なんでかな。天井を見ながら呟いた。
 なんでわたしが、風邪引いて寝込んでるんだろう――確実にこの前の雪遊びが原因だけど、どちらかと言うと風邪を引きそうなのはミシュアの方だったと思うのに。けれど現実に熱を出しているのは、わたしの方だった。
 風邪なんて久しぶりに引く。馬鹿は風邪引かないとはよく言ったものだ、いつもそう思っていたけれど、わたしでも風邪は引くものみたいだ。もしかして、わたしは馬鹿ではないのかも……と、そこまで考えて、やっぱりそれはないやと否定の見方が出てきた。

「ナマエ、大丈夫?」

 熱に浮かされて薄ぼんやりとした視界に、ミシュアの金の髪が割り込んでくる。心配そうに細められたターコイズブルーと、視線がかち合った。

「うーん……ちょっとだけきついけど、へいき」
「大変ね……何か食べたいものはある?」
「ううん、大丈夫」

 ミシュアを安心させたくて笑ってみるけれど、格好のきまらないへにゃへにゃした表情しか作れなかった。
 ミシュアはより一層心配そうな顔をして立ち上がり、わたしの寝ているベッドの横をうろうろする。まるで檻の中のクマみたいだ。ミシュア、心配しすぎと声をかけると、だって……と返ってくる。本当にわたしを心配してくれているんだと分かって、熱の苦しさも忘れて嬉しさを感じた。

「ほんとに、大丈夫だから」
「でも、ナマエが苦しそうなんだもの。何かできることがないかって、私……」

 元の場所、わたしのベッドの横の椅子に座ると、ミシュアは身をずいっと乗り出した。確かに逆の立場だったら、わたしもミシュアのためにできることを探すだろう。大事な人のために何もできないのは、苦しいのだ。だからわたしは、今ミシュアにやってもらいたいことを頑張って考える。
 あっ、思いついたわたしは、そんな声を漏らした。自分の思った以上に掠れた声が出て、少しびっくりする。

「じゃあさ、ミシュアは、わたしの手を握っててよ」
「えっ……、そんなことで、いいの?」
「いいよ、それがいいんだもん……」
「ナマエ……」

 ミシュアはゆっくりと、わたしの方へ手を伸ばした。やがて触れる手。ミシュアの手は普段なら暖かいけれど、熱が出ているせいか、今日は少し冷たく感じた。

「ありがと……ミシュア」
「こんなことしかできなくて、申し訳ないけど……」
「そんなこと、ないよ」

 ミシュアがこんなに心配するなら、わたしは早く元気にならないといけないな。熱のせいで不安にかられた思考が、ミシュアのお陰で一点に収束していった。
 病気は人を心細くさせる。どこかで聞いたような言葉は本当だったんだと、わたしは今日、身をもって知った。ミシュアに手を握ってもらってはじめて、わたしは一人じゃないんだと安心することができたから。
 きゅっと、ミシュアと繋いでいる方の手に力をこめる。自分の今感じているより、もっとしっかりと、繋がって。ねえ、ミシュア。

 この手を離さないで。
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