パンツ交換が普通に行われている怖い世界 in 南国

 希望ヶ峰学園は、あらゆる分野の天才達が集う場所である。
 俺自身も――才能は思い出せないが――その学園へ入学した、何かの天才なのだと思う。
 天才というものは何かに秀で、誰よりも優秀な存在だ。それは事実であり、揺るがぬ才能である。
 しかし、昔から「天は二物を与えず」というもので――。

「左右田さん、漸く『希望の欠片』をコンプリート出来ましたね! 私、感激ですわ!」
「俺もですよソニアさぁんっ! ソニアさんのことを知れて、超嬉しいです!」
「では、早速!」
「はい!」

 ――俺の目の前で、ソニアと左右田が互いのパンツを交換していた。
 そう。天才達は、天才的に常識がなかったのである。

「――お前等、一体何をしてるんだよ」

 俺が軽い眩暈を覚えながら問うと、二人は不思議そうに首を傾げた。

「パンツ交換ですよ?」
「見て判んねえのか?」

 何言ってんだ此奴と言わんばかりの目で見られ、俺の中の何かが壊れそうになる。

「み、見て判るから聞いてるんだよ! 可笑しいだろ、何でパンツなんか交換するんだよ! まさか――穿くのか?」

 思い付いたままにそう言うと、二人は顔面蒼白になり、何故か俺から距離を取り始めた。

「そ、そんな恐ろしい発想が出るなんて――私、これから日向さんと距離を置かせて戴きます」
「流石にそれはないぜ日向ぁっ、その発想はやべえよ」

 何で其処まで引かれなきゃならないんだ。

「ち、ちょっと聞いてみただけだろ! 本気で思ってないし、俺にそんな趣味はない!」

 このままでは拙いと思い、慌てて弁解すると、二人はほっとした様子で胸を撫で下ろす。

「もう、びっくらこいてしまいましたわ。日向さんはお茶目なあん畜生ですね!」
「ああ、良かった。日向ぁっ、あんま俺を怖がらすなよぉっ! まじでびびったんだかんな!」
「ご、ごめんごめん。でもさ、そのパンツ――どうするんだ?」

 未だに解けない疑問を尋ねると、二人は至極当然とばかりに宣った。

「永久保存するのですわ! ジップロックのビニールに入れて、箪笥にずんずんするのです!」
「ずんずんしちゃ駄目ですよソニアさぁんっ!」

 間違った日本語で呆けるソニアに、左右田が突っ込みを入れた。
 だがしかし、俺が突っ込みたいところは其処じゃない。

「ソニア、何でパンツを保存するんだ?」
「何を仰る日向さん! パンツは友愛の証ですよ? 大切に保存するのは当たり前田のクラッカーです!」
「ネタが古いです!」

 古いネタとやらを何故左右田は知っているんだ――という突っ込みは置いておこう。
 それよりも、だ。

「パンツが友愛の証なんて、初めて知ったんだけど」

 恐る恐る聞いてみると、二人はお互いの顔を見合わせてから俺を見て、愉快そうに笑い出した。

「私も初めて知りましたよ」
「俺も」

 ――はあ?

「は? えっ、はあ? 何だ、どういう意味だ?」

 まさか此奴等、俺を揶揄っているのか――と思った時、左右田がからからと笑いながら言った。

「修学旅行が始まった時、ウサミが言ってたじゃねえか」

 えっ?

「う、ウサミが?」
「あっ。お前あの時、気絶してたんだっけ。それじゃあ知らなくて当然か」

 狛枝の奴、ちゃんと教えてやれよな――と愚痴りながら、左右田は俺に説明をしてくれた。

「何かな、希望ヶ峰特有の儀礼らしいんだわ」
「ぎ、儀礼?」
「そうですわ。自分の大切なところを守るパンツを相手に差し出すことで、心から信じていますということを相手に伝える儀礼だそうです」
「いやあ、俺まじ目から鱗状態だったぜ。そんなのも有りなのか! ってな」

 いや、無いだろ。

「それは可笑しいぞ! 普通、そんなもの貰っても困るだろ! 大体、お前等だけじゃないのか? その話を信じて実行してる奴は」

 二人はウサミに騙されていると思った俺は、暗に「パンツ交換は普通じゃない」ことを伝える。しかし二人は同じ方向へ頭を傾げ、同時にこう宣った。

「田中さんともパンツ交換しましたけど」
「田中ともパンツ交換したんだけど」

 えっ、まさかの田中?

「え、えっ。それは本当か? あの非常識っぽいようで常識的な田中と、パンツ交換をしたのか?」

 俺は動揺を隠せず、声を裏返させながら二人に問う。すると二人は、また同時に宣った。

「勿の論です!」
「勿の論だぜ!」

 さっきから何気に仲良いな、いつの間に進展したんだよ。
 いや、そんなことはどうでも良い。それよりパンツだパンツ。

「な、なあ。本当に田中とパンツ交換、したのか?」
「そう言っているじゃありませんか。私達が嘘を吐いていると言うのですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけども」

 宝石のように綺麗な瞳を潤ませながら、ソニアが悲しそうに俺を見詰める。ああっ、罪悪感が! 罪悪感が半端ない!
 俺が今すぐ土下座したい衝動に駆られていると、左右田がつなぎ服のポケットをごそごそ弄り始めた。

「疑うってんなら、証拠を見せてやるぜ」
「し、証拠?」
「おう! さっき田中とパンツ交換したばっかだから、丁度持ってたんだよ――ほら」

 ポケットから取り出した左右田の手には――何も無かった。
 はい?

「そ、左右田? 何も無いように見えるんだけど」

 俺が目を擦りながら問うと、左右田は楽しそうに笑った。

「見えねえだろ? 触れねえだろ? でも此処に在るんだよ、田中のパンツがさぁ」
「いや、何も無いぞ。触れないし」

 至極冷静に左右田の手を弄るも、矢張り何の感触もない。するとソニアが間に入り、左右田の手に自分の手を乗せた。

「日向さん。田中さんのパンツは、アストラルレベルの低い私達には見えもしないし、感触すらも判らないのです。しかし、しかし! こうして此処に、確かに存在しているのです!」
「そうだぜ日向! 田中が在るって言ってんだ、それを信じてやるのが『親友』ってもんだろ? 喩え見えなくても、触ってる感覚がなくても――此処に存在してんだよ!」

 熱血漫画のような乗りで吼える二人に、俺は――完全に飲まれていた。謎の感動すら覚えてしまい、不覚にも目が潤んでくる始末。
 パンツ交換なんて可笑しいと、真っ向から否定していたが――成る程、確かに「友愛の証」としての機能はしている。
 こんなにも二人が、田中の「ノーパン説」を疑わずに信じているのだから!

「――そうか、俺が間違ってたよ。確かに在るよ、其処に在る!」

 俺は肯定した。全力で肯定した。二人の想いを、二人の信じる心を――俺は認めたのだ。
 認めた瞬間、俺は晴れやかで清々しい心持ちとなった。
 嗚呼、こんなにも素晴らしい友愛を生み出すなんて――。

「――ソニア、左右田」
「はい」
「おう」
「俺も『希望の欠片』を集めて、パンツ交換をするぞ!」

 俺が勇ましく言い放つと、二人は力強く頷き――お出掛けチケットを取り出した。

「ならば早速、一緒にらぶらぶですわ!」
「田中も誘って遊園地行こうぜ!」
「合点承知の助です!」
「エンジン全開!」

 チケットを差し出す二人を見て、俺はそれを受け取り――声を張り上げた。

「俺は、俺は――全員のパンツを集めるぞおおおおおおおおっ!」

 南国の島に、俺の雄叫びが木霊した。




 後に俺は予備学科の人間だと判明するのだが、皆が「超高校級のパンツハンター」という称号をくれて、俺は無事に卒業することが出来た。

[ 161/256 ]

[*戻る] [進む#]
[目次]
[栞を挟む]


戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -