愛情は毒だ。甘美な煌めきで引き寄せておいて、癒えない傷を残して消えていく、狡い劇薬。桜さんが私に教えてくれたのは、残った傷を走る、灼けるような痛みだ。
 それなのに。
「私のものになってくれないなら、私の心を奪わないでください。私に毒を飲ませるなら、どうか、私の毒も飲んで……」
 それなのに、また他人の毒を飲んでしまった。私の核を明かして、委ねてしまった。彼女が、抱きしめる腕の温もりなんかを私に教えるから。睫毛が落とす陰も、指先の優しさも、知らなくて良かったものなのに。視線が囚われたから、知ってしまった。
 途方に暮れる私をあなたがどうするか、知らない私ではなくなっている。そっと私の背に腕を回して、あなたは言うのだ。
「いいよ、巳波くんの毒なら、ぜんぶ飲んであげる」
 そうやって、甘い言葉でまた私を騙そうとする。いつかはいなくなるくせに、私を置いていくくせに。
 愛されたい。いなくなるなら、愛したくない。綯い交ぜになった願い事のせいで、今日も私が焦げついている。
「私、嘘は嫌いです。あなたをまだ嫌いになりたくない」
「うん。私も巳波くんに嫌われたくない」
 だから、大丈夫。そう言って背筋を撫でる手のひらの、なんて愛おしいことだろう。どうしようもなく惹きつけられて──林檎に口づける瞬間を、きっと蛇が見ていた。

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