U・B・C 〜 Ultimate Bitch Creature 〜

 ジャバウォック島という南国の島での修学旅行も、そろそろ二週間が経とうとしていた。
 課題も順調に熟していっており、特に問題は起こっていない。
 生徒同士の交流も良好で、希望の欠片も順調に集まっている。
 そう、何もかも順調に進んでいた。


 しかし――そんな何の問題もなく過ごしてきた日常は、突如として終わりを告げる。

「左右田、お前――俺だけじゃなかったのか!」

 日向創が、悲痛な声で叫んだ。


 現在、朝。ジャバウォック島、ホテル内レストラン。
 学級裁判が如く机を円になるように並べ、修学旅行メンバー全員が机を前にして輪になっている。
 先程叫んだ日向も此処に居り、机に体重を掛けて辛そうに俯いている。
 他の男子達は――花村輝々は平然としているが――愉快そうに笑っている者、頭を抱えている者、半泣きの者、憤慨している者、溜め息を吐いている者が居たりと、十人十色な反応を示していた。
 因みに女子達は一人を除き、全員苦笑いを浮かべている。
 そして――そんな混沌とした陰鬱な空気の中、左右田と呼ばれた男――左右田和一だけは不思議そうに首を傾げ、男子全員を見渡していた。

「お前等、今まで気付かなかったの?」

 左右田の口振りは驚きの感情に満ちていて、まさか気付いていなかったとは――という呆れも孕んでいた。その態度に、愉快そうに笑っていた男――狛枝凪斗が口を開く。

「あはっ。僕みたいな愚図で愚鈍な蛆虫には、全然判らなかったよ。でも、そうだよね。僕如きが左右田君のように素晴らしい希望を、独り占めに出来る筈がなかったんだ!」

 そう言って狂ったように笑い出した狛枝を放置し、頭を抱えている男――九頭龍冬彦が呻いた。

「糞がぁっ! まさかこの俺が、堅気に翻弄されるなんてっ! 糞っ、情けねえ。腹切りてえっ!」

 九頭龍はそう言いながら頭を掻き毟り、机に額を擦り付けて唸っている。

「くっ――雑種如きが、この、このっ、俺様を弄びおってっ。ぐすっ、俺様は、本気だったのだぞっ!」

 半泣きの男――田中眼蛇夢は、ストールで顔を隠しながら鼻を啜り、左右田に想いを訴えている。すると左右田は田中を見据え、飄々たる態度で宣った。

「弄んでなんていねえよ、俺はお前のことを愛してるぜ」

 左右田がそう言った瞬間、憤慨している男――弐大猫丸が机を思い切り叩き、咆哮を上げた。

「糞じゃああああああああっ! お前さん、儂の純情を弄んだのかああああああああっ!」

 儂は悲しいぞ――と叫び、弐大はまた咆哮を上げる。そんな弐大を見て、溜め息を吐いている男――十神白夜は、更に溜め息を吐いて左右田を睨んだ。

「ふんっ。まさかこの俺が、貴様のような愚民に惑わされるとは――俺も堕ちたものだ」

 自分が情けないのか、十神はまた溜め息を吐き、顰めっ面をして眉間を押さえている。様々な反応をしている男子達の中、花村は平然と――やや苦笑しながら左右田に言った。

「僕は博愛主義だから、別に二股――いや、この場合は七股か。あはは、いや、僕は良いんだよ? 8Pも大歓迎だし。でも、僕以外の皆はそうじゃないしさ。やっぱりちゃんと、けじめを付けなきゃねえ」

 意外にも、変態という名の紳士である花村がまともなことを言った。左右田と花村以外の男子全員がそれに頷き、左右田を凝視する。
 しかし左右田は、とんでもないことを言ってのけた。

「けじめ? んなこと言われても俺、皆のこと好きだしよぉ。全員と手ぇ切りたくねえ」

 しんと、レストランが静まり返った。
 暫時無言が続く中、西園寺日寄子が机をばしりと叩き、左右田を睨み付けながら怒鳴った。

「あんた、巫山戯けてんの? 性別とか関係なしにさぁ、そういうのは不特定多数とやっちゃいけないんだよ? 童貞の癖に糞ビッチだなんて信じらんない!」
「童貞でもねえよ?」

 左右田の一言により、西園寺の顔が見る間に引き攣っていく。

「は? えっ、はあ? 何、童貞でもないって――えっ?」
「希望ヶ峰へ来る前に通ってた高校で、学校の奴等と遣りまくって遣られまくってさぁ――あっ、性病とかは大丈夫だから。ちゃんと病院で検査したし」

 からからと笑いながら宣う左右田に、毒舌家である西園寺も絶句するしかなかった。他の女子達は互いを見合わせ、痙笑を漏らしている。
 そんな中、七海千秋だけは平然とした様子で左右田に言った。

「ううん。左右田君、やっぱり七股はいけないよ」
「ええっ、全員と別れろって言うのかぁ?」

 左右田は嫌そうに顔を顰め、男子全員を見やり、はあ――と大きな溜め息を吐く。すると狛枝が勢い良く手を挙げ、声高にこう言った。

「全員と別れなくても良いじゃない。一人に絞って、他の人と別れれば良いのさ!」

 しんと、再び静寂がレストランを包んだ。
 しかしその静寂を、小泉真昼が大胆に切り裂く。

「な、何言ってんのあんた! こんな、こんな、その――貞操観念が緩い男、もう皆、願い下げなんじゃないの?」

 そう言いながら、小泉が男子達を見やる。すると狛枝が、狂気を孕んだ哄笑を漏らし、我が身を抱き締めて身悶えた。

「左右田君を、願い下げ? 皆そう思っているなら、僕はやっぱり幸運だ! 左右田君、こんな僕で良ければ付き合ってよ!」

 はあはあと息を荒げながらほざいた狛枝に、小泉を顔を青くして後退る。しかし小泉は、完全には怯んでいなかった。

「な、何言ってんのよあんた。やっぱり頭、可笑しいよ。ねえ、日向。あんたからもさ、何か言ってやりなよ。ほら、九頭龍も。田中もさ。弐大も、十神も――あと、花村もさぁ」

 小泉が縋るような気持ちで訴えるも、男子達は何も言わず、黙ったままお互いを見詰めている。
 そして日向が、意を決したように口を開いた。

「――俺は、諦めないからな」

 決意に満ちた日向の言葉に、小泉は今度こそ怯み――口を噤んだ。

「――俺も諦めねえからな。堅気相手に尻尾巻いて逃げるなんざ、九頭龍の名が廃っちまう」

 先程の狼狽振りが嘘だったかのように、九頭龍は落ち着いた様子で静かに述べた。

「――ふっ。人類史上最大の悪夢にして制圧せし氷の覇王である俺様が、人の子を壟断出来ないとでも? 笑止! 貴様等全員、奈落の底よりも深き悪夢に叩き落としてくれるわ!」

 半泣きになっていたとは思えないくらい尊大で高慢に振る舞い、田中は堂々たる態度で高笑いを上げた。

「――墳っ! これは所謂、争奪戦というやつじゃな? がはは! 血湧き肉踊るのぉ。勿論、儂も参加じゃああああああああっ!」

 何かを勘違いしている弐大も、遣る気満々といった様子で、拳をごきりごきりと鳴らしている。

「――ふんっ。貴様等のような愚民共に、この俺が負ける筈がない。左右田よ、この十神白夜が真っ当な道へ導いてやる!」

 十神は偉そうにしながら左右田を指差すも、有無を言わさぬ圧倒的リーダーオーラを出しまくっている。

「――えっ、と。僕はどうしたら良いのかな、あはは。何Pでも良いんだけど――ううん。この際僕も、争奪戦に参加しちゃおっかな?」

 特に動機も何もないようだが、花村も便乗参加するようだ。
 男子全員が左右田と別れない選択をするという、まさかの展開に――七海を含めた女子全員が、顔を引き攣らせて苦笑する。
 そして、当事者であり全ての元凶である左右田は――。

「――ええっ、一人に絞んなきゃ駄目なのかよぉ」

 暢気に不満を漏らしていた。




――――




「左右田、今日の採集は電気屋を頼む」
「おお、機械弄り出来んじゃん。サンキュー日向!」
「おいこら手前、さり気なく好感度上げてんじゃねえぞ」

 採集のシフト表を管理している日向に、九頭龍が噛み付いた。

「おまけに日向君も電気屋だね、しかも二人きり。あはっ、これって職権乱用ってやつじゃないかな?」

 狛枝が目聡くシフト表を観察し、咎めるように日向へ言った。

「赦されざる大罪だな。俺様の魔力により、貴様を闇へ葬ってくれるわ!」

 ずかずかと日向に歩み寄り、噛み付く勢いで田中が吼える。

「墳っ! なら全員で電気屋へ採集に行くのはどうじゃろうか」
「愚民め。採集効率を考えれば、電気屋には二人で充分だろう」

 豪快に解決しようとした弐大に対し、十神が上から目線でそれを諫めた。

「んっふっふっ。ならこの僕が、左右田君と電気屋へ行くのはどうかな?」
「良くねえよ!」

 さり気なく提案してきた花村に、九頭龍が鋭い突っ込みを入れた。

「じゃ、じゃあどうするの?」
「そりゃあ、俺とだな」
「それは違うぞ! 九頭龍、お前は体力があるんだから山だ山」
「何だとごるああああっ!」
「体力で言うなら、僕も電気屋に行く権利があるよね」
「無っ、それなら儂もじゃのう」
「ふんっ、俺もだな」
「ふはは! どうやらこの俺様にも、その権利があるようだ」
「――ええい、お貸しなさい!」

 やいのやいのと七人がシフト表について揉めていると、ソニア・ネヴァーマインドが男子達の間を割って入り、シフト表を取り上げた。そしてソニアはシフト表を持ち、左右田の手を握って引っ張り、七人から離れ――くるりと身を翻して一喝した。

「昼ドラのように泥沼状態になるのは構いませんが、公私混同はいけません! 今後、採集のシフト表は私が管理します。左右田さん!」
「は、はいっ」
「今日の電気屋は、私と一緒に行きましょう。宜しいですね?」
「勿の論ですよ!」

 左右田が嬉しそうにソニアの提案を快諾し、ソニアの手を握り返す。するとソニアが、ちらと男子達の方を見て――にこりと、意味深長な笑みを浮かべた。
 その時、男子達は感じた。
 まさかの王女様も参戦ですか――と。




――――




「――ううっ、どうちてっ。どうちて、こうなっちゃったんでちゅかっ」
「ううん。不純交遊禁止、って生徒手帳に記載しなかったのが敗因だ――と思うよ?」
「普通、そういうのは禁止しなくても、遣っちゃいけないって判ると思うんでちゅけど」
「でも、実際こうなってるよね?」
「う、ううっ。あたち、あたち――どうちたら良いんでちゅかぁぁっ!」

 そんな意味でらぶらぶしてなんて言ってまちぇぇん――と教師であるウサミが嘆くと、七海が慰めるようにウサミの頭を撫でた。

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