「何で今日そんな平面主張してんの?」 野球部の朝練も終わり、ジャージから制服に着替え席について一息ついたところで御幸が私の頭を指してそう言った。 伸びてきた前髪がそろそろ邪魔になったので上げて行った結果の一言がこれである。 何故今日はデコを主張しているんですか?ならまだ分かるが言うに事欠いて平面。 悪かったわねデコが広い上に平たくて! 「御幸って本っ当デリカシーとかそういうのが無いよね」 ちょっとでもかわいくしようと逆毛を立ててボリュームを持たせたとか、そんな朝の努力もむなしくなるような一言を言い放った男・御幸一也にがっかりしたように溜息をつく。 別にコイツに褒めて貰いたくてやった訳ではないが朝からそんなことを言われては明日からこの髪型やめようかなという気になってしまう。 コイツはコイツで「そうか?」と言っていて腹が立ったので「だから友達が居ないんだよ」と普通の人なら心を抉られる一言を言ってやる。 しかし野球があれば他は別にを地で行くこの男は普通の人の範疇に入らない為何がおかしいのか「はっはっはっ、ヒデー」と笑っていた。ずっと思ってたけど、笑いのツボも他とちょっとズレてるよね御幸って。 残念ながらこの間の席替えでコイツの隣の席になってしまった私なので頬杖をつきながらにやにや私のデコ(コイツ風に言うなら平面)を眺める御幸の相手をしてやらなければならない。 ちょっと倉持、こんな時だけ真面目に授業の準備とかしてんじゃないよ。 斜め前の倉持を話に引きずり込む為「っていうかそんなん言うなら倉持とかゾノは毎日平面主張してることになるから」とわざと名前を出せばヤンキー顔だが根は世話焼きな彼は「おい俺らを巻き込むんじゃねーよ」とこちらに振り返ってくれるのだ。流石倉持、優しい。 「オデコ広くてかわいいねって言いたかったんだけど」 「何にせよ一言余計だしほめてんのか貶してんのかハッキリしてくれない?」 オデコ広くてかわいいねって何だ。褒め言葉としては微妙であるが御幸的に褒めているらしいのでもやっとした物は残るものの褒め言葉として受け取っておくことにする。 「苗字って何で俺にだけそんな喧嘩腰なの?」 「別に喧嘩腰じゃないじゃん」 「その言い方が既に喧嘩腰だし」 なあ倉持、と倉持に話を振った御幸だが私同様「俺を巻き込むんじゃねー」と言って再び前を向いてしまう。寂しい。 寂しいよ倉持寂しいよ〜もっかい振り向いて〜と脚をバタバタさせていると「こら、バタバタしない」と何故か隣の御幸に怒られた。お母さん以外でこらと言われることはそうないのでちょっとびくついて大人しくやめた。 「つーかお前は授業の準備しなくていいの。よく教科書忘れてんだろ」 数学の教科書ちゃんと持ってきたのかよ、と問われ、はっとした。 「……持ってきてない」 「……」 「……御幸くん」 「……何だよ」 「……教科書見せて下さい」 「購買のメロンパン一個」 「えっ、そんな競争率高いやつ!?」 「苗字ちゃん俺と教科書半分こするの何回目?」 「……今月入って4回」 「それ覚えてんなら持ってくる努力をしろよ」 ベチンと思いっきりデコピンされた。痛いと唸っていると「その前髪だとやりやすくていいな」と隣で御幸が笑っていたが私はこの先こいつの前で二度とこの髪型をしないと決めたのだった。 150120 ×
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