痛いくらいに乳首を捏ねくり回しやがるから、いつかもげてなくなるかも知れない。なくなったら狛枝の乳首を噛み千切ってやる、畜生。
 なんて馬鹿なことを考えている間に、狛枝のむかつくくらいに端正な顔が、笑顔を貼り付けながら俺の顔に近付いてくる。
 釣られて俺も笑ったら、狛枝が俺の口に喰らい付いてきた。遠慮も躊躇もなく舌が入り込んできて、歯肉を舐めたり舌に絡んできたりしてくる。

「んぅっ! んんっ、んっ――ん、ふぅっ」

 性感帯をがつがつ抉られて、乳首をぐりぐり捏ね回されて、おまけに口内まで滅茶苦茶にされて――もう駄目だ、意識が飛びそう。
 目の前がちかちかしている。頭の中が真っ白だ。何だか宙に浮いているかのような浮遊感まである。これは拙い、逝きそうだ。

「んぅぅ――っはぁっ、こまえらぁっ――もう、いくっ、いっちまうぅっ」
「一緒に、逝こう?」

 鬼畜の癖に、俺のことを愛おしむように言ってくるものだから――くっそ、むかつく。
 むかつくくらいに、此奴が好きだ畜生ぉっ!
 狛枝の背中に腕を回し、爪をぐっと食い込ませてやった。と言っても爪はこまめに切る方なので、殆ど刺さりはしないのだが――ほんの少しの抵抗というやつである。このまま流されるなんて、悔し過ぎるではないか。

「くっ、そぉっ、狛枝の――」
「愛してるよ」

 馬鹿――と言う前に狛枝がまた俺の口を口で塞ぎ、一際強く中を穿ちやがった。乳首も千切る勢いで抓りやがるし、痛くて痛くて――気持ち良くて、意識が一瞬掻き消える。
 死にそうなくらいに、気持ちが良い。

「っぅあぁっ――あ、あぁぁっ」

 自害したくなるくらいの情けない悲鳴を上げて、俺は達してしまった。自分の陰茎がだらしなく精液を吐き出しているのが、嫌と言う程によく判る。
 しかし狛枝は、俺が逝っている最中も性感帯をごりごり突いてきた。射精の快感と突かれる快感で、理性やら意識が吹っ飛んでしまいそうになる。

「はぁぁっ、あぁ――逝ってるかりゃ、突かにゃいれぇぇっ」
「そんなこと言われても、僕も余裕ないんだよ」

 珍しく切羽詰まった様子の狛枝が、余裕も何もなく只管に腰を俺に打ち付けていた。
 あまりにも強く打ち付けてくるものだから、肌と肌がぶつかり合い、ぱんぱんという乾いた音が部屋の中を反響している。
 激し過ぎて、全身を思い切り揺さぶられているような感じがしてきた。射精したばかりなのに、また何かが来そう。死ぬ。

「あ、やらぁっ――また、またくりゅうっ――こまえらぁっ、やめ、止まってぇぇっ」
「あはっ、また逝きそうなの? 逝っちゃいなよ」

 俺が死にそうだと言うのに、この鬼畜野郎!

「ひ、死んじゃう、こまえらぁぁっ」
「死なないよ」
「ひぬ、死ぬって――うあぁぁっ」

 ごつりと。腸に穴を空ける気かと思うくらいの勢いで、狛枝が性感帯を穿ってきやがった。しかも同じ場所を、何度も何度も正確に突いてきやがる。
 全身が絶え間なく戦慄いて、快楽の海に溺れて死んでしまいそうだ。駄目だ、逝く、死ぬ。

「ひぐっ、うぁっ――こまえりゃぁっ、あっ――あぁっ!」

 気絶しそうになる程の快楽が、腹の中で爆発して脳を貫いた。射精はしてない、そんな感覚はない。なのに、射精するより気持ち良くて――。

「――あれ、もしかして空逝きしたの? 初だね、おめでとう」

 狛枝が何かほざいているが、訳が判らない。空逝きって何だよ。そんなことよりも、がくがくと狛枝に揺さぶられて、身体がふわふわと浮かんでしまいそうだ。

「ねえ、左右田君。僕も逝きそうなんだけど――中に、出して良い?」

 答えなんて判り切っているのに、何で毎回態々聞いてくる。
 そうやって俺の羞恥心を削り取っていくつもりなのか。ああ、お前の目論見は成功しているぞ。だって俺はもう――。

「――出して、狛枝ぁっ」

 悔しいくらいに、お前の思い通りに開発されているからな。泣きそうだ。
 俺の了承を得た狛枝は嬉しそうに微笑んで、俺の中へ根元まで陰茎を押し込み――奥の奥に精液を吐き出した。
 びくびくと痙攣している陰茎の動きや、吐き出されている精液の温もりを体内で感じる。俺はゆっくりと息を吐き、その感覚に身を浸した。
 狛枝には言っていないし、これからも言うつもりはないが――この瞬間が一番好きだったりする。快楽に堪え切った達成感と、狛枝としたという満足感が得られるからだ。
 ただ、後処理がとても面倒臭いのだが――仕方ない。欲望には勝てないのである。

「左右田君、気持ち良い?」

 俺の中に精液を流し込みながら、狛枝が蕩けた表情で尋ねてきた。
 何故過去形じゃないのだ、中出しされて気持ち良い訳がないだろう。でもまあ、気分は良いので頷いてやる。
 すると狛枝が俺の唇を優しく啄み、労るように頭を撫でてきた。このパターンは判っている。いつものあれだ。

「ねえ、もう一回しても良いかな?」

 ほらな、やっぱりだ。此奴はもう一回したくなると、妙に優しく触ってくるのだ。
 俺に負担を掛けてしまうという罪悪感からか、それとも俺を懐柔して了承させ易くする為か、将又別の理由なのか――どれが真実なのかは全く判らないが、俺の取るべき行動は決まっている。
 そっと手を伸ばし、狛枝の髪を梳くように撫でてやった。

「良いに決まってんだろ、馬鹿枝」

 歯を見せ付けるように笑い掛けてやると、狛枝は再び腰を振り始めた。




――――




「腰が超痛え」

 翌日の朝。何とか寝坊せずに起きることが出来た俺達は、軋む骨と関節に鞭を打ちながら風呂に入り、身支度を整えて授業に出た。寮と学園の距離は近いので、本当に有り難い。
 休めば良いじゃないかという意見もあるだろうが、授業だけは死んでも休みたくないのである。
 勉学というものは日々の積み重ねが大事なのであり、一分一秒でも抜けてしまうと知識の質が落ちてしまうので絶対に嫌――。

「――大丈夫?」

 がり勉思考に堕ちかけていると、狛枝が心配そうに声を掛けてきた。男役だった此奴は、女役だった俺よりは疲労していないので、比較的平気な様子で立っている。
 因みに今は授業の合間にある休み時間というやつで、教室を彷徨こうが便所に行こうが構わない、自由な時間だ。
 俺は腰が痛いので、椅子に座って机に上半身を預けていることしか出来ないが。誰かの所為でな!

「大丈夫に見えるか?」
「見えないね、ごめん」

 困ったように笑いながら、狛枝が俺の腰を擦ってきた。おい。

「お前、いきなり変なとこ触ってくんなよぉっ」
「何で?」
「何でって、そりゃ――皆にばれたらどうすんだよ、俺達のこと」

 学生の身であり、且つ同性同士であんなことをしているなどと皆にばれたら――ああ、ぞっとする!
 愛しのソニアさんに「気持ち悪い」なんて言われでもしたら、それこそ自害しなくてはならなくなる。もう、生きていけない!

「良いじゃない、ばれたってさあ」
「おまっ、お前なあ――」
「大体さ、もう皆知ってるよ? 僕達の関係」

 ぴくりと、頬の筋肉が引き攣った。

「は、はい? 今、何と?」
「だぁかぁらぁ、皆知ってるんだってば。僕達の関係」

 えっ、えっ――えっ?

「か、関係って」
「僕達が付き合ってるってこと。まあ流石に、毎晩のようにしていることは知らないだろうけど」
「えっ、何で? 何で?」
「何でって――左右田君、自覚ないの?」

 自覚とは、一体何のことだ。
 俺は一体、何を自覚していないと言うのだ。

「その様子だと、本当に自覚がないんだねえ」

 呆れたように溜め息を吐き、狛枝が勿体振って言葉を溜める。

「あのねえ――毎日のようにソニアさんに付き纏っていた君が突然僕とべたべたし始めたり、僕が傍に寄って来ただけで嬉しそうにしたり、僕がこうして触れるだけで――そんなに厭らしい顔をしていたら、そりゃあばれもするでしょ」

 厭らしい、顔?

「おまっ――このっ――こっ、ここっ――こまっ――こままっ」
「落ち着こうよ左右田君、壊れたボイスレコーダーみたいになってるよ」
「う、うっせうっせぇっ! 俺はっ、俺はぁっ――お前のことなんか好きでも何でもねえんだかんなぁっ!」

 叫んでから、後悔した。
 此処、教室じゃないか。
 関節が錆びた機械のように、ぎこちなく辺りを見渡す。教室に居た全員が、俺を見ている。
 生温かい目で。生温かい目で!

「おんやぁ? 凪斗ちゃんと和一ちゃん、痴話喧嘩ってやつっすかぁっ!」

 空気の読めない澪田が、俺に止めを刺すような言弾を撃ち込んできた。
 今すぐ逃げたい。逃げ出したい。もう授業とかどうでも良いから逃げ出したい!
 でも、腰が痛くて動けない!

「痴話喧嘩じゃないよ。あれだよ、あれ」
「ああ、あれっすか!」

 あれって何だよ!

「くっそぉっ――馬鹿枝ぁっ、あれってなんだよぉぉっ」

 どうやら俺は半泣きらしく、吃驚するくらいに涙声だった。そんな俺を見た狛枝と澪田は、お互いの顔を見合わせてから――俺に向かって宣いやがった。

「ツンデレだよ、左右田君」
「ツンデレっすよ、和一ちゃん!」

 二人の顔は、むかつくくらいに爽やかな良い笑顔だった。
 俺は、俺は――。

「――つ、ツンデレじゃ、ねえよぉぉぉぉっ」

 叫ぶ気力もなくなった俺は、被っているニット帽の端を掴み、ぐいと引き下げて顔を隠すことしか出来なかった。

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