アレには勝てなかったよ

 

 弐大猫丸は、とある男に目を付けていた。


 その男は常にぶかぶかのつなぎ服を着用し、体型が判り難い格好をしているのだが――超高校級のマネージャーである弐大は、その隠された肉体の素晴らしさに気付いたのだ。
 その男は超高校級のメカニックと呼ばれているのだが――メカニックと言えば、機械弄りしかしないインドアな人間に思われ易い。しかし機械弄りには腕力、体力も必要であり、貧弱な肉体ではやっていける筈がないのだ。
 日々鍛練に明け暮れる運動選手と同じように、男も日々機械と格闘し続け――超高校級のマネージャーの関心を引く程の肉体を、築き上げてしまっていたのである。


 そう、築き上げてしまっていたのである。


 あくまでも男はメカニック。機械弄りが専門な訳で、幾ら身体が運動選手向けであろうとも、運動選手に成る気など毛頭無い。
 なので男は、弐大が幾ら迫ろうとも、運動選手を目指すことを良しとしなかった。
 しかし、超高校級のマネージャーである弐大は諦めなかった。諦める筈がなかったのだ。
 マネージャーの使命は、素晴らしい選手をより素晴らしい選手にし、輩出することである。
 その使命を遵守している弐大が、素晴らしい選手になるかも知れない男を、見す見す逃がす訳がなかったのだ。




――――




「――応! 左右田、今日こそは儂と一緒にトレーニングじゃああああああああっ!」
「嫌だっつってんだろ! 俺は愛しの機械ちゃんとランデブーするの! お前とトレーニングなんてしてる暇はねえの! そんなにしたけりゃ、終里としてろ!」

 諦めるという言葉が脳内辞書に無い弐大は、今日も今日とて超高校級のメカニック――左右田和一を勧誘し、トレーニングという名の拷問に掛けようとしていた。
 毎日々々よくも飽きないなと、周りの人間が呆れを通り越して感心し始め、目撃しても誰も気にも留めなくなってしまい――最早この勧誘と拒絶は、皆の日常の一部と化し始めている。
 左右田にとっては、こんな日常堪ったものではないが。

「墳っ! 終里は既にトレーニング済みじゃあっ! だからお前さんのところに来たんじゃああああああああっ!」
「う、うっせうっせ! 声でけえんだよ、もうちょっと音量下げろ!」
「無っ? すまああああんっ!」
「だからでかいって!」

 ああもう――と言って頭に被ったニット帽を握った左右田は、自身の寮部屋へ戻ろうと歩き始めた。愛しの機械ちゃんの下へ行く為に。弐大から逃げる為に。
 しかし弐大は諦めることを知らない男なので――左右田の後を付いてくる。左右田が歩みを速めると、弐大も歩みを速めた。左右田が走り出すと、弐大も走り出した。

「おまっ、付いてくんなよ!」
「墳っ! これもまた良いトレーニングじゃああああああああっ!」
「違うっつうの! トレーニングじゃねえっつうの!」

 ぎゃんぎゃんと吼えながら全力疾走する左右田だが、弐大は余裕でその後を追っていた。
 流石は超高校級のマネージャー。あらゆる運動選手に付き添いトレーニングをしてきただけあり、走り込みをしていないメカニックの全力疾走に、余裕で付いていっている。

「付いてくんにゃああああああああっ!」
「良いぞ! その調子じゃああああああああっ!」
「だからトレーニングじゃないってばああああああああっ!」

 左右田は何とか振り切ろうとしているが、足の速さも体力も弐大の方が圧倒的に上なので、全く振り切ることが出来ず――段々と、左右田の体力がやばくなってきた。
 彼の名誉の為に言っておくが、左右田の体力が少な過ぎる訳ではない。
 世界で一番広大な学園とも言われている希望ヶ峰学園内を、隅から隅まで走り回り、それでも余裕で笑っている弐大の方が異常なのである。

「も――もう駄目、死ぬっ。死ぬぅっ」
「無っ? 何じゃ、まだ二時間しか走っとらんぞ」
「うっせ、二時間、走りゃあ、充分、だっつうのっ」

 ぐったりと地面に――現在二人は学園内の校庭に居る――へたり込んだ左右田は、その悪人面を最大限に活かし、恨めしそうに弐大を見上げた。

「疲れた、もう、動けない」

 そう言ってから左右田は俯き、はあはあと荒い呼吸をし始める。そんな様子の左右田に少しだけ――ほんの少しだけ申し訳無さを覚えた弐大は、とんでもないお詫びの仕方を閃いた。いや、閃いてしまった。
 閃いてしまった弐大は、へたり込む左右田を軽々と抱き上げ――所謂お姫様抱っこで――とある場所へ行く為に、校庭内を歩き始めた。
 今日は授業の無い休日。休日の校庭内には予備学科の生徒や、同級生や下級生の超高校級達が、散歩に来て居たりする訳で――。

「――まあ! あれがジャパニーズビーエルですか? 素晴らしいですわ! 萌え萌えきゅんきゅんきゅいんです!」
「ふはっ! 雑種よ、無様なものよのう! また猛々しき魔猫から逃れられなかったようだな!」
「きゃははははっ! 先輩ってばお姫様抱っこされてるぅっ、超絶望的っすねぇっ!」
「うわっ。左右田さん、また捕まったんすか! デビルついてないっすね!」
「あはっ、その不運がきっと幸運を――ああ、左右田君はメカニックだったね。ごめん、頑張ってね」

 目撃者達から、好き勝手に言われまくる拷問を受ける羽目になるのである。
 しかし体力を限界まで使い切った左右田に、言い返す元気がある訳もなく――只管に耳を塞いで現実逃避し、弐大に身を預けることしか出来なかった。何とも哀れである。
 扨。そんな拷問を受けながらも目的地――弐大の寮部屋――へ辿り着いた弐大は、左右田を抱いたまま扉を開け、部屋に据えられた寝台へ左右田を放り投げた。

「ぎにゃあっ! くぅぅっ、もっと優しく投げろよっ」
「投げるのは良いのか? 相変わらず面白い奴じゃのう!」
「う、うっせうっせ! つうか温和しく連れて来られちまったけど、一体何する気だよ」

 今日までは、弐大が左右田の部屋まで左右田を運び、部屋の寝台へ左右田を放り投げて退散――というのがお決まりの流れだったのである。
 それが何故か今日は、左右田の部屋ではなく弐大の部屋だ。そのことが左右田に疑問を持たせたのである。
 そんな疑問符だらけの左右田に、弐大は豪快に笑い、指をばきばき鳴らしながら歩み寄った。

「そろそろお前さんにもアレしてやろうと思ってのう」

 人好きのする爽やかな笑みを浮かべる弐大に対し、左右田は顔面蒼白になって頭を左右に振りまくった。

「いや、いやいやいや! アレって何だよ! 終里にもしてるみてえだけど怪し過ぎんだろ! 何なのか判らねえし!」
「されてみれば判るぞ!」
「怖いっつうの! やだよ! そんな怪しいの!」
「――ええい、良いから全裸になれええええええええいっ!」
「ぎにゃああああああああっ!」

 色々思考するのが面倒になった弐大は、嫌がる左右田を押さえ込み、無理矢理つなぎ服を脱がし始めた。
 端から見れば強姦寸前にも見えるのだが、不幸にも場所が場所なだけに誰も止める人が居ない。なので、左右田はあっと言う間に丸裸にされてしまった。
 圧倒的な筋力差と体格差に、左右田は完全敗北してしまったのである。

「ほう、やはり良い身体をしとるのう!」
「ひ、ひぃぃっ! お前両刀かよ! やだ、俺はそんな趣味ねえって!」
「無っ? 何を言っとるか判らんが、とりあえず俯せになれ」
「なっ、何がとりあえずだよ! 巫山戯んな! 最初からクライマックスじゃねえか!」
「ぬああああああああっ! ごちゃごちゃ五月蠅ああああああああいっ! さっさと俯せにならんかああああああああっ!」
「り――理不尽だっ」

 弐大の一喝によって左右田は色々諦めたらしく、ぐすぐす泣きながら俯せに寝転んだ。
 死ぬまで恨んでやる、ずっとねちねち言ってやる、などと呟いている左右田に構うことなく、弐大は左右田に伸し掛かった。そして太くて固くて大きい――親指を左右田の背中に押し当て、ぐりぐりと抉るように捩じ込み始める。
 刹那、左右田の身体に、凄まじい快感と甘美な痛みが駆け抜けた。
 気持ち良い。気持ち良過ぎる。気持ち良過ぎて――。

「――あぁぁぁっ、らめぇっ、にらいぃっ、りゃめぇぇっ――あひゃま、おきゃひきゅにゃりゅうぅぅっ」

 左右田和一は、男としてアウトなアヘ顔を晒しながらアウトな言語で、アウトな発言をぶちかますこととなってしまった。
 しかし弐大はこういうものに慣れている為――男女問わず大半の人間が弐大の指圧でこうなるので――特に反応を示すことなく、マイペースにマッサージを繰り返している。

「あぁっはぁっ、らめぇっ――しょりぇはぁっ、くしぇにぃっ、にゃっちゃうぅぅっ! んあぁぁっ!」

 ぐりっと良いところを揉まれる度に、左右田は白目を剥いて涎を垂らし、嬌声を上げて身体をびくびくと痙攣させた。
 端から見れば地獄絵図なのだが、突っ込み不在な二人きりの部屋では、誰も咎める者が居ない。正に絶望的である。

「がっはっはっはっ! どうじゃ、儂のアレは最高じゃろう!」
「し、しゃいこうれしゅうぅぅっ! もうっ、もうしゅきにしてぇぇっ!」

 指圧開始から約十分。元々ちょろい左右田の精神は、弐大の指圧によって完全に堕ちてしまった。本当にちょろい男である。

「墳っ! これからも儂とトレーニングするんじゃぞ!」
「しましゅうぅぅっ! しまひゅかりゃ、もっとぐりぐりしてぇっ!」
「がっはっはっはっ! もうアレの虜になったか! これからもトレーニング後にやってやるからのう!」
「あっ、ありがとうごじゃいまひゅうぅぅっ! んあぁぁぁぁっ!」

 本当に、ちょろい男である。




 それから左右田は弐大のトレーニングに付き合ってやるようになったのだが、弐大の部屋でアレをして貰う度に左右田が凄まじい喘ぎ声を上げるので、その声を聞いた人間が誤解し、二人は出来ているとか絶倫だとか、在らぬ噂を立てられ始めるのだが――それはまた、別の話である。

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