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「――で。この子は左右田和一本人で、お前はそれを助けただけと」
「はい」

 日向君に無理矢理服を着せられてホテルへ連行された僕は、皆が居る前で床に正座させられ、質問とは思えない尋問を受けて全てを話した。
 僕に付いてきた左右田君は、何が何だか判らない様子で僕の背中に引っ付き、皆から隠れるようにして様子を窺っている。とても可愛い。

「ふぅん、じゃあ狛枝は悪くないのか」

 奇跡的に僕の話を信じてくれたようで、日向君はそう言ってからウサミをじと目で睨み付けた。

「ウサミ、お前何かやらかしたのか」
「違いまちゅ! あちし何もしてまちぇん! きっと彼奴でちゅ、モノクマが何かやらかしたんでちゅっ!」

 ウサミはそう言ってステッキを振り回し、モノクマをぶっ飛ばしてやるでちゅ――と告げ、忽然と消え去った。その様子を見ていた左右田君が「手品?」と尋ねてきたので、僕は「そうだよ」と答えてあげた。
 どうやら左右田君は「魔法=手品」という解釈をし、この状況を納得出来る事象であると認識したらしい。
 まあ、それで構わないけどね。いやいや魔法だよ――なんて余計なことを言って、疑心暗鬼に陥らせたら怖いし。

「まあ、問題の解決はウサミに任せるとして――左右田のこと、どうする?」

 日向君はそう言って、僕の後ろに隠れている左右田君を見た。他の皆も左右田君に注目する。すると左右田君は身体をびくりと震わせて、僕を盾代わりにして完全に隠れてしまった。

「あ、あれ? 左右田?」

 まさか怖がられるとは思っていなかったのか、日向君は狼狽えながら左右田君に呼び掛ける。けれど左右田君は一向に動かず、僕の背中にくっ付いて離れない。
 ソウルフレンドと呼び合って仲良くしていた相手に怖がられたのが余程衝撃的だったのか、珍しく日向君が悲しそうな顔をしている。貴重だね。
 でも日向君が可哀想だな、何とかしないと。

「左右田君、彼は超高校級の――ちょっとまだ判らないんだけど――超高校級の人で、日向創っていう人だよ」
「ひなた、はじめさん」

 名前を復唱しながら左右田君は僕の後ろから顔を出し、日向君のことをじっと見据える。すると日向君は少し嬉しそうに、日向で良いぞ――と言って笑った。
 よしよし、良い感じだ。このまま皆を紹介していこうか。誰が誰かって判れば、左右田君の不安も解消されるかも知れないしね。

「彼女は超高校級のゲーマー、七海千秋さん」
「ななみ、ちあきさん」

 左右田君がそう言うと七海さんは、宜しくね――と言って微笑んだ。

「彼女は超高校級の写真家、小泉真昼さん」
「こいずみ、まひるさん」
「宜しくね、左右田君」

 小泉さんは子供好きなのか、いつもなら呼び捨てなのに「君」付けで名前を呼んだ。何だか新鮮だなあ。

「で、彼は超高校級の御曹司、十神白夜君」
「とがみ、びゃくやさん」
「ふんっ、小さくなろうが構わん。俺が正しい道へ導いてやる」
「なぁんて格好良いこと言ってるけど、渾名は豚足ちゃんなんだよっ。くすくすっ」

 横槍を入れるようにそう言ったのは――。

「――彼女は超高校級の日本舞踊家、西園寺日寄子さんだよ」
「さいおんじ、ひよこさん」
「左右田おにぃ――じゃないか、私より小さいもんね! あんなに凶悪な顔していたおにぃも、小さい頃は可愛かったんだねぇっ。まあ、それでも充分悪人面だけど。くすくすっ」

