なまえさんのことを誰よりもよく知っている自信が私にはある。下手したら本人よりも。下手したらというか、なまえさんという人は、自分で自分のことをよくわかっていないのだ。
「……そう?」
「ええ」
「たとえば?」
 生活感の少ない部屋で私に身体を預けているなまえさんが、指先で私の髪の毛先を遊ばせながら問う。たとえばといっても色々あるんですけれど。あなた、自分がされて嬉しいことも嫌なこともわかっていないでしょう。好きな食べ物も、好みの物語も、好きな男性のタイプも――ああ、これは私だから大丈夫ですね。その他にも、エトセトラエトセトラ。
「……なまえさんは、あなたが思う以上に私のことを好きになったでしょう。けれど私の方が先に勘づきました」
「そんなことないよ。最初から好きって言ってた」
「ええ。でも、その時は失敗するだろうと思っていたでしょう」
「………」
 黙ってしまったなまえさんの輪郭をそっとなぞる。大丈夫、怒ってなんていませんよ。この人は意外と心配性だから、わかりやすく教えてあげないと不安になってしまうのだ。手のかかる人だけれど、私がいちばんこの人を理解しているから、私だけがこの人の傍にいることができる。なまえさんの素顔を知っているのは私だけ。なんていい響きだろう、それだけで、なまえさんを手放す気なんてさらさらなくなる。
「もちろん今は違うこと、きちんとわかっていますからね」
「……、巳波くんがそういうなら、そうだよ。きっと……」
 わかりやすい照れ隠し。少しずつ感情をあらわすようになってきたことだってもちろん気がついている。窓際で佇む観葉植物もその証人になってくれるだろうから、間違いなんてひとつもなかった。


(Sugao楽・巳波でWパンチ食らったので記念に書いたやつです)
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