B

 
「俺、ずっと気になってたんだけど――日向のズボンってさ、四次元空間と繋がってんの?」
「禁則事項です。それよりさ、壁に両手を付いて尻を突き出してくれないか?」

 は――と、左右田が肺の空気を漏らす。

「え、えっ――立ったまま?」
「立ったまま」
「まじで? つうかさ、それって所謂――立ち後背位ってやつですか?」
「ああ」
「まじかよ! 無理だって、立ってらんねえって」
「それって、立っていられないくらい善がる自信があるってことか?」

 日向がさらりととんでもないことを宣うと、左右田は固まった。そして次の瞬間、頭から湯気が出そうなくらいに顔を赤くして、むぎゃあああ――と奇声を上げる。

「なっ――何でそんなこと言うの! 恥知らず! 死になさい!」
「人格崩壊起こしてるぞ」
「う、うっせうっせ! つうかやだっ、立ちバックとかやだっ! 断固拒否する!」

 此処までやって拒否なんて、絶対に許さない――と言わんばかりに、日向は言弾を容赦なく撃ち出す。

「こんな石だらけのところで寝たら痛いし、怪我をするかも知れないだろ」
「うっ」
「それに不衛生だ。土だらけになりたくないだろ?」
「うぐっ」
「あと、立ちバック遣ってみたい」
「それはお前の願望ですよね」
「はい」

 最後のだけは斬り捨てられてしまったが、左右田は納得したのか、渋々といった様子で壁に手を付き――ぎこちなく振り向いて、涙目で日向を見た。

「や、やっぱり止めねえ?」
「却下する」

 そう言うや否や、日向はミネラルウォーターで自身の手を洗い、潤滑剤を塗りたくって――左右田の背後にぴたりと寄り添い、潤滑剤塗れの手を彼の尻に這わせた。途端に左右田はびくりと震え、怯えた表情を浮かべる。

「まっ、ままままじ怖ええええっ」
「大丈夫だって、ちゃんと支えて犯るから」
「何か漢字が違――あぐっ」

 左右田が何か言いかけた瞬間、日向は彼の穴へ人差し指を突っ込んだ。腸壁を撫でるように、ぐちゅぐちゅと指で中を掻き回す。
 ぞわりと、左右田の腰と背中に電気のようなものが疾った。

「へ――変な感じがする」
「えっ、善くないか?」
「何かぞくぞくする、腰とか背中がぞわぞわするっ」

 左右田の抽象的過ぎる表現に頭を傾げるも、日向は中を弄くり回すことを止めず――更に中指も突っ込み、二本の指をばらばらに動かし始めた。
 刹那、がりり――と、左右田が壁を引っ掻いた。

「や、やべえ。足がっ、足ががくがくするっ」
「おい、壁を引っ掻くな。爪が剥がれたらどうするんだ」
「いや、それよりちょっと止めよ? 指動かすの止め――ああぁぁっ」

 またしても左右田の発言を止めるように、日向が指を不規則に蠢かせる。そして薬指も中へ挿入し、穴を広げるように三本の指で腸壁を押し開く。すると左右田は弱々しく首を振り、はああ――と吐息を漏らした。

「やっ、やばいって――本来物を挿入するような場所ではないところに指を三本も挿入されて内壁を撫で回されることによって俺の全身に奇怪な痺れが駆け巡り脳が混乱の極みに陥っている!」
「落ち着け。早口で何を言っているのか判らない」
「兎に角やばいっ、一旦抜いてっ」

 肩で息をしながら懇願する左右田に、日向は少し思案し――何かを閃いて、指を引き抜いた。
 そして日向は自身のズボンに手を掛け、ずるりとズボンをパンツごと下ろす。そして彼の――完全に勃起した、御立派な陰茎が露わになった。
 背後での出来事なので、左右田には全く見えなかったが――衣擦れの音で、何となく嫌な予感を覚える。

「ひ、日向さん? 今、何をしましたかね」
「脱いだ」

 そう言って日向は左右田の腰を掴んで引っ張り、無理矢理尻を突き出させた。そして、指で解した左右田の穴へ自身の陰茎を宛行う。
 熱くて堅くて弾力のある何かが宛行われたことで、左右田は日向のしようとしていることを悟った。
 もう、犯ろうとしていると。

「――ちょっ、ちょっと待て。まだ俺、心の準備が」
「大丈夫、もう挿入るから」
「いや、そういう意味じゃなくっ――うあぁっ」

 ぐちゅりという潤滑剤の粘着質な水音が坑道に響き、左右田の中へ陰茎の先端部分が挿入った。左右田は身体を戦慄かせ、逃げようと腰を引く。だが日向は左右田の腰をしっかり掴み、容赦なく陰茎を突き進めていった。

「っは、うあぁっ――日向っ、お前何でっ、俺の発言を途中でっ、邪魔すんだよぉっ」
「待って居られないんだよ」

 そう言って日向は、一気に陰茎を押し込んだ。突然の衝撃に左右田は肩を大きく跳ねさせ、足をがくがくと震わせながら、言葉にならない呻き声を上げた。

「左右田、判るか? 全部挿入ったぞ」

 日向が円を描くように腰を揺らし、左右田の中を陰茎で掻き回す。その刺激を受けて、腸壁がぎゅうっと締まった。その締め付けが気持ち良くて、日向は思わず逝きそうになる。

「あっ、左右田っ――ちょっとやばい。その締め付けはやばいっ、逝く」
「は、早えよ早漏っ!」
「早漏じゃない! この前は結構長持ちしてただろっ!」
「あれは一回逝ってただろうが! 思い出したからな、俺の手を使って扱いた挙句――俺に精液飲ませただろ! 何が酔い醒ましだ変態がぁっ!」

 屈辱的記憶を思い出して憤慨した左右田は、あの時の屈辱を晴らすべく腹に力を入れ、日向の陰茎を締め付けた。早く逝ってしまえと腸壁が蠢き、日向を絶頂へと追い詰める。

「うあっ、ちょっ――挿入れてすぐに逝くとか情けなくて死ぬ!」
「なら死んじまえ!」

 これで止めだと言わんばかりに中が締まり――日向は射精してしまった。びくびく跳ねる陰茎と、生温い精液の温度を感じながら、左右田は雪辱を果たした喜びに打ち震えた。
 どうやら中出しされたということは、彼にとって屈辱ではないらしい。不思議な思考回路である。

「けけけっ、様を見ろってんだ。ほら、さっさと抜けよ。一回だけって約束だろ」

 愉快そうに笑う左右田であったが、日向が無言で身動き一つしないことに気付き――何だか良くないことが起こる、そんな気がした。
 そしてその予感は、見事的中したのである。


 ずるりと、抜け落ちる寸前まで引き抜かれた陰茎が――暴力的なまでの勢いで中へ突っ込まれ、腸壁をごりごりと抉った。内臓を殴り付けるかのような衝撃に、左右田は肺の中の空気を全て吐き出してしまう。
 しかし、その律動は止まない。寧ろ段々激しくなっていき、肌と肌がぶつかり合い始めた。ぱんっぱんっという乾いた音と、ぐちゅぐちゅという濡れた音が坑道に響く。
 しまった――と、左右田は後悔した。日向を辱め、怒らせてしまったことに。

「ひっ、あぅっ、ごめっ――ごめんっ、許し、てぇっ!」

 呼吸も上手く出来ない中、左右田は壁をがりがりと引っ掻いて苦痛を紛らわせ、泣きながら日向に謝罪した。すると日向が、律動を止めずに左右田へ話し掛ける。

「壁を引っ掻くなって言っただろ」
「むっ、無理ぃっ、あっ――はぁっ、死ぬっ、死んじまうぅっ!」

 涙をぼろぼろ零しながら壁を引っ掻き、左右田は頭を左右に振り乱す。その勢いで被っている愛用のニット帽がずれて、隙間から躑躅色の髪が食み出た。汗に濡れた髪はしんなりと垂れ下がり、左右田の動きに合わせて揺れ動いている。
 綺麗だ――と、先程までの怒りを忘れ、日向は思った。
 薄暗い中で妖艶に乱れる左右田は、酷く蠱惑的で――もっと乱してやりたいと、日向の加虐心を燃え上がらせてしまった。
 そう思った日向の行動は早かった。あの時、左右田が快感に身悶えた性感帯目掛けて――抉るように陰茎を突き立てたのである。
 ずっと苦痛しか感じていなかった左右田は、突如として湧き上がってきた快感に身を捩らせ――混乱した。しかし日向はお構いなしに性感帯を突き上げ、左右田を快楽の海へと誘っていく。
 日向の暴力的律動によって萎えていた左右田の陰茎も、緩やかに勃ち上がり始めた。


 ――俺って、被虐嗜好だったのか?
 混乱している左右田は、自分が痛みから快楽を見出してしまったのだと思ったらしい。
 恥ずかしい体位にさせられて、がつがつと身体を貪るように犯されて、自分が悦びを感じていると、彼は思ってしまったのだ。
 強ち間違いではない、間違っている勘違いなのだが――人間の思い込みとは凄いものらしい。
 左右田和一は、興奮してしまった。
 獣のように媾い、乱暴に身体を犯され、同性の親友に辱められているという、惨めで哀れな自分の状態に――どうしようもなく、興奮してしまったのである。
 彼は一歩、登ってはいけない階段を登ってしまったようだ。

「――ひ、日向ぁっ。もっと――もっと、滅茶苦茶にしてっ」

 被虐嗜好に目覚めてしまった左右田は、淫靡な微笑を湛えながら日向を見詰め、ぎゅっと中を締めて日向の陰茎を苛む。こんなことをされて萎える人間が居る筈もなく――日向の微々たる理性は、完全に消し飛んだ。

「――そ、左右田っ。左右田っ、左右田ぁっ」

 言語を操る理性はまだ残っていたのか、日向は譫言のように何度も左右田の名を呼び、がちがちに勃起した陰茎で何度も何度も中を穿った。
 左右田はそれを甘んじて受け、頽れそうになる足を無理矢理突っ張り、日向の暴力的律動に我が身を差し出す。まるでそうすることが使命であるかのように。
 恥辱を受けている悦びに身を震わせ、長い舌を口から垂れ出して呼吸し、左右田は恍惚の笑みを浮かべる。彼の陰茎は涎をだらだら流していて、その姿は卑しく無様で淫らで――そんな自分を自覚し、彼の気分は更に高揚した。
 完全なるmasochistのそれである。

「――は、あっ――もう、出るっ――」

 情けないくらいに弱々しく呟いた日向は、声音とは裏腹に荒々しく腰を打ち付ける。
 ごんごんと激しく性感帯を突かれて、限界に近かった左右田は泣くような悲鳴を上げ――びくびくと、身体を戦慄かせながら射精した。それと同時に彼の腸壁がぎちぎちに締まり、中身を絞り出すように日向の陰茎を押し潰す。
 その責め苦に堪えられる訳もなく、日向はまた左右田の中に精液を吐き出した。どくどくと精液を流し込まれる感覚に、左右田は奇妙な悦びを覚える。
 先程逝かせてやった時とは違う――あの時一緒に逝った時のような――日向に貪られ、愛されたという悦びを。


 嗚呼、これが恋か――と、左右田は思った。
 こんな生々しくて厭らしい恋など在る訳ないのだが、恋愛経験皆無の彼には判らなかった。
 精液を絞り取られた日向が、左右田からゆっくり陰茎を引き抜く。二回も中に出した所為か、結構な量の精液が垂れ出てきて、左右田の内腿を伝い落ちた。
 自分の内腿を這い摺る精液を見詰めながら、左右田が熱を帯びた吐息を漏らす。そして彼は壁に凭れ掛かり、ずるずると崩れ落ちて地に膝を突いた。

「だ、大丈夫か?」

 精液を出し切って冷静さを取り戻した日向は、目線を合わせる為に跪き、左右田の顔色を窺いながら声を掛けた。左右田は力無く日向へ顔を向け、熱に浮かされたような表情を浮かべて微笑む。

「だいじょうぶ」
「いや、大丈夫じゃないだろ。遣った俺が言うことじゃないけど、明らかに大丈夫そうじゃないぞ」
「だいじょうぶだから、ちゅうして」

 左右田は壁から手を離し、飛び付くように日向へ凭れ掛かった。そして日向の驚異的な胸囲に擦り寄り、媚びるような上目遣いで彼を見る。
 その目は正気な人間の目では無く、明らかに頭の螺子が数本吹っ飛んだ人間の目だったのだが――愛しい彼の可愛い御強請りに、日向はまんまと騙された。

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