「お誕生日おめでとう、悠くん」
 ──誕生日おめでとう、悠。一度だけ聞いたその言葉がだぶって聞こえたから、心臓が嫌な音を立てた。あの、地の底を這うような、生気のない声が頭の中で渦巻いて不快だ。アメリカの冬は日本のそれより寒かったことを思い出す。
「……何だよ。別に祝ってなんて頼んでないのに、こんなことしなくたって」
「好きな人のお誕生日はお祝いしたいから」
「好き、とか……」
 紙袋を差し出してにっこり笑った同い年の女の子が、悪魔に見える。
 好きなんて、簡単に言うなよ。期待させておいて、いつかは手のひら返して嫌いだって言うくせに。ばか。ばか。ばーか。無責任だろばーか。
 思ったことぜんぶ、口から出ていたらしい。オレの言葉なんて想定内みたいな顔しやがって。
「……、悠くんは、素直じゃないね。そういうところも好きだけど」
「は? なんでそんなこと言われなくちゃいけないわけ……」
「だって、それ、大事に抱えてくれてるんだもん」
 しまった。知らない間に両腕でぎゅっと抱きしめていたけど、これじゃ喜んでるように見える。
「あ……、か、勘違いすんなよ! うれしいわけじゃないし……!」
「えへへ、ありがとう」
「だから……! あーもう、ばーか!」
 紙袋で顔を隠す。ふふふ、と笑う声が聞こえた。
「来年はありがとうって言ってくれたらうれしいなあ」
 来年も祝うのかよ。本当にオレのこと好きみたいじゃん。そう言うと、目の前の女の子は「そうだよ」と言って笑った。

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