下
そうして胸を揉んだり乳首を捏ねたり抓ったりしながら、左右田君の希望溢れる肉体を蹂躙していると、突然彼が僕の頭を両手で包み込んだ。おまけに愛撫するように頬や髪を撫で、何かを訴えるような眼差しで僕を見詰めてくる。
一体どうしたのだろう。
「どうしたの?」
「きす、したい」
顔を紅潮させた左右田君が、息を乱しながら小さな声で僕に訴えた。何ていじらしい、何て愛らしいんだ! これが希望なんだね、希望なんだね!
僕は左右田君に伸し掛かり、彼の唇を擽るように舐めてみる。すると彼は鋭い目を更に細め、口を薄く開いて僕の舌を唇で食んだ。
ぐりぐりと口内へ舌を捩じ込むと、左右田君が積極的に舌を絡めてきた。僕の頭の後ろに手を回して引き寄せ、夢中で僕の唇を貪っている。
眼前に在る彼の、理性の吹っ飛んだ躑躅色の瞳がとても綺麗だ。希望という名の欲に溺れた、浅ましくも美しい姿。そんな彼を貫き、揺さぶり、穢している自分。
嗚呼――最高だよ! この刹那的で崇高で退廃的な美こそ、僕の求めていた希望だよ!
「っ、あ――こま、えだぁっ、もっ――もう、だめ、むりっ」
今にも死んでしまいそうな程に弱々しい声で、彼が鳴いた。
助けを求めるように、僕の身体に縋り付いてくる。多分、逝きそうなんだと思う。
彼の少し傷んだ躑躅色の髪を撫でながら、大丈夫だよ――と囁き、僕は一際強く彼の中を穿った。
「ひっ――う、あぁっ!」
その一撃が止めになったのか、彼は身体を戦慄かせて達した。それと同時に、彼の肉壁が僕の陰茎を締め付けてくる。
ただでさえ狭くてきつかったのに、そんなことされたら――。
「――ごめんっ」
僕は、左右田君の中で果ててしまった。
陰茎が脈打ちながら、精液をどくどくと吐き出しているのがよく判る。だって自分のなんだもの。
ああ、どうしよう。流石に中出しは拙いよ。でも、気持ち良くて動けない。
「中、熱い」
どうしようかと思いつつ中に精液を流し込んでいると、左右田君が自分の腹を撫で、僕を見ながらそう言った。
中に出したことを非難しているのかと思って謝ろうとした――その時、左右田君が僕の腰に絡めたままだった足を締め、ゆっくりと身動いだ。
「狛枝、もっとしてっ。まだ、足りねえ。なあ、狛枝ぁっ」
彼は淫猥な笑みを浮かべながら、僕を誘惑するように腰を揺れ動し、ぎゅっと中を締めて僕の陰茎を責め立てる。
こんなことをされて、拒否出来る訳ないじゃないか! 僕みたいな蛆虫野郎に、堪えるとか我慢なんて無理だよ!
「――左右田君、遣り過ぎちゃったらごめんね」
何の意味も理由も無い断りを入れてから、僕はまた彼の身体を貪った。
――――
媚薬の所為か、僕はかなり馬鹿になっていたような気がする。
何だかとても恥ずかしい思考で動いていた気がする。恥ずかしい。幾ら屑鉄以下の価値しか無い僕でも、羞恥心くらいはあるんだよ。
ああ、もしかしてこれが賢者モードってやつなのかな。凄く冷静だ。今なら謎解きゲームを余裕でクリア出来そう。ロシアンルーレットも軽くクリア出来るよ、多分。
隣を見る。皺だらけのシャツ一枚しか着ていない左右田君が、蹲るように体育座りをしている。
彼の股からは僕が中に出しまくった精液が垂れ出て、床に白濁の水溜まりを作り上げている。僕は一体、どれくらい出したんだろうか。
「――狛枝」
不意に左右田君が顔を上げ、僕のことを見据えた。元々顔が怖いから、怒っているのかよく判らないけど――多分、怒ってる?
「な、何かな」
「何かな、じゃねえよ」
苛立たしげにそう吐き捨てて、彼は僕を睨め付けた。ああ、これは間違い無く怒っているよ。間違い無い。
そりゃあ怒るよね。男に犯されちゃったんだもの。しかも左右田君は、ソニアさんが大好きな異性愛者。おまけに相手は、最低最悪の害悪である僕ときた。そりゃあ怒っても仕方ないよね。殺されたって文句言えないよ。
ああ、こんな罪を犯さなくても僕という人間は、殺されたって文句言えないんだけどね。だって僕はゴミ屑だもの。
「ごめんね。死ねって言うなら死ぬから、許して欲しいな」
「――は?」
左右田君の凶悪な顔が、更に凶悪になってしまった。怖いなあ。
「ああ、気分を害してしまったなら謝るよ。ごめんね。でも僕は本気だよ。君にとんでもないことをしてしまった僕は、生きていることすら許されないんだから!」
僕がはっきり言い切ると、左右田君は僕の両頬を抓んで左右に引っ張り始めた。
痛い、痛いよ左右田君! ああでも、これが君からの罰なら仕方ないよね。甘んじて受け入れるよ!
無抵抗の儘で暫く抓られていると、左右田君の顔が段々と近付いてきて――何故か僕はキスをされた。
あれっ? 何だろう、この流れ。
「い、生きていることすら許されないとか、勝手に決めんな。責任、取れよっ」
そう言うと左右田君は僕に撓垂れ掛かり、猫のような動きで胸に頬擦りをし、上目遣いで僕の目を見詰めてきた。
さっきまで鳴きに泣いていた所為で赤くなった目が、とてもいじらしくて愛らしい。
ごくりと、僕は生唾を飲んだ。
もしかしてこれは、七海さん的に表現すると――フラグが立った、ってことなのかな。キスされたし、責任取れって言ってるし。
「そ、左右田君。もしかして、その――責任取れっていうのは、付き合えってことなのかな?」
恐る恐る尋ねてみると、左右田君は顔を赤らめて目を逸らした。どうやら図星だったみたい――って、えっ? えっ? まじですか?
こんなゴミカスと付き合いたいってこと? 僕なんかと? えっ、えっ――何これ凄い。凄い幸運だよ! 希望に満ち溢れている幸運だよ!
僕みたいな誰からも愛されない系男子ナンバーワンが、超高校級のメカニック系男子オンリーワンである彼と付き合うだなんて! 烏滸がましいにも程があるけど、凄く嬉しいよ!
身体から始まる恋愛って、本当にあるんだね!
「そ、左右田君っ! 僕みたいな虫螻が君を幸せに出来るか判らないけど、命を賭して幸せにするよ!」
「命は賭けんな! 怖いからやめろ!」
「あはっ、優しいなあ」
「優しいとかそういう問題じゃねえっつうの!」
べしりと思い切り頭を叩かれたけど、幸せ過ぎて全然痛くなかった。
――――
僕はね、狛枝君をぱくぱくいっちゃおうと思って媚薬――勿論食材から抽出した合法的な物だよ――入りのクッキーを渡したんだよ。コテージに帰って食べるように言って、渡したんだよ。
なのにコテージへ行っても狛枝君は居ないし、生徒手帳も置きっぱなしになってて居場所検索出来ないし。僕の目論見は失敗に終わっちゃったんだ。
うん。僕の目論見は、失敗したんだよ。狛枝君をぱくぱくする目論見は。
レストランの端を見遣る。其処には妙に距離が近い狛枝君と左右田君が居て、睦まじく談笑を交わしながら夕食を食べている。皆はその光景を不思議そうに見ながら、何も言わずに食事をしている。
そりゃあ不思議だって感じるよね。昨日までの左右田君は、狛枝君のことを怖がって嫌っていたし。僕も一瞬、不思議に思ったよ。
でも、僕には判っちゃったんだ。二人の間に流れている「らぶらぶオーラ」ってやつをさ。
ほら、僕ってそういうの敏感だし。愛のカリスマシェフだからさ。それに――何となく、そうなった元凶が僕な気がするんだよね。
だってほら、狛枝君が僕の方をちらちら見て、小さくVサインしてるし。左右田君は左右田君で、僕のことを睨んできてるし。ああでも、怒りは感じられないから睨んでる訳じゃないのかも。
ああ――もしかしなくても、僕のクッキー食べたんだろうなあ。やっちゃったんだろうなあ、あの二人。
軍事施設を見に行った時、生徒手帳の表示では左右田君が居る筈なのに見当たらなかったのは、多分戦車の中に居たからなんだろうなあ。
其処で狛枝君と、むふふなことをしていたんだろうなあ――ああっ! 僕も混ざりたかった! 凄く混ざりたかった!
でもまあ――結果オーライってことで良いかな。二人が心身共に仲良くなれたんだしさ!
図らずも恋のキューピッドになっちゃったけど、これも愛のカリスマシェフが成せる技ってことで良いよね! 良いよ! 僕は悪くないよ!
だから日向君、何かを察したような眼差しで僕を見ないでくれるかな! 僕は悪くないよ! 悪くないんだってば!
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