ひたすら、足の向くままに歩いた。ふらふら、ではなくて、しっかりした足取りだったと思う。あまりよく覚えていないけれど、ラーメンを食べたいと思ったことだけははっきり記憶に残っている。今とてもすごくラーメンが食べたい。誰しもがそういう経験をしたことがあるだろう。
「うどん屋……」
 ラーメンを食べたいと思ったはずだったけれど、辿り着いたのはうどん屋さんだった。お腹も空いていたし、仕方ないかと中に入る。何食べよう、きつねうどん? 本当は、食べたいのはラーメンなんだけど。ちょっとピリ辛の味が染みたお揚げが浮かぶラーメン。
 いやいや、ラーメンにお揚げってどういう組み合わせだよ。聞いたことないし。聞いたことないのに、なんで食べたいなんて思うんだろう。
「……きつねうどん、ひとつください」
 注文してしばらくして、お揚げの乗ったうどんが出てきた。二枚のお揚げはこんがり茶色でおいしそう。麺を啜って、……ちがう、これじゃない。私が食べたいのは、これじゃない。
 どうしてかわからないけれど、なぜだかとても悲しくて。それはとても大事なことな気がする。でも、私にわかるのはその気持ちの手触りだけだ。何もわからないまま、お揚げをひとくち齧って──またひとつ、目から勝手に涙が落ちた。

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