 息を吐くように並べ立てられた暴言に怯んだのか、左右田君はまた僕の後ろに隠れてしまった。

「日寄子ちゃん、和一ちゃん苛めちゃ駄目っす! 小さい者同士、仲良くするっすよ! むっきゃああああああああっ!」

 独特の奇声を発しながら西園寺さんを注意し、ヘドバンを始めたのは――。

「――彼女は超高校級の軽音楽部、澪田唯吹さん」
「みおだ、いぶきさん」
「唯吹ちゃんで良いっすよ、和一ちゃんぁっ!」

 そう言って澪田さんは突然此方に歩み寄り、僕の後ろに隠れていた左右田君を捕まえた。軽々と持ち上げられた彼は今、澪田さんに横抱き――所謂お姫様抱っこ――されている。

「にしし、捕まえたっすよぉっ!」

 あまりにも予想外の出来事過ぎて怯える間が無かったようで、左右田君は呆然とした様子で澪田さんに抱き締められている。

「ちっちゃい和一ちゃん可愛いっすぅぅっ!」
「小ささなら僕も負けてないよ澪田さん! 僕も愛でて欲しいな!」
「輝々ちゃんは駄目っす! 純粋さが足りないっす!」

 煩悩を垂れ流しにした表情で澪田さんと左右田君に迫ったのは――。

「――彼は超高校級の料理人、花村輝々君」
「はなむら、てるてるさん」
「んふふふっ、ショタっ子ボイスで名前を呼ばれるなんて堪りませんなぁっ! 是非ともその可愛い声で喘ぎ――」
「おいこらぁっ! 餓鬼相手に変なこと吹き込んでんじゃねえ! 指詰めさせんぞ!」
「やあぁぁんっ!」

 変態暴走まっしぐらだった花村君を一喝したのは――。

「――彼は超高校級の極道、九頭龍冬彦君」
「ご、極道っ?」

 極道というものが何なのか知っているのか、左右田君は今にも泣きそうな表情を浮かべ、澪田さんの胸に縋り付いた。
 子供故の役得というか、ちょっと羨ましいなあ。花村君も僕と同じことを考えているのか、羨望の眼差しを左右田君に向けている。

「餓鬼相手にどうこうするようなチンピラと一緒にすんな、何もしねえから脅えんじゃねえよ」
「その通りだ、坊ちゃんは意外に優しくて可愛いところも」
「ペコ、余計なことは言わなくて良い」

 九頭龍君に窘められたのは――。

「――彼女は超高校級の剣道家、辺古山ペコさん」
「ぺこやま、ぺこさん」
「――宜しく」

 辺古山さんは左右田君の頭髪を凝視しながら軽く頭を下げ、にやりと――多分本人は微笑んだつもり――笑った。案の定左右田君は怯えて涙目になっている。

「や、矢張り私は、小動物に嫌われる運命なのかっ」

 心底悔しそうに歯を食い縛る辺古山さんに、九頭龍君が「次があるさ」と慰めた。
 ナチュラルに左右田君を小動物扱いしていることについて突っ込みを入れるべきなのか――超高校級のメカニックでありツッコミである左右田君がこうなってしまった今、僕如きではどうすれば良いのか見当が付かないよ。

「がっはっはっはっ! 弩えりゃあ小さくなりおって、これは鍛え甲斐がありそうじゃのう! 儂のスペシャルトレーニングやってみるか! のうっ!」
「おおっ、俺の弟みてえだ! まあ俺の弟はもっとこう、可愛い面してっけどなっ!」

 僕が突っ込みの有無について考えている間に、澪田さんに抱きかかえられていた筈の左右田君が、とある巨大な体躯を持つ男子の腕にすっぽりと収まっていた。そして、あわあわと怯えている左右田君にちょっかいを出している女子も居る。
 その二人は――。

「――彼は超高校級のマネージャー、弐大猫丸君」
「応っ! 儂が弐大猫丸じゃああああああああっ!」
「で、彼女は超高校級の体操部、終里赤音さん」
「おっす! 俺赤音、宜しくな!」

 二人の大声且つ豪快な挨拶に畏縮したのか、左右田君は一言も返せずにぷるぷると震えている。今にも泣きそうだ、可愛い。じゃなかった、可哀想に。

「ふはっ! 魔犬の如き牙が既に生えているとはな。矢張り貴様は俺様に飼い慣らされる運命にあるようだ」
「わぁお! ぷるぷる震えている小さい左右田さんキュートです! まるでマカンゴの子供みたいですわ!」

 前から気になっているんだけど、マカンゴって一体何なんだろう。
 いや、それよりもこの二人を左右田君に紹介しなきゃ駄目だね。

「彼は超高校級の飼育委員、田中眼蛇夢君」
「違うぞ狛枝よ! この俺様こそは、不滅の煉獄にして箱庭の観測者。黄昏を征きし者、田中眼蛇夢だ!」
「で、彼女は超高校級の王女、ソニア・ネヴァーマインドさん」
「貴様っ、この俺様を無視す」
「小さい左右田さん、良きに計らってください!」

 田中君がストールで顔を隠してぷるぷるしているけど、まあ良いよね。

「左右田さん左右田さん、此方にいらっしゃりやがれです!」
「応、お前さんも左右田を抱っこしたいのか! がははっ、良かったのう左右田!」

 弐大君は豪快にそう言って、左右田君をソニアさんに手渡した。
 左右田君を受け取ったソニアさんは、まるで我が子を抱く母の如き神々しさを放っていて、一枚の絵画を見ているような気分でした。
 子供の感想文みたいだね、ごめん。

「ふふふ、可愛いです。良いではないか良いではないか」
「あ、あのぉっ」

 左右田君を弄くり回し始めているソニアさんに話し掛けたのは――。

「彼女は超高校級の保健委員、罪木蜜柑さん」
「つみき、みかんさん」
「あっ。えへへぇっ、宜しくお願いしまぁす――じゃなくてぇっ!」

 珍しくきりっと――当社比だけど――顔を引き締めた罪木さんが、怖々と左右田君を指差した。

「あ、あのぉっ。今の左右田さん――し、シャツしか着てないんじゃないですかぁっ?」

 あっ。

「そういえばシャツしか着せてないや」
「まあっ! 狛枝さんはド変態野郎だったのですね、打ち首獄門です!」

 本気なのか冗談なのか判らないことを言わないでよソニアさぁん。

「ご、誤解だよソニアさん。着せてあげられる物が無かったから、仕方無く」
「むっはぁぁっ! つまりこのシャツを捲れば、禁断の花園が待ってるんすね! ふがふがしますなぁっ!」

 いつの間にかまた左右田君にちょっかいを出し始めた澪田さんが、左右田君のシャツを捲ろうとしている。
 左右田君は捲られまいと、涙目で必死にシャツを押さえているけど――生足が! 股間は見えないけど生足が見えてるよ!

「唯吹ちゃん。止めてあげなよ、可哀想でしょ」

 小泉さんが澪田さんを窘め、左右田君の頭を優しい手付きで撫で始めた。

「男の子でしょ。泣かないの」
「は、はい」
「よしよし、それでこそ男の子だよ。じゃあマーケットに行こうか。服と――あと、靴も探さなきゃね」
「小泉さん! 私ソニアも出陣したい所存であります!」
「ん、じゃあソニアちゃんも――あっ、抱っこ代わろうか? 裸足の左右田君に熱い地面を歩かせる訳にもいかないし、私持つよ」
「いえ、左右田さんは私が直々に抱っこしてしんぜよう!」
「あはは、そっか。じゃあ行こうか」
「あ、あのっ」

 か細い声を上げた左右田君は、シャツの端をぎゅっと握り締め、縋るような視線を――何故か僕に向けた。
 ん?

「どうしたのかな、左右田君」

 僕がそう尋ねると、左右田君は何度も口を開閉させ――それから漸く意を決したように口を開き、こう言った。

「こ、狛枝さんも、一緒に来て欲しい、です」

 ――ん?
 えっ、僕も? 僕を御指名?
 何故かよく判らないけど、超高校級のメカニックである左右田君に指名されたら、断る訳にはいかないよね!

「あはっ、勿論だよ左右田君! こんな僕で良ければ何処へだって付いて行くさ」
「まあっ! 矢張り狛枝さんはロリペド鬼畜野郎だったのですね」

 違うよソニアさん違うよ。皆も変な目で僕のことを見ないでよ。
 あと花村君と澪田さん、仲間を見付けたかのような目で見ないで。僕は違うから、多分。

「と、兎に角、僕も一緒に行くからね」
「こ、狛枝さん」

 ん? どうしたのかな左右田君、まだ何かあるのかな。

「どうしたの?」
「あのっ、良かったら、その――抱っこして欲しいです」

 えっ。

「がぁぁんっ! ソニアショッキング! 左右田さんが狛枝さんに誑かされましたわっ、この泥棒猫!」
「いや、あの、狛枝さんは男だから、力が」

 左右田君がおろおろしながら理由を述べているけれど、ソニアさんの耳には届いていないようだ。
 というか皆の耳にも届いてないよ。何か益々皆からの視線が痛くなったし。
 何もしてないってば、僕は無実だって。左右田君の話を聞いてあげてよぉっ!

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