お星様に君との再会を祈っていたこと


 星空を見ると、あの夜の会話を思い出してしまう。特に今夜みたいな、ナマエに教えてもらった星ばかりがきらきらと輝く夜は。

「私は、うーん……。あっ、ソロに星のことを教えてあげる!」
「星のこと?」
「そう! お父さんに教えてもらったことを、私がソロにも教えてあげるの」

 そんなやり取りから始まったナマエの星空教室は、よく晴れた日の夜に星を見ながら開かれた。たどたどしいながらも一生懸命に覚えたての知識を披露するナマエを微笑ましく思いながら、ナマエの白くて細い指先で一緒に星座を繋いで笑ったり。今日もよく見える星たちは、ナマエが教えてくれたものばかりだ。
 あそこで少し赤く光る星は祈ると武運を授けてくれる。もうすこし西にずれたところでか弱く光っているあれは、恋の星。星空のど真ん中の、一際輝く大きな星は、ラッキーになれる星。ナマエに教わった日から今日まで、どれも変わりなく夜空を彩っている。
 くだらなくて少し笑えてしまう話から、本当に祈ってしまいたくなるような話まで。隣で瞳をきらきらさせながら思うままに語るナマエの姿に見とれつつ、俺はナマエの話の細部に至るまでをしっかりと聞いていた。それくらいにはナマエとの時間を好んでいた。もちろん、ナマエ自身も。
 けれどもう、星のことを教えてくれるいたいけな少女は――ナマエは、俺の隣にはいない。村が襲われたあの日、未来を潰されたいくつもの命のひとつがナマエだった。遣る瀬ない。星空を見るたび、この世界から消されてしまったあの笑顔を思い出す。そして同時に、最後にナマエと会った日に彼女が言っていたことも、脳裏をよぎる。

「あれはね、私のお母さんの星」
「ナマエの母親?」
「うん。人はね、死んだら空に昇って、お星様に成るんだって。お母さんも星に成って、私のことをいつでも見ててくれてるの」
「……そういうもんなのか?」
「そうだよ。だから新しくお星様が増えたときは、いつも誰かが星に成ったんだって……、お祈りするようにしてるの」
「じゃあ俺も、祈っとく」
「うん。……ねぇソロ」
「ん?」
「もしいつか……、……」

 記憶の中のナマエが唇を動かす。俺はそれを聞きたくなくて、脳内で再生されるナマエを振り切るように首をぶんぶんと横へ振った。

「もしいつか、私が死んじゃったら。うんと綺麗な星をナマエの星って思ってね」

 思い出したくない。そんな洒落にもならない、今までナマエと話した中でいちばんくだらないこと。ナマエはそれを、ほんの少し寂しそうに笑いながら言ったのだ。まるで自分がもうすぐ死ぬと予感していたように。そしてナマエは死んでいった。ナマエの予感が真実だと示すみたいに、死んだのだ。

 ナマエの言うことをたちの悪い冗談だと笑い飛ばしたかった。けれどナマエが死んでしまった今はそれもできない。だから大人しくナマエの言う通りにしてやろうとした。
 夜空で一番綺麗な星。多分あれだ、と指で示したのはラッキーの星だった。祈りを捧げるとその人に幸運を運んでくれるそれは、きっとナマエによく似合う星だ。精一杯祈るから、もう一度ナマエに会いたいと、そんな子供じみたことをお願いした。それが叶ったら、ナマエの言った色々な冗談も全部本当だと思ってやろうと、そうやって今までの日々を星に祈りながら生きてきた。
 ナマエが俺の前に現れたことはない。当然だろう、ナマエは死んでいる。けれど到底諦める気にはなれないのだ。諦めたときに、きっと俺の中に根付いたナマエも一緒に消えてしまう。そうはなりたくなかった。毎夜星に祈りながら、俺の内側で生きているナマエに世界を見せてやりたかった。滑稽な生き方でいい。そうやって俺は、「ソロ」を生きていきたいのだ。


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