私、いまあのバッグが欲しいんだよね。
 そのセリフは、俺にとってひとつの風物詩だった。バッグではないにしても、何らかのアイテムが欲しいという主旨の発言を聞くと、クリスマスが近いことを実感させられる。その発言を覚えておいてプレゼントとして贈ってやるまでがワンセットなのだが、思えば今年は今日までそのセリフを聞いていない。それどころか、いま付き合っている女が何を贈れば喜ぶのかも、あまり確信を持てていない始末だった。適当なものを用意してセンスのない男と言われるのだけはごめんだ、とは思う。
「もうすぐクリスマスだろ。何が欲しい?」
 だから聞いてみた。たぶん、俺に用意できないものなんて要求されないだろう。用意できないものも恐らくないだろうが。
「うーん。特にないよ」
「いや、ないなんてことないだろ。バッグでも化粧品でも、欲しいもののひとつやふたつ」
「……あ」
 思いついた、と目の前の女は笑った。それをプレゼントにしようと、告げられる言葉に耳を傾ける。耳に滑り込む心地いい声。
「キスして欲しいな」
「……は?」
 聞き間違いかと思って正解を探す。探しても答えは見つからないまま、手を取られる。
「バッグもコスメもアクセサリーも、誰にでも用意できるものはいらないの。好きな人からじゃないとダメなのが欲しい。虎於くんだってシンデレラの魔法使いは嫌でしょ?」
 私の王子様。そう言って俺の手を撫でる手つきがやさしくて暖かかった。それ以上に自分の顔が熱い気がして、まともに相手の目を見られない。この俺が、魔法使いの立ち位置に甘んじるわけがない。
 くそ、負けた。別に勝負をしているわけでもないのにそう心中で呟いて、頬を撫でる。「甘くしてね」と囁いた唇に、自分のそれを思い切り押しつけた。

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