*夢主=了さんの姪でŹOOĻのマネージャー


 事務所の社長室に帰ると、やけに機嫌のいい了さんが鼻歌交じりに出迎えてくれた。
「ナマエ、おかえり。ご苦労様」
「機嫌いいね、了さん」
「まあね。ワクワクする面白い話を教えてもらったんだ」
 ふかふかの社長椅子でくるっと回ってみせた了さんが、立ち上がってスーツの襟元をぴんと伸ばした。
 了さんの機嫌がいい時は、面倒くささがなくなる時と余計面倒くさくなる時にわかれる。要は、本当に機嫌がよくて笑っているパターンと、実は機嫌が最悪というパターンがあるのだ。
「私のŹOOĻが勝つ、って言ったんだってね! 局の廊下でIDOLiSH7に宣戦布告したって、さっきたまたま見てたスタッフから聞いたよ」
「あれは、その……」
「私のŹOOĻ! かっこいいよねえ。僕、ŹOOĻをナマエにあげた覚えはないけど」
「………」
「いつからŹOOĻはナマエのものになったの?」
 後者だった。うわあ、めっちゃ面倒くさい。でもそうだった。了さんは揚げ足を取るのが得意で、小学生みたいなことを言うくせに、目と耳は小学生の何十倍も鋭い。
「……あれは、あの場に了さんがいなくて私だけだったから。了さんだってきっとあの場にいたら、同じことを言ったよ」
「ふうん。……まあ、言うだろうね。だってブラホワはŹOOĻが勝つから。僕のおかげでね!」
 私に言いたいことを言ったからか、了さんは機嫌を直してポケットから携帯を取り出した。年末が近づいて来て、了さんもやることが山積みなのだ。会社の経営もそうだし、ŹOOĻの仕事を決めるのは了さんだから。
 ああもしもし、僕だよ、今年のブラホワだけど……、聞こえてくる声から何の電話かわかってしまうから、どうにもやるせない。きっと相手はブラホワの審査員だ。ŹOOĻを勝たせるための電話。
 実力でもぎ取れるはずの王冠は、いったいいくらで手元に来るのだろう。それを手にした時、王冠は想像していたのと同じ輝きをしているのだろうか。
 ──本当は、了さんに言いたいことなんて山ほどあるけれど、アルバイトのマネージャーの立場の弱さは知っている。了さんを怒らせれば追い出されるだけだ。だから黙っているしかできなくて、小鳥遊さんのまっすぐな目を思い出しては勝手に悔しい気持ちになる。試合に勝って勝負に負ける、って、きっとこういうことを言うのだろうなと思った。
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