B

 息も絶え絶えに身悶えていると、狛枝が俺の涙をべろりと舐め取った。

「――しょっぱいけど、甘いね」
「ど、どっちだよ」

 なけなしの虚勢で突っ込みを入れるも、狛枝は意にも介さず、俺の唇に己の舌を這わせた。中へ入れさせろということだろうか。
 俺が躊躇いがちに口を開けると、案の定というべきか、狛枝の舌が口内へ入ってきた。俺の切歯と歯肉を擽るように舐めながら、ずいと寄って舌を奥にまで突っ込んでくる。先程の涙の所為か、少し塩辛い味がした。
 早く早くと誘うように、俺の舌を狛枝の舌先が撫でてきて、ぞくりとした快感が身体に疾る。ゆっくりと舌を絡めていけば、奴も舌を絡めてきて、身体が悦びに打ち震えた。
 粘膜と粘膜が触れ合うだけで、何故こんなにも気持ち良いのだろう。狛枝の首に腕を回し、ぎゅっと抱き寄せる。より深くなる繋がりに、安堵のようなものを感じた。
 狛枝の呼気すらも貪るように、只管に口付けをしていると――奴が俺の身体を抱き竦め、腰を動かし始めた。それに伴って、俺の中に挿入ったままな奴の陰茎も動く訳で――ぐっと、腸壁を押し上げられた。
 ぎにゃああああああああ――と悲鳴を上げそうになるも、狛枝と接吻したままの状態なので声も出ず、言葉にならない呻き声を漏らすことしか出来ない。圧迫感が凄い、息が苦しい。やばい、怖い。俺は堪えるように、ぎゅっと目を瞑った。
 そんな状態にも拘わらず、狛枝は俺の口内を蹂躙したまま、ゆっくりと腰を振り始めた。陰茎が中で蠢いているのが、驚く程に感じ取れる。ぐちゅぐちゅという水音が、下半身から聞こえてくる。改めて自分が、女のように犯されているのだと実感した。
 男、なのに。


 でも、何故だろう。あんなに苦しくて怖かったのに、段々感じなくなってきた。代わりに少しずつ、心地良さのようなものが込み上げてきて――恥ずかしながら、俺の陰茎も勃ち上がってきた。
 目を開き、眼前に在る狛枝の顔を見る。俺とキスをして舌を絡め合い、腰を揺れ動かしながら――狛枝は、俺のことをずっと見詰めていた。
 視線が搗ち合い、狛枝が微笑む。情欲の炎が燃え盛った瞳で、俺のことを見ながら。
 俺だけしか知らない、男の顔をした狛枝が居る。すぐ目の前に、俺だけの狛枝が、居る。誰も知らないのだ、此奴がこんな顔をするなんて。俺しか知らないのだ。
 ぎゅっと、狛枝の腰に足を絡めて捕まえてみる。何となく、此奴を独り占めにしてやりたくて。誰も居やしないのに、どうしても今、自分だけのものにしてやりたかった。

「――逃げないよ」

 少しだけ唇を離し、はにかんだ笑顔で狛枝が言った。
 また「ココロンパ」されたのかと思ったが――もう、そんなことはどうでも良かった。狛枝になら、心の中を見られても良いと思えたから。
 ――嗚呼。こんな希望狂いの変態野郎に惚れるなんて、俺も焼きが回ってしまったか。
 だが悔しいことに、悪い気がしない。どうやら既に末期のようだ。


 段々と、狛枝の動きが激しくなってくる。少し苦しいが、それを塗り潰すくらいに心地が良くて――。

「――ふあぁっ!」

 狛枝の陰茎が俺の中を穿った時、心地良いどころではない快感が溢れ出した。吃驚した所為で、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
 何だ、今のは。
 狛枝も吃驚したようで、動きを止めて俺を凝視している。は、恥ずかしい。

「あ、いや、今のはちょっとしたあれで――んあぁっ」

 がつんと、再び狛枝が中を穿った。先程と同じ、気持ち良い箇所を。
 何だ。何で其処は、こんなに気持ち良いのだ。頭が可笑しくなりそうである。いや、もう混乱している。俺は男なのに、何で突っ込まれて善がっているのだ。其処は性感帯なのか?
 俺が感じていることに気付いたのか、狛枝が只管に其処を突いてくる。やばい、可笑しくなる。

「うぁ、んっ――こまっ、えだぁっ――やめっ、其処はやめぇっ!」

 狛枝の背中を引っ掻いて抗議するも、奴は一向に止まろうとしない。それどころか、益々激しく性感帯を穿ってくるものだから堪らない。
 飛ぶ、主に意識が飛ぶ。

「頼むって、其処は――んんっ」

 黙れと言わんばかりにキスされ、がつがつと中を抉られて――もう、無理。気持ち良すぎて逝きそう。二つの意味で。
 俺は最後の――最期の力を振り絞り、狛枝に縋り付いて訴えた。

「もっ、もう、無理ぃっ」
「僕も、無理」

 えっ? と思った瞬間、止めとばかりに性感帯を思い切り穿たれて――死ぬんじゃないかというくらいの快感が中で弾け、俺は達してしまった。
 嗚呼、陰茎を触っていないのに逝ってしまった。気持ち良かったが、男としてどうなのだろうか、これは。
 俺が快感の余韻と悲哀に浸っている最中、狛枝は恍惚とした表情で息を吐き、腰を振るのを止めて身悶えている。何だか俺の腸内に、生温かい液体が出されてる気がするのだが――まさか、これは。

「お前、中に精液出した?」
「うんっ」

 清々しいくらいに爽やかな笑顔を振り撒きながら、狛枝は嬉しそうに宣いやがった。
 この野郎――と怒鳴ってやろうかと思ったが、あまりにも嬉しそうにしていやがるので、怒りが引っ込んでしまった。
 怒りが引っ込むと同時に、よく判らない感情が湧いてきた。男として悲しいやら、愛されて嬉しいやらで――。

「どう反応したら良いか、判んねえ」
「笑えば、良いと思うよ」
「それは駄目だ。お前の声的に駄目なネタだ」
「えっ、じゃあ――アヘ顔ダブルピースすれば良いと」
「思うなよ! 誰がするか馬鹿!」

 突っ込み代わりに狛枝の脇腹を軽く蹴ってやると、その衝撃が俺の中に挿入っている奴の陰茎に伝わり――蹴った筈の俺が悶えることになってしまった。

「上に向かって吐いた唾が降ってきて、顔に掛かる状態に似てるね」
「う、うっせうっせ! もう抜けよ、早く風呂に」
「――ごめん、無理」

 俺の言葉を遮り、狛枝が切羽詰まった様子で再び腰を揺らし始めた。中で快感を得られるようになってしまった俺には、その緩やかな刺激すらも危うくて――変な声が出そうになる。

「ふ、っあぁ――何で、狛枝ぁっ」
「ごめん、もう一回だけ。左右田君の中、凄く良いんだ」

 そう言って狛枝は俺を押さえ付け、いきなり激しく中を穿ち始めた。それがまた性感帯らしきところを突くもので、気持ち良くて拒絶出来ない。

「あっ、もう、馬鹿枝ぁっ――も、もう一回っ、だけだから、なぁっ」
「うんっ」

 がくがくと揺さぶられながら了承してやると、狛枝は子供みたいに無邪気な笑みを湛え――欲情した雄の目をしながら、べろりと舌舐めずりをした。
 ――嗚呼、これは一回じゃ済まなさそうだ。
 俺は明日ダウンする覚悟を決め、狛枝のキスを受け止めた。




――――




 翌朝、俺は案の定ダウンした。
 しかし、鬼畜に定評のある日向が「元気ばくだん」をぶち込んできたので、今はダウン状態ではない。
 お前、一晩の内に何でまたダウンしてるんだよ――と突っ込まれたが、俺は黙秘を貫いた。
 言える訳がないだろう。狛枝に犯されまくってダウンしました――なんて。
 それにしても、馬鹿枝め。まさか五回も遣るとは思わなかったぞ。
 怒りを込めて狛枝を睨む。奴は五回も遣らかしたとは思えないくらい元気で――というかシャカリキ状態で、採集作業に勤しんでいる。
 そう、また此奴と同じ採集場所なのである。しかもまた二人きり。もしかして日向の奴、俺達の関係に気付いているのか? 何だか怖い。

「左右田君、三種の神器があったよ」

 電気屋から出て来た狛枝が、素材の一つである三種の神器を持ってきた。これはなかなか見付からない、稀少な素材なのだが――。

「――狛枝、運が良いのな」
「あはっ、昨日の今日だから何だか怖いよ! 今度こそ本当に死ぬかもね!」
「洒落になんねえっつうの」

 俺は機械を解体しながら、狛枝に突っ込みを入れた。おっ、集積回路と乾電池。

「だって、左右田君に五回も中出ししたのに、未だに不運らしきものが来ないんだよ? 幾ら満身創痍になっていたからって、それだけじゃあ帳消しにならないよ。だって左右田君に五回も中出」
「っだああああっ! 黙れ! それ以上喋んな!」
「あはっ、ごめんごめん」

 恥ずかしいことをべらべら喋りながらも、狛枝はてきぱきと動き、色んな店に入って素材を集めていっている。流石シャカリキ状態だな。付いて行くのがやっとだ。

「――でもね、不運が来ないと怖いよ。幸せ過ぎて、怖い」

 不意に動きを止め、狛枝が呟いた。その肩は小刻みに震えていて、俺より身長が高いのに、何だか少し小さく見えた。

「ああ――何つうか、良いじゃねえか別に。幸せなまま、それが続けば万々歳だろ」
「でも、反動が怖いよ」

 狛枝は唇を噛み締め、我が身を抱いて俯いた。何ていじらしい姿なのだろうか。今までの俺なら放置していたが、今の俺にはそんな薄情な行いは無理である。

「――大丈夫だって、俺も半分持ってやっから」
「えっ、でも」
「底無し沼の件で慣れたから大丈夫だって! だから、その――あんま気にすんな」

 そう言って優しく肩を叩いてやると、狛枝は困ったような照れたような笑顔を見せた。不覚にも可愛いと思ってしまった俺は、もう駄目かも知れない。

「ありがとう、左右田君」
「良いってことよ。それより、さっさと採集しちまおうぜ」
「うんっ」

 元気良く返事をした狛枝は、再び電気屋に入っていった――のだが。

「ぬわああああああああっ!」

 今まで聞いたこともない狛枝の低い叫び声が、俺の鼓膜を劈いた。
 何事だと思って後を追うと、狛枝が家電製品の陳列棚に押し潰されかけていた。ぎりぎり踏ん張っているが、今にも潰されてしまいそうである。俺は慌てて駆け寄り、狛枝を助けようとした――のだが。

「あべしっ!」

 床に落ちていた螺子に気付かず踏んでしまい、思い切りすっ転んでしまった。背中が超痛いのである。

「あ、あぐっ、あぐぅぅっ。せ、背中いってえぇぇっ」
「そ、左右田君、大丈夫?」

 足をがくがくさせながら棚を支えている狛枝が、俺を心配してきた。俺の心配より、まず自分の心配をしろ。

「だ、大丈夫。ちょっと待てよ、今助け――」

 ごん、と。俺の頭に炊飯器が落ちてきた。石頭でなければ即死だった。

「だ、大丈夫? 左右田君、頭から血が出てるよ?」
「大丈夫大丈夫、頭は出血量が多いもんなんだよ」

 よろよろと立ち上がり、今度こそ狛枝を助けようとした――のだが。
 狛枝の支えている棚からテレビが滑り落ち、俺の頭に直撃した。流石に死ぬ。

「そ、左右田くううううん!」
「だ、大丈夫大丈夫。あは、あははははは」
「大丈夫じゃないよ! 目の焦点が合ってないし、全身血塗れだよ!」
「頭は出血量が多いから」
「尚更駄目だよ! 出血多量でショック死しちゃうよ!」
「大丈夫大丈夫」

 本当は全然大丈夫じゃないがな。死にそう。
 だが俺は力を振り絞り、狛枝を押し潰さんとしていた忌々しい棚を蹴り飛ばした。
 ちょっと力が入り過ぎたのか、勢い余って向こうへ倒れてしまった。乗っていた家電製品が倒れた衝撃でぶっ壊れたが、解体する手間が省けたとしよう。

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