ひとりきりで眠る夜は暗くて寒い。指先まで凍えそうだと、きゅっと握った手のひらがシーツをつかまえて、皺が寄って波打つ。
 こんな日はなまえさんの手を握って暖を取っていたものだけれど。それがなくなって何よりも冷えたのは、胸の内側。はあ、と息を吐いても暖まらない。寒さが身体を蝕んで、いつか氷になってしまうのではないかと思う。
 凍えて縮こまった姿勢で転がるベッドは、なんだかひどく広く感じられるのが不思議だ。なまえさんの部屋のシングルベッドは大人ふたりが眠るにはすこし狭くて、毎日互いの体温を感じるくらいの距離で眠っていたのに。シングルベッドにひとりで眠るだけで、白いシーツが海のように広がっているのではないかと錯覚を覚える。
「海、あるいは……」
 他の喩えをぽつぽつと呟こうとして、やめた。海の方が都合が良い。海の波はいずれ、ここに返ってくるからだ。どこか遠くに消えたなまえさんが、波にさらわれただけでいつか帰ってくるのではないかと――本当はわかっている、つもりだ。もう終わったことだというのに、いつまでも終わらせられずにしがみついたまま。そうでなくたって、明日は来てしまうのに。
 ひとりきりの夜は暗くて寒くて眠れない。瞼を下ろして、目の裏側に懐かしい人の姿を描くのも良いけれど。それでも自然と眠ってしまうまで、暗闇に目を凝らしていようと思う。あの人がこの腕の中に戻ってくる、ほんのわずかな光明も見逃してしまわないように。



*ŹOOĻ単独2日間お疲れ様でした!
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -