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※とある博士に私物化された元ミサカ7777号とヒソカ


空から女の子が降ってきた。なんてラピュタだと思ったけどセオリー通り受け止めてあげた。女の子は目をぱっちり開いてボクを見た。

ミサカのこと呼んだのってあなた?

‥‥これは新しい逆ナンか何かだろうか。突然空から降ってきて、受け止めてあげたらミサカのこと呼んだのってあなた?と言う。斬新すぎる。GI内の恋愛都市アイアイならまだしもここは現実だ。というかミサカというのはこの女の子のことだろうか。

「君の名前はミサカっていうの?」

「そうだよ。ミサカXっていうの」

ミサカエックス。ミサカ=エックスとセパレートなのかミサカエックスという一つの括りなのか。疑問は次々と浮かぶ。見たところ念能力者でもなんでもないようなので疑問だけ解決したらさっさと殺してしまおう。あなたの名前は?と聞くミサカエックスに「ヒソカ」と答えると「ヒソカとミサカってなんだか似てるねー」‥‥最後の一文字だけじゃないか。

「君はどうして空から降って来たんだい?」

「それには深ーい訳があって、最初から説明するとものすごく長くなるんだけど簡潔に言うと何かに呼ばれたから声のする方に言ったら落ちた」

「なるほど、全然わからない」

長くなってもいいから最初から説明してよ、と言うと「ミサカが生まれたところから始まるけどほんとにいいの?」なんでそこまで遡ってしまうのか。見たところ14歳前後の彼女の生い立ちとなるとそれは長くなるだろう。しかし、めんどくささより湧き上がる自分の探究心の方が勝った。いいよ、と言えば「じゃあ話す」と言って彼女は話し始める。

「まず、ぶっちゃけてしまうとミサカは人間の形をしてるけど純粋な人間じゃないのね」

「最初からすごいぶっちゃけ方したね」

出会って数分だがこの女の子は今まで見た誰よりも予測不能だと思った。自分が変だという自覚はあったが、彼女はボク以上に変だった。

「ミサカは学園都市って言うところから来たんだけど、まず学園都市って何か分かる?」

「聞いたことないな。それはどこにあるんだい?」

「日本って国の東京にある」

「まず日本という国を聞いたことがないね」

「‥‥なるほど」

イカイオクリって文字通りなんだ、と一人で頷く彼女の言葉を拾って「イカイオクリ?」と口に出せば「こっちの話。ミサカの生い立ちを聞けば自然と分かるからちょっと黙って聞いててね」何故だか話の主導権を渡すこととなった。釈然としない。

「まず学園都市っていうのはものすごく科学技術が進んだ都市って思ってくれればいい。その学園都市には発電や発火、空間移動みたいな超常現象を引き起こす能力者ってやつがいるの。学園都市はこの能力者を薬物刺激や催眠術とかの脳開発を行うことによって人工的に作りだしてるのね。もちろん能力者にもレベルはあって、下から順に無能力者、低能力者、異能力者、強能力者、大能力者、超能力者ってランク付けされてる。学園都市の6割は測定不能や効果の薄い無能力者ってやつに該当して、高いランクの能力者はあんまり居ない。その高いランクの中の最高ランクが超能力者で、超能力者、つまり単独で軍隊と戦えるレベルの力を持つのは学園都市に7人しか居ない。その超能力者、通称レベル5の中でもランク付けがあるわけだけど、ミサカは第3位の能力者から生み出されたのね」

「その第3位ってやつのお腹から産まれたってことでは無いんだよね?」

「そう。最初にぶっちゃけたとおりミサカは純粋な人間な訳じゃなくて、彼女のクローンとして生み出された薬品と蛋白質の合成物なの。なぜミサカが生み出されたかと言えば、簡単に言うとレベル5を量産したかったって話なんだけど、生み出されたミサカたちのスペックはオリジナルの2%にも満たなかった。だからレベル5の量産計画は中止されたんだけど、ミサカたちを使って新しい実験が行われることになったのね。リサイクルってやつ。新しい実験の名前は絶対能力進化実験。目的は学園都市第1位の男をレベル6に導くこと。ミサカ達はその実験の実験動物になったの」

「実験動物、の前にミサカ達って?生み出されたのは君一人じゃないってこと?」

「うん、生み出されたクローンはおよそ2万体。ちなみにミサカの本当の検体番号は7777号。この2万体のクローン達を全部殺し切ったら第1位は前人未到のレベル6になる予定だったんだけど‥‥まあ色々あって10031号までが殺されたところで計画は破綻したわけ」

10031号まで。1号から順番に殺されていったと考えれば7777号と自称した目の前の少女は既に殺されている筈ではないのか。まさかこの子霊体とかじゃないだろうな。表情を崩さず彼女を見ていると、「なんでこのミサカが殺されてないと思ったでしょ」と彼女は笑った。

「今度はミサカ7777号がミサカエックスになった話をするね。これは結構しょうもない話なんだけど、最初にミサカを量産した計画のときに居た研究者の一人にろくでもないのがいてさ、“こんだけ居るなら一人ぐらい攫って行っても分かんないだろう”ってミサカ7777号を私物化しちゃったわけ。もちろんバレたらやばい訳だから、ミサカの顔や髪型、造り替えたり感情データを入力したりミサカネットワークにも細工をして、元ミサカ7777号を完全に個人の所有物にしちゃったの。そんだけ細工やら何やらしたのに名前をつけるのをめんどくさがってミサカエックスって呼んