冒涜的な希望の始まり
希望に溢れた学園生活を送る中、僕は彼に惜しみない愛を与え続けた。
毎日口付けを交わし、傍に寄り添い、愛を囁いて、彼に愛を注ぎ込み続けた。
最初はあまり反応してくれなかった彼だったが――次第に、反応が変化してきた。
今まで目を開けたままだったのに、キスをする時に目を瞑ったり。
今まで無反応だったのに、傍に寄るだけで挙動不審になるようになったり。
今まで興味深そうに聞いていただけなのに、愛を囁くとはにかんで笑うようになったり。
段々と人間らしく、人間のような反応をしてくれるようになったのだ。
もしかして、彼はもう――。
「――左右田君」
ぎしりと、ベッドを軋ませて彼を押し倒す。彼は驚いて目を丸くし、次の瞬間には顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「こっち向いてよ」
耳元で囁いてあげると、彼は身体を震わせて、恐る恐る僕の方へ顔を向けた。中身は真っ黒なのに、真っ赤な林檎みたいで愛らしい。
「恥ずかしがらなくて良いんだよ。階段を一段、上がるだけなんだから」
そっと彼の胸を撫でると、見る間に彼の全身が液状化していき――ベッドが真っ黒に染まってしまった。
「左右田君、人型に戻ってよ」
「てけり・り」
液体がずるずると形を整え、彼の頭が液体の中から生える。僕は彼の頭を撫でて、ぎゅっと抱き締めた。
「大丈夫だよ、これは『愛』を知る為の儀式なんだから」
「で、でも」
「僕とするのは嫌?」
寂しさを込めて呟くと、彼は全身を泡立たせながら頭を左右に振る。
「いっ、嫌じゃない。狛枝となら――恥ずかしいけど、したい」
黒い液体がごぼりと泡を吹き、煙草臭い匂いを漂わせた。彼は少しずつ身体を人型に戻していき、そして――全裸姿の彼になった。
準備万端な彼に応えるべく、僕も自分の服を脱いでいく。彼は顔を赤くしながら、僕をちらちら見ては目を逸らした。
一緒にお風呂へ入ったことがあるのに、何て初な反応なのだろう!
「――左右田君」
服を脱ぎ終わった僕は、全裸になった。彼と同じ、一糸纏わぬ無防備な姿に。元々彼は全裸のようなものなのだが――まあ、そこは気にしない。僕は服を床に放り投げた。
「あ、えっと、狛枝ぁっ。今からその――セ、セックス、するんだよな?」
「うん」
にっこり笑ってそう言うと、彼はもじもじと足を擦り合わせて、様子を窺うように僕を見る。
「あの、男のままじゃあ駄目かと思って――」
恐る恐る足を開いた彼の股間には、女性器のそれが存在していた。
「お、男のままが良かったか?」
そうならすぐに変えるけど――涙目でそう言う彼を、僕は押し倒した。勢い余って液状化すると思ったが、彼は固形のままベッドにぼすりと沈む。
「そんなことないよ、このままで良い」
「じゃ、じゃあ、胸も在る方が良いか?」
彼は自分の胸に手をやり、男性特有の俎板な胸を撫でた。
「其処までしちゃうと、君じゃないみたいでやだな」
「そ、そっか」
えへへと照れ臭そうに笑う彼が愛おしくて、僕は彼の胸に手を這わせ、指の腹で片方の乳首を捏ね回してみる。すると彼はぴくりと身を震わせ、僕の背中に腕を回して抱き付いてきた。
「く、擽ったい」
眉を八の字にして、彼が僕に訴える。だけど僕は捏ねるのを止めず、もう片方の乳首を口に含み、舌先で弄ぶようにそれを転がした。
「や――やだっ、狛枝ぁっ」
拒絶を口にしても、彼は僕を押し退けようとはしない。彼の力ならば、それは容易い筈なのにだ。それはつまり――良いということなのだ。
ちゅうっと音を立てながら吸い上げ、乳首を優しく甘噛みし、舌で先端を撫で回す。たったそれだけの行為なのに、彼は身体を戦慄かせて甘ったるい吐息を漏らした。
「やだってば、狛枝ぁっ」
掠れた声で小さく呟くと、彼は縋り付くように僕の頭を抱き締める。ふるふると震える彼の指が、僕の髪を梳くように撫でた。
「や――形、保てなく、なるっ」
彼がそう言った瞬間、頭にどろりとした生温かい液体が降り掛かる。僕の後頭部から髪を伝い、べとりと彼の胸へ落ちた。
彼の手だった液体が、彼の胸の中に沈んでいく。それをじっと見守っていると、彼の胸は先程と変わらない物に戻った。
「ご、ごめん。何か気持ち良くて、形が維持出来なくって」
申し訳なさそうに謝る彼に、僕は怒っていないことを教える為、にこりと笑って彼の頭を撫でる。
「気持ち良かったのなら、僕は嬉しいよ。大丈夫、喩え君の身体が液状化しても――最後まで、愛してみせるから」
そう言って僕は彼の内腿を撫で、未だ嘗て触れたことのない――彼の恥部へと手を伸ばした。ぬるりとした、彼の中身とはまた違う滑りを感じる。
「あ、あっ――こっ、狛枝っ、駄目っ――あ、あんまり、弄らないでっ」
弄らないでと言われても、弄らないと挿れられないじゃないか。僕は彼の意見を無視し、女性器の形をした穴に中指を挿れていった。
ぎゅうぎゅうと締め付けてくる熱い肉壁を撫で、指を奥へ奥へと押し進めていく。流石不定形と言うべきか、中はとても柔らかかった。
これなら解さなくても大丈夫そうだ。僕は指を引き抜いて身体を起こし、彼の両足を掴んで股を開かせる。
露わになった彼の恥部は、透明な液体が光っていて、とても綺麗だった。
「じ、じっと見んなよぉっ」
「あはっ、ごめんごめん」
恥ずかしさのあまりに液状化しつつある彼の足を持ち上げ、恥部を挙上させる。ちょっと舐めてみたいけど、それをしたら確実に彼は溶けてしまうだろうから我慢しよう。
慣れていってから、すれば良いのだから。
「こ、狛枝ぁっ――そ、それ」
「ん?」
彼が半分溶けた手の指先で差したのは、僕の陰茎だった。彼に夢中だった所為で気付かなかったが、完全に勃起して天を仰いでいる。
触ってもいないのにこうなるなんて。どうやら僕は、自分が思っている以上に淫らな男のようだ。
「そ、そんなになってるってことはさ――俺で、欲情してるってことだよな?」
融解しかけの真っ赤な顔で、彼がはにかみながら僕を見る。僕は微笑を湛えて、うん――と返事をした。
すると彼は、照れ臭そうにどろどろの頬を掻き、僕を見ながらにこりと笑う。
「何かさ、嫌だけど嫌じゃないっつうか。お前になら、何をされても良いっつうか――よく判んねえけど、もしかしてこれが『愛』ってやつなのかな?」
首を傾げながら尋ねてくる彼へ、僕は笑顔を絶やさずに答えた。
「うん、それがきっと愛だよ」
僕がそう答えると、彼は蕩けた笑みを浮かべ、鼻にかかったような声で甘く囁く。
「狛枝、欲しい。お前が――欲しい」
ゆらゆらと誘うように腰を揺らしながら、彼がじっと僕を見詰めている。いや、誘っているのだ。僕を、僕が、欲しいと――。
「――左右田君」
彼の恥部に、陰茎を宛行った。緊張の所為か、彼の身体が少し強張る。
僕は彼に微笑みかけ、大丈夫だよ――と言いながら、ゆっくりと陰茎を彼の中に沈めていった。
