倉庫 | ナノ




引き出し事件(私はあれをそう呼んでいる)があってから1週間がたとうとしていた。
この1週間、何故か風丸とよく目が合う気がする。
今も何か視線を感じると思ってその先を見ると風丸がこちらを見ていて、ばっちりと目が合う。何なんだ一体。思わず顔をしかめていると「僕、お邪魔かな」と私のデスクと風丸のデスクに挟まれて座っている吹雪くんが突然そう呟いたため慌てて「全然邪魔じゃない!」と言ったら「まあ邪魔だと言われても退けないんだけど。君たちもちゃんと仕事した方がいいよ、部長が睨んでる」部長の方向をこっそり指差したのでそちらを見たら吹雪くんの言う通りこっちを睨んでいたので急いで仕事に戻った。


昼休憩。今日も別の部署から差し入れ、と手作り弁当を渡されている吹雪くんを見ながら相変わらずモテるよなあとコンビニのお弁当を口に運んでいると、わざわざ吹雪くんと席を交換して風丸が隣にやってきて、「苗字、箸の持ち方おかしい」
何それあんたそれ言うために席交換したの?おかしくない?風丸に正しい箸の持ち方をレクチャーされながらも私は必死に怪訝な顔をしないようにした。昨日の今日ならぬ1週間前の今日である。ここで嫌な顔をして風丸の気分を害せば私がずぼらだってバラされるかもしれない。そうそう、と風丸の指示通りに持った箸を見て満足げに頷いた風丸を見て溜め息をつきそうになるのを抑える。それにしてもこないだといい今日といい、なあんか風丸って

「お母さんみたい」

やってしまった。ぽろっと滑らせた口から出た言葉に風丸はいたく心外だとでもいうような顔をしている。

「やっぱり苗字はだらしないな」

しかし次の瞬間には先程私が言った言葉の仕返しとも取れる台詞を言い放ったので、今度はこっちがむっとする番だった。たしかに私はだらしないけどもそれをはっきり言っちゃうってどうなのか。そんなに仲がいいわけでもないのに。未だ不機嫌そうな顔を崩さない私を無視して、「苗字っていつもコンビニなのか?」風丸は自分のお弁当を頬張りながら私に尋ねた。まあさっきのはお互い様かと機嫌を直した私が「そうだよ」と言えば「ふうん」と自分で聞いておいた癖に気のないお返事。そして聞いた本人も私と同じコンビニ弁当を食していて、蓋のところを見たら幕の内弁当と書かれていた。ちなみに私はハンバーグ弁当である。一応ダイエットしようという気はあるのだが、どうしてもお店に行くと食べたい物を優先してしまうので、私が本気でダイエットしたいならカロリー制限じゃなくてジムで運動だろうなと思う。まあいまのところする予定はないけれど。二人して黙々とご飯を口に運んでいたら、丁度1つ後輩で人事を担当する春奈ちゃんがデスク横を通りかかり「仲がいいですねえ」と微笑みながら去っていったため何だか微妙な気持ちになった。多分それは複雑そうな顔をする風丸もだろう。つーかそんな顔するぐらいだったら吹雪くんに言って席変わればいいのにさ。


本日の仕事も一通り終えて、さあ帰ろうと更衣室から出たら、お隣な男子更衣室から同じように出てきた風丸とばったり出くわしてしまった。なんだか今日は彼によく会うなあ。
しょうがないので玄関まで一緒に行くかと「今日来た取引先の帝国の人の顔が怖くてさあ」なんて話しながら歩いていたら玄関までなんてあっという間だった。

「苗字って電車だっけ?」
「そうよ、風丸は車でしょ?」

いいなあ、と呟いたら「車にしないのか?」と返ってきたのだが、うちの家は両親の車2台しか停められないし、近くに駐車場もないため自分の車を買えないのだ。両親どちらかのを借りようにも二人共働いているため両方出払ってしまうのでその旨を伝えたら、「大変だなあ」と困ったような表情をしたので「せめて近くに駐車場があればね〜」と溜め息をつく。まあ電車通勤も色んな人が見れるから悪くはないんだけどね、と前向きに考えることにしている私は「そろそろ帰るね」と風丸に別れを告げようとする。すると「よかったら家まで送ってくけど」とキーを見せながら風丸が言うので思わず目を見開いてしまった。
110825

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