰げば尊し 我が師の恩
 教の庭にも 早幾年
 思えば いと疾し この年月
 今こそ別れめ いざ去らば

 互に睦し 日頃の恩
 別るる後にも やよ忘るな
 身を立て 名を上げ やよ励めよ
 今こそ別れめ いざ去らば

 朝夕馴れにし 学びの窓
 蛍の灯火 積む白雪
 忘るる 間ぞなき ゆく年月
 今こそ別れめ いざ去らば


 戦車内に響く左右田君の唄は、あちしの身体にも響いてきて、縫いぐるみなのに泣きそうになってしまいまちた。
 そんなあちしの頭を撫で、左右田君は泣いていまちた。でも、顔は笑っていまちた。

「ウサミ先生、ありがとうございました。こんな碌でもない、更正の余地無しと言われた俺達絶望を、最後まで見守ってくれて――ありがとう、ございましたっ」

 泣いている所為か、左右田君の声は凄く震えていて――あちしは左右田君の腕の中からぴょんと飛び出し、マジカルステッキを振りまちた。
 ぽんっ、という音と共に空中から一枚の紙が現れまちゅ。あちしはそれを掴み、紙を左右田君に渡しまちた。

「一日早いでちゅけど、卒業証書でちゅ。左右田和一君――絶望からの卒業、おめでとうございまちた」

 突然の出来事に左右田君は目をぱちくりしていまちたが、あちしの言葉で全てを理解したのか、号泣しながら卒業証書を受け取りまちた。

「ありが、とうっ、ござい、ますっ。一生、一生大事にするっ」
「左右田君、そう言って貰えるのは嬉しいんでちゅけど、島の外には持っていけないでちゅよ」

 あちしがそう言うと、左右田君は「あっ、忘れてた」と言ってあちしと顔を見合わせ、暫くするとからからと笑い始めまちた。あちしも釣られて笑いまちた。

「じゃあ、持っていけるように俺が向こうで機械造るぜ! 毎日見られるように! あとウサミの身体も造って、七海の身体も造ってやるよ!」
「左右田君が言うと本当に遣りそうでちゅ」
「遣りそうじゃなくて遣るんだよ」

 にやりと笑う左右田君は、やっぱりいつもの左右田君で――あちしはとっても安心しまちた。もうあちしに教えることは無いんだと、左右田君はもう大丈夫なんだと。
 絶望から人は立ち直れるんだと、あちしは素晴らしいことを学びまちた。

「左右田君、ありがとうございまちた」
「こっちこそありがとうございました、ウサミ先生」

 お互いに礼を言い合って、あちし達は笑い合いまちた。




 大丈夫、きっと大丈夫。未来は希望に溢れていまちゅ。希望は絶望に負けないんでちゅ。
 今は辛くても苦しくても、いつか報われる時が来るんでちゅ。未来を諦めない人には、必ず未来が来るんでちゅ。
 周りを見てくだちゃい。目をしっかり開けて、周りを見てくだちゃい。一人で悩まずに、誰かに助けを求めてくだちゃい。
 勇気を出して、一歩だけでも進んでみてくだちゃい。大丈夫、あなたは一人じゃないんでちゅ。周りには皆が居まちゅ。
 これから先、何が起こるか判りまちぇん。でもあなたなら、きっと明るい未来を掴める筈でちゅ。
 さあ皆さん、仲良く未来を生きていきまちょうね。
 らーぶらーぶ。

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