液体のようで固形な肉壁が熱く畝り、僕の陰茎に絡み付いてきて愛撫する。優しくも力強い圧迫感に快感を覚えながら、僕は陰茎を根元まで中に挿れた。
僕の肌が彼の肌に触れ、ぴったりと密着する。彼は小さく息を吐き、嬉しそうに微笑んだ。
「ふ――へへっ、狛枝のこと、食べちまった」
きゅうっと中を締めながら、彼は僕に向かって手を伸ばす。抱っこを強請る、子供のように。早く抱いて、抱き締めてと言うように。
僕は彼に伸し掛かり、彼の柔らかい身体を抱き締めた。彼もまた僕を抱き締め、深く深く身体が重なり合う。
ウォーターベッドのような感触を味わいながら、ゆっくり腰を動かして彼の中を穿った。肉壁を突き上げる度に、彼は身体を震わせて喘ぎ声を漏らす。
「んっ、あぁ――こま、えだぁっ」
どろどろに溶けてしまった彼の両足が、僕の背中に纏わり付いてきた。身体が彼の中身に包まれていき、本当の意味で一つになったような気分になる。
このまま彼に取り込まれるのも、悪くないかな――なんて思いながら、辛うじて人の形を維持している彼の顔に自分の顔を寄せ、彼の唇に食むようなキスをした。
「んっ、もっと」
ずぶずぶと、身体が彼に飲み込まれていく。
身動きすら出来ない中、自由な頭を動かして、彼の口内に舌を捩じ込んだ。ほろ苦く、甘い彼の唾液を舌に絡ませて、彼の舌を撫で上げた。
「は、ぁっ――狛枝、狛枝ぁっ」
彼の中身が波打って、ぴくりとも動けない僕の陰茎を扱き上げる。熱くて柔らかい感触が堪らなくて、腰が疼いて仕方がない。
彼を蹂躙したい、ぐちゃぐちゃにして、中身を暴きたい。
彼の身体に覆われた腰を無理矢理動かし、ぐりぐりと陰茎で中を掻き混ぜた。腰を振る度に彼は、人には発することの出来ない名状し難い声を上げ、身体を泡立たせて身悶える。
「――っ、あ、狛枝っ――す、き」
もう顔以外溶け切って、真っ黒な液体と化している彼が、泣きそうな表情を浮かべながら囁いた。
「す、き――好き、だ――狛枝、好きだぁっ」
真っ黒な彼の中身から、人間の手が生える。その手は僕に向かって伸び、愛おしむように優しく、僕の頭を撫でてきた。
きゅうと、彼の中身が僕の陰茎を締め付ける。
もう、限界だった。
「左右田君、僕も好きだよ」
彼の口を塞ぐような深い口付けをして、僕は彼の中に射精した。
どくどくと彼の中に精液を流し込み、僕は満足感と快感に打ち震える。彼はくぐもった嬌声を漏らしながら身体を痙攣させ、僕の口付けを受け入れて舌を絡ませてきた。僕も彼に応える為、舌を絡ませて愛撫する。
長いようで短いような時間を、一つになったまま過ごしていると――彼が完全に融解してベッドに広がった。
最早人間の形は何処にもなく、完全なる黒い液体と化している。僕の身体を包んでいたものまで剥がれたので、少し肌寒い。
そんな彼が不定形の身体を伸ばし、僕の身体を再び包み込む。ぬるぬると液体が人型に変わっていき、彼は人間の姿に戻った。僕の身体を抱き締め、甘えるように擦り付いてくる。
「狛枝、好きだ。もっとしたい、一緒に居たい。これが『愛』なんだよな?」
彼が上目遣いで、僕を見詰めた。じっと、期待するように。確信した様子で。僕のことを見詰めている。
嗚呼、そうだよ。それこそが僕の求めていた――。
「――愛だよ、左右田君」
そう囁いて、僕は彼を優しく抱き締めた。
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