クリスマス、というと特別な日なのだろう。特に妙齢の女性にとっては。恋人と、友人と、あるいは家族と。何かしらの予定を入れていて然るべき、という認識がスタンダードのような気がする。
「巳波くんはクリスマスの予定ある?」
「ありません。強いて言うなら仕事です」
「そっかあ」
 にこにこしながら言うその人は、なぜだか毎日私に好意を伝えてくるわけのわからない人だ。そういうあなたはどうなんです、と話を振ると、彼女は目を丸くして私を見た。
「あるんですか? クリスマスの予定」
「うん、あるよ」
 即答した眼前のその人を、思わず凝視してしまった。時間が止まったような気さえする。私は彼女と約束していない。それなのに、彼女の予定はフリーではないのか。一体なぜ。
「ご家族と?」
「ううん」
「同性のお友達と」
「ううん」
「……異性の、お友達と」
「ううん」
「じゃあどなたなんですか」
「巳波くん。まだ約束してないけど」
「………」
 大きなため息が漏れそうになるのを堪える。心のどこかでほっとしたなんて、そんなことはない、はずだ。
「喜んでる?」
「呆れているんです。約束もしていないのに予定があるなんて」
「えへへ。この後誘おうと思ってたから」
「そうですか。お断りします」
 踵を返して立ち去ろうとすると、「ええー」と彼女がついてくる。ねえねえ巳波くん、と袖を引かれるのがあまりにもしつこかったから。そう、仕方なく。
「……仕方ないですね。食事くらいなら」
 そう告げた瞬間綻んだ表情がほんの少しだけかわいらしいと思ったなんて、まさかそんなことは。

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