家に帰ったら、今日あったことを話す。
 御堂さんが今日は珍しく一番乗りで、亥清さんは学校のテスト前だからと楽屋で暗記カードをめくっていて、狗丸さんは御堂さんの載った雑誌を見ながらポーズの勉強をしていて。賑やかな人たちだから、いつだって話題には事欠かない。帰り道、今日は何を話そうと考える頭の中には、面白いくらいにあれもこれも浮かんでくるのだ。

「面白いでしょう。みなさんのお陰で退屈させられることもなくて、毎日、充実していますよ」

 なまえさんはどうですか。私が帰ってくる頃にはいつも部屋は真っ暗で、それほど長い時間ここを空けてしまっては、あなたは退屈かもしれませんね。でも一人が好きだと言っていたから、巳波くんがいない間も平気だよ、そう言ってくれるのでしょうか。

「……。ねえ、なまえさん……」

 会いたい。言葉にするのは簡単で、実際にするのはとても難しい。あなたは言葉より行動の方が得意だったでしょう。だから、その四文字を飲み込んだ私の代わりに、あなたが会いに来てくれたら良いのに。
 なんて。こんなことを考えていると知られたら、きっとなまえさんを困らせてしまう。言いかけたそれは腹の中に押し込めて、別の言葉を。

「私、今日もきちんと、あなたのことを好きでしたよ」

 好きだと言ったら、同じ言葉が返ってくる。私も好きだよ。同じだよ。何度も繰り返して思い描いたその声の耳触りも、いつの間にか忘れてしまった。それでも私は、今日も明日もずっと先も、あなたのことだけは忘れられないのでしょうね。忘れられないのに、思い出だけではやっていられない。三流以下の筋書きだと、思いませんか。
 額の中のなまえさんはすこしぎこちなく微笑んで、今日も変わらず、私の話を聞いている。
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