朝になって、暖かいスープとパンを食べて、いつもより分厚い上着を羽織って。わたしとミシュアは、雪の降り積もった地面へ駆け出した。誰も未だ踏んでいない、まっさらの地面。そこへ、足跡をつけてゆく。
 わたしが雪の上へ豪快にダイブすると、少し戸惑っていたミシュアもえい、と白の中へ飛び込む。冷気が防寒具を突き抜けて全身を冷たさが包み込んでも、わたしとミシュアは笑っていた。たのしい。ミシュアといっしょだと、すごく。

「雪って、とても柔らかいのね!」
「わたしも飛び込んだのはじめてで、こんなにふかふかなんだって、びっくりしてるとこ!」
「ふふ、冬って素敵」
「うん! すごく楽しい!」
「ねえ、ナマエ?」
「うん?」
「……えいっ」
「へぶっ」

 起き上がったミシュアが、ひとすくいの雪をわたしの顔めがけて放った。すこし口の中に入った雪が、さっと溶ける。手で目や鼻についた雪を払い、目を開けると、ミシュアがちょっぴりいたずらっぽい笑顔を浮かべていた。

「やったね、ミシュア」
「うふふ、こうやって遊んでみたかったの」
「やられたらやり返すぞー!」
「きゃっ」

 わたしもミシュアに向かって、手いっぱいにすくいあげた雪のかたまりを投げつける。固めていない雪は宙を舞いながら少しずつ分散して、ミシュアの顔面に着地すると砕け散った。そうするとまた、ミシュアから雪玉が飛んでくる。

 わたしもミシュアも、お互いに髪も服もびちゃびちゃにして。駆け回ったり雪を投げたり、固めて小さなオブジェを作ったり。これまで無駄に過ごしてきた冬を取り返すみたいに、わたしは今までになく冬を満喫していた。わたしが笑えばミシュアも笑う。その逆も。ずっと笑いっぱなしで、気がつけばお腹がお昼時を知らせていた。

「そろそろ戻ろうか?」
「そうね、ちょうど良い時間……。はっ」
「ミシュア?」
「は、はっ……、くしゅ」
「……ふふ、ははは」
「これだけ濡れていると、風邪を引いちゃうわね」
「帰ろう!」
「ええ」

 踏み荒らした雪の大地を、来たときは逆の方向に歩いていく。あらためて見てみれば、わたしもミシュアも酷くびしょぬれだ。ミシュアのふわっとした髪の毛も、雪に濡れて皮膚に張り付いている。
 屋敷の扉を開けて、ミシュアに先に上に上がるように言った。お風呂からタオルを二、三枚ほど取って、パンやスープをトレイに乗せていく。おもむろに、後ろで物音がした。

「……ねえちゃん」
「ラスカ、起きてたんだ」

 横目で伺うと、ラスカはついさっき起きたところらしい。ラスカはわたしの格好を見ると、顔をしかめた。

「そんなびっしょびしょで、どこ行ってたんだよ?」
「外で遊んでたの。ちょっとはしゃぎすぎただけ」
「……一人で?」
「そんなわけないでしょ。ミシュアとだよ」
「ねえちゃん、またそうやって……」
「あーはいはい。風邪引いちゃうから上がるね」
「ねえちゃん!」

 ラスカのことは無視して、わたしは階段を上る。ラスカのうるさい話より、目の前のスープをこぼさないように運ぶ方が今は大切なのだ。わたしの部屋の扉を開けて、テーブルにトレイを置く。はじめに取ったタオルも、お互いに行き渡るように分配した。
 たっぷり水分を含んだ服を脱いで、髪の毛もぬぐっていく。話題は、ついさっきのラスカのこと。

「ラスカが最近うるさいんだ」
「きっとナマエが心配なのね。だって、たった一人のお姉さんだもの」
「ミシュアもいるのにね」
「やっぱり、本当の家族だから」

 わたしはそんなこと関係ないと思うなあ。前髪を整えながら、考える。わたしが何かと危なっかしいというか、有り体に言ってしまえば馬鹿だから、ラスカも黙ってられないんだろう。ちょっと悲しい想像だけど。
 それに、ミシュアは本当の家族みたいなものだ。たまたま血が繋がっていないというだけで、わたしとミシュアの間に結ばれたものは家族の絆と呼べるだろう。わたしたちは、もうとっくの昔に家族なのだ。それを伝えると、ミシュアは嬉しいと言って笑った。その様子を見て、わたしも嬉しくなる。そうだ、わたしとミシュアは、家族。だからね、ミシュア。

 ずっといっしょにいてね。
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