ボクたちは奪う。殺す。そしてなくす。地上には滅びしかないから。難しいことはよくわかんねーけど、それがこの世界のセツリというやつだ。
 ボクも、オルカも、ヴィダも、これまでに何人の命を奪ったのかわからない。何人の仲間をなくしたのか覚えてない。それでも、この土地には死の匂いが染みついていて、それが夜深くに眠るボクたちに、いつか死んでいったみんなの顔を見せる。
 浅い夢の底を浮かんでいるみんなは、うれしそうに笑っているんだ。楽しそうで、良かったな。ボクも楽しくなりたいよ。不幸はもうたくさんだ。手を振ってやろうとすると、そこで目が覚めてしまう。
 ――昔、ひとりの子供をヴィダが殺したときから、ずっとそうだ。


 その子は、生まれたときから一緒にいた女の子だった。
 雨を凌ぐ屋根もない、食べ物も水もない、最低最悪の汚い場所で、ボクたちはひとつだけの小さなパンを分け合って育った。
 第十二地区の子供たちは、男は殺しができるようになったら盗賊稼業の方に駆り出される。女は重い武器を振るえないから、雑用をするか物陰で丸まっているかのどちらかだ。
 ヴィダやボクをそろそろ実戦で使うという話が出てきたころ、食事の回数が一日一回になった。大人たちが集まってひそひそ話していることが増えた。
 ――ボクたち第十二地区は、生活が立ち行かなくなると人を減らすことがある。せっかく生まれてきたとしても、普通に成長できるのが五割、そこから『減らす』対象にならずに大人になれるのが三割。ボクたちは運良く生きている五割の子供だった。
 そしてある日の朝、その日一日を凌ぐためのパンを渡されたとき、ヴィダにだけ、何かが告げられた。その日のパンは、ヴィダとオルカと、ボクだけが食べた。パンは水分が少なくて喉が渇く。もさもさと口を動かしても、あんまり味がわからない。
 そっか。あいつは三割に入れなかったのか。食べながら心の中でそう呟くと、まあそうだよな、なんて返事が返ってきたような気がした。
 日が顔を出して、いちばん高いところまで昇って、だんだん落ちていって、やがて星が出る。冷たい風には砂が混じっていて、肌をざらつかせる。子供はもう眠る時間だったけど、その日だけは違った。
 渡された刃物を握ったヴィダが、座らされたその子を見下ろす。

「何かあれば、言っとけ」

 振り上げられた刃を見上げて、星を反射したふたつの目がゆっくり笑った。本当にゆっくりだった、もしかしたら時間が止まったのかもと思うほど。

「ヴィダは、どうか、死なないで」

 最後の一音がボクの耳に届いたとき、ヴィダが振りかぶったそれを下ろした。ブン、走っている風をふたつに割る音。軽いものが地面に落ちる音がして、もうそのときには、生まれたときから一緒にいたその子は、動かなくなっていた。

「死なねぇよ。俺は」

 そう言ったヴィダは、次の日から戦闘に出ることになった。


 ボクたち黒縄夜行は奪って殺す。目についたもんをぜんぶ食う。それと同じくらい、色んなものをなくす。もともと何も持ってないのに、なくすなんて不公平だろ。だから、もっと色んなものを奪う。
 わかる? ここには滅びしかない。みんな死ぬんだ、奪われるんだ。そうやって生きてきたんだよ。ボクたちは、なくしたものを踏みつけながら生きていくしかない。だからオマエは死んでくれ。ボクたちが今日を生き延びるために、死んでくれ。
 ああ、なんか、喋りすぎたかも? ヴィダはいつも何も言わないけど、こんなこと喋ったってバレたら、もしかしたら怒るかもなあ。
 でもいいか。ナントカに口なしって、言うもんな。それじゃバイバイ。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -