南国の島で始まった修学旅行にて、俺様は恋人が出来た。
 相手の名は左右田和一。名前からも判るように、奴は正真正銘男である。そして――言わずもがな、俺様も男だ。


 俺様達は同性愛者ではなかったのだが、何故かお互い惹かれ合い――遂に昨日、結ばれたのである。結ばれたと言っても、告白して手を握っただけなのだがな。
 本当は接吻したり、もっと凄いことをしたかったのだが、左右田が「そういうのはもっと、段階を踏んでからすべきだ。それに今は学生の身であり、学校行事の一つである修学旅行中なんだぞ。不純な交遊は、規律を乱す元になる。それに――何か遭って怪我でもしたら、皆に迷惑が掛かるだろ」などと糞真面目なことを言うので、仕方なく引き下がったのである。
 見た目は不良そのものの癖に、根が真面目で扱いに困る。だが、そのギャップも愛らしい。益々惚れた。益々――愛してやりたい。
 というか犯りたい。
 人の身に堕ちた俺様には、人並みの性欲が備わってしまっているのである。好きな相手と媾いたいと思うことの何が悪い!
 良いだろう、ちょっとくらい。先端くらいなら許される筈だ。
 左右田もきっと、許してくれる筈だ。




――――




 という訳で俺様は、皆が寝静まった深夜に、左右田のコテージへ突撃することにした。
 何故か? そりゃあ勿論――あれだよ。先端だけでも挿入しようって話ですよ。言わせるな恥ずかしい。


 扨、とりあえずコテージには着いたが――鍵が掛かっているな。仕方ない、無理矢理開けるか。
 がちゃがちゃと取っ手を回し、捩じ切ってやろうと力を込めていると――。

「――おい、誰だ。取っ手壊したら、お前もぶっ壊すぞ」

 今まで聞いたことのない、どすの利いた低い声が、扉越しに聞こえてきた。
 誰だ今の。

「そ、左右田か?」
「えっ、田中か?」

 恐る恐る尋ねてみると、扉の向こうから左右田の声がした。
 あれ、さっきの声は誰だ。

「左右田、さっきの声は」
「あ? 俺だけど」

 まじすか。超びびりました。

「つうか、何でこんな夜中に来るんだよ。しかも扉壊そうとするし。俺、眠いんだけど。明日じゃ駄目なのか?」

 どうやら今の音で起こされて、頗る機嫌が悪いようだ。先程の声よりは増しだが、いつもよりは低い。
 そういえば左右田が――寝起きは気分が悪いから、早朝アナウンス三十分前に起きて、治まるまでじっとしている――と前に零していたな。
 つまり今の左右田は、気分最悪機嫌も最悪という状態な訳か。
 ――あれ。これは、作戦失敗か?
 自分の失態に気付くも、時既に遅し。左右田が鍵を開け、扉を開いて――悪魔のような相貌で、俺様を見ていたからだ。
 改めて思った、左右田の顔は怖いと。

「何か知らねえけど、とりあえず入れよ」

 ふああ、と欠伸をしながら目を擦り、左右田が中へ入れと手招きをした。奴は普段のつなぎ服を着ておらず、シャツとパンツのみという姿である。
 ――あれ。これは、作戦続行か?
 俺様は少しびびりながらも、言われるままに左右田のコテージ内へ入った。床には機械の部品が散乱しており、足の踏み場がない。

「ああ――まあ、座れよ」

 ひょいひょいと跳ねるように移動した左右田は、シーツの乱れた寝台へ腰掛け、此処に座れと云うように隣の空間を指差した。
 部品を踏まないように気を付けながら左右田の後を追い、俺様は指差された場所に腰掛けた。図らずも寄り添う形となり、何だかとても緊張する。

「で、何の用?」

 首を傾げながら――身長が違う所為か――上目遣いで、左右田が俺様を見据える。あざとい。いや、本人にその気はないのだろうが――あざとい。自制心がなくなりそうだ。

「田中、聞いてん」
「貴様と契りを交わしに来た」

 渾身の男前な表情をして、左右田の肩を抱きながら囁いた――のだが。

「眼蛇夢、ハウス」

 扉を指差しながら、無表情で言われてしまった。ハウスって、俺様は犬じゃないですよ。

「俺様は犬じゃ」
「じゃあ狼で。ハウス」

 そういう問題じゃないのだが。

「犬とか狼は関係なくてですね」
「男は狼って言うんだから、狼で良いじゃねえか。ハウス」

 ハウス止めて。

「俺様は真剣に、貴様と契りを交わしたいと思っているのだぞ。なのにハウスハウスと――暗に帰れと言うなんて、酷過ぎるぞ!」
「じゃあ俺も真剣に、契りたくないと思っているので。はい、ハウス」

 だからハウスは止めろと言うに。

「――何故だ。俺様のことが、好きではないのか?」

 自分でも情けないくらい、涙声になっていた。視界もぼやけているし、泣いてる。俺様泣いてるよ。
 俺様が泣いていることに気付いたのか、左右田は困ったように眉を顰め、俺様の背中を優しく撫で始めた。

「泣くなよ、んなことで。お前のことは好きだっつうの」
「じゃあ契」
「らねえよ。聞けよ、つうかこの前言っただろ。今は駄目って」
「じゃあ、いつになったら契れるのだ」
「ああ――修学旅行が終わって、学校卒業して、自立してからかな」

 そんなに待てるかこの野郎。

「貴様――俺様を殺したいのかっ!」
「大袈裟過ぎんだろ」
「大袈裟ではないわ! 舐めているのか、俺様の性欲を!」
「偉そうに言うことじゃねえだろ」
「う、うっせうっせ!」
「それ、俺の台詞なんだけど。つうか五月蠅えよ、今何時だと思ってんだ。夜中だぞ夜中」

 常識的な突っ込みを入れられ、ぐうの音も出なくなる。しかし、此処で退いては負けだ。

「――判った、静かにしよう。だが、俺様は諦めんぞ。貴様と契るまでな」
「契る契る五月蠅えなあ。千切るぞ」

 左右田は両手で何かを摘むような仕草をし、千切るように左右へ引っ張った。俺様の股間を見ながら。
 俺様は思わず、股間を押さえた。

「なっ、ななな何て恐ろしいことを」
「嫌なら帰れって」

 しっしっと、まるで犬か何かを追い払うように手を振り、左右田は面倒臭そうに溜め息を吐く。
 もしかして俺様、本気でうざがられている?

「そ、左右田? 俺様のこと、うざったく思っていないよな? な?」
「あ? ああ――ちょっとうざい」

 がぁぁぁぁんっ!
 頭を殴られたかのような衝撃が、俺様の身体を貫いた。悲しい、俺様は悲しいぞ!

「きっ、貴様っ。俺様のことがうざいなんて――冗談でも、言っちゃいけないんですよぉっ」
「冗談じゃなくて本気なんだけど」

 がぁぁぁぁんっ!
 もう無理、俺様の豆腐並みに脆い精神が潰れた。もう駄目、生きていけない。

「そ――左右田ぁぁぁぁっ」
「あ? うわっ、泣くなよ。覇王だろ」
「い、今は田中眼蛇夢だもん、覇王じゃないもん」
「うざっ」

 ぼそりと、左右田が呟いた。うざっ、て。て。てええええええええっ!

「う、うざいって言った。左右田が、俺様のこと、うざいって」
「あ、ああ。ごめん、悪かった。うざくないうざくない、お前はうざくねえよ」

 よしよしと俺様の頭を撫で、左右田が比較的穏やかな物言いであやしてきた。何だかんだで優しいな。矢張り俺様の天使だ。

「じゃあ契って」
「何がじゃあだ馬鹿」

 ごつりと、頭を殴られた。痛い、暴力的な天使だ。撲殺天使だ。

「くっ――何故だ、俺様が此処まで頼んでいるのにっ」
「だぁかぁらぁっ、ちゃんと理由を言っただろ。待てよ、待て。眼蛇夢、ハウス」

 だから犬扱いは止めろってば。

「お預けにも程があるっ」
「覇王なら、人間なら待てるだろ」

 ――ほう、そうか。そういうことか。

「――わんっ」
「は?」
「俺様は今から犬になる。発情期の、卑しき雄犬になる」
「は? えっ、はあ?」

 左右田は俺様の豹変ぶりに付いていけないのか、困惑の表情を浮かべて狼狽している。俺様はそんな左右田を押し倒し、寝台に押さえ付けた。驚いた左右田は、ひっ――と小さな悲鳴を上げて身を強張らせる。

「えっ、ちょっ、田中?」
「わんっ」
「いや、巫山戯てんじゃ――んうぅっ」

 べろりと首筋を舐めてやると、左右田は全身を戦慄かせ、鼻に抜けるような吐息を漏らした。感度は良好だな。

「お、おい、本気か? 駄目だって、俺達まだ――んっ」

 五月蠅い口を口で塞ぎ、口内に舌を突っ込んでやると、左右田は切ない呻き声を上げ、俺様の胸に縋り付いた。俺様がそっと抱き締めてやると、左右田はゆっくりと俺様の舌へ己の舌を絡め始めた。
 何だ、結構乗り気ではないか。舌を噛まれるかと思っていただけに、この反応は意外で嬉しかった。
 互いの唇を食みながら、左右田のパンツを脱がしてやろうと手を伸ばした――その時、世界が反転した。
 何事? と思った時には、俺様は左右田に押し倒されていた。
 あれ? さっきまで俺様が押し倒していたよな?
 ひっくり返された? 俺様より小柄な左右田に?
 頭の中が疑問だらけになっていると、左右田が我が身を抱き締めながら震え、俺様のことを見詰めて溜め息を吐いた。

「ああ、もう――ずっと、我慢してたのに。お前が悪いんだからな、俺は悪くないからな」

 俺は悪くない俺は悪くないと言いながら、左右田は俺様のズボンに手を掛け――思い切り引っ張り、ズボンを脱がした。アストラルレベルの加減でノーパンに見えるが、パンツを穿いている設定だからな。

「凄い、でかい」

 はうう――と息を吐きながら、左右田が俺様の魔槍を撫で回す。絶妙な力加減で撫でるものだから、段々と勃ち上がってきて――魔槍グングニルが顕在化してしまった。

「そ、左右田、ちょっと待って。いきなり過ぎて、俺様付いて行けな」
「誘ってきたのはお前だろ?」

 俺は悪くない――と左右田は言い、俺様の魔槍を勢い良く扱き始めた。突然の快感に俺様は、うっひゃあという変な悲鳴が出てしまう。
 しかも良いところをこりこり指で擦ってくるので、すぐに逝ってしまいそうだ。早漏でも遅漏でもない筈なのだが、このままでは一分も持たない。

「あっ、ちょっ――待って、左右田待ってぇっ――逝くっ、逝ってしまうぅっ」
「逝っちまえよ、覇王様ぁっ」

 厭らしく舌舐めずりをしながら、左右田が一際強く魔槍を擦り上げてきて――俺様は逝ってしまった。
 多分、人生で一番の最短時間で逝ったと思う。新記録だな、泣きたい。

「ははっ、すっげえ。もう逝ったのか」

 俺様の射精を掌で受けた左右田は、からからと笑いながら精液を弄り回している。泣きたい。

「う、うぅぅっ――俺様は、俺様は早漏じゃないぃぃっ」
「んなこと気にすんなって。それよりもな――」

 回数を熟せるか否かが重要なんだよ――と言って、左右田は再び俺様の魔槍を扱き始めた。
 えっ、もう二回目突入ですか?

「ち、ちょっと待ってください。少し休憩を」
「勃ち上がれ眼蛇夢」

 それ違うガンダムだからああああああああっ。
 俺様が脳内で絶叫している最中、左右田の手によって魔槍は息を吹き返し、燃え上がる勢いで勃ち上がった。

「ははっ、まだまだ元気じゃねえか。あと八回は逝けっかな?」

 いやいやいやいや無理無理無理無理。

「そ、そんなに抜いたら枯れてしまうっ」
「枯れるかどうか、試してみねえと判んねえだろ」

 試すまでもなく枯れるわ――と言おうとした瞬間、俺様の魔槍が左右田に喰われた。

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