「ご、ごめんね、僕の所為で」
「気にすんなって」
「――僕の、不運の所為だよね。ごめん」

 俺の血を自分の服で拭いながら、狛枝がぼろぼろと涙を零して謝る。

「ごめん、ごめんね。やっぱり僕は幸せになっちゃいけないんだ。僕はずっと、独りで居た方が」
「自虐は止めろキック!」

 そう叫びながら俺は、狛枝の腹に拳をぶち込んだ。

「ごふっ。き、キックじゃなくてパンチだよ、それ」
「細けえこたぁ良いんだよ! そんなことよりもだ」

 結構綺麗に入ってしまったのか、狛枝は腹を押さえて蹲っている。そんな此奴に躙り寄り、俺ははっきりと言ってやった。

「このびびりでへたれで臆病者で小心者な、どうしようもない程の怖がりな俺が、勇気出してお前の不運を被ってやってんだぞ! 謝罪より先に、礼を言うべきだろうがああああああああっ!」

 言った。言ってやったぞ。俺は間違っていない。狛枝は呆然としていたが、はっと我に返り、俺に頭を下げた。

「あ、ありがとうございます」
「おう。これからは気を付けろよ」
「これからが、あるんだ」

 頭を上げた狛枝が、俺を見詰め――嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、左右田君」

 そう言って笑った狛枝は、今まで見てきた中で、一番可愛い笑顔を浮かべていた。
 ――嗚呼、もう駄目だ。

「――時に狛枝よ」
「えっ? あ、うん。どうしたの?」
「申し訳ないけど、罪木呼んで来てくれませんかね」

 じゃあの――そう言って俺は狛枝に倒れ掛かり、意識を失った。


 意識の向こうで、狛枝の絶叫が聞こえた気がするが――多分、大丈夫だろう。
 というか、大丈夫でなくては困る。これからまた、こういうことがあるかも知れないのだから。
 ――嗚呼、長生き出来るのかなあ俺。
 まあ、意地でも離れてやらないがな。俺は一度好きになったら、蛇のようにしつこく絡む男なのである。喩え死にそうになっても、死ぬまで――いや、死んでも化けて出るぞ。
 狛枝よ。悔やむなら、こんな俺を好きになった自分を恨むことだな。
 俺は微かに感じる狛枝の温もりに身を委ね、今度こそ完全に意識を手放した。

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