なまえさんの部屋には、漠然と夜のイメージがある。
 そう伝えるとなまえさんは軽く首を傾げたあと「なにそれ」と笑った。高い位置から射し込む太陽の光が、なまえさんの柔らかな髪を照らす。
「ここで会うのは夜が多いですから」
「言われてみれば、そうかも?」
「けれど時間が違っても、ふふ……していることはいつもと変わりませんね、私たち」
 ベッドに身を預けるなまえさんに甘える形でもたれかかって、指先で髪を弄ったり、なだらかな腰のラインを撫でて遊ぶ。今が何時で外がどんな天気でも、過ごし方は特に変わらない。
 ただ、時間帯が違うと何となく受ける印象が違うのだ。薄暗い部屋をぼんやり月明かりが照らすいつもの光景とは違って、なまえさんの蜂蜜のような瞳の色がよく見える。当たり前のことだけれど、なんだかそれがひどく新鮮に感じられて、思わず言葉にしてしまった。
「……夜の方が好き?」
 なまえさんの髪を弄っていた指先をつかまえて、なまえさんが問う。そのまま指どうしを絡めあって、手のひらがきゅっと握られた。
「どうでしょう。なまえさんには月明かりが似合いますけれど、陽だまりの中にいるあなたも綺麗ですから」
「そう」
 満足したのかなまえさんは笑って、「眠くなってきちゃった」と目を閉じる。あたたかな光に包まれて、たしかに午睡にはちょうどよさそうだった。
 この人、人前ではあまり眠れないはずなのだけれど。私の前では堂々と寝顔を晒す愛しい恋人を、もう少しだけ眺めていようか――ああでも、残念。私にも睡魔がそこまで忍び寄っている。なまえさんの隣に横たわって細い身体を抱き寄せると、既に夢の中らしいなまえさんが私の胸に頬を軽く擦り寄せた。
 いつもと同じように過ごす私たちの小さな日常の一コマに、一言では表し切れない大きな愛がある。一人には大きすぎるから人は誰かと共にいるのだろう。かつて憧れたあの人が言っていたこと、今ならわかる気がする。この部屋にそそぐ陽だまりが二人分でちょうどいいのはきっとその証明であるのだと、意識を深く沈ませる手前、そんなことを考えた。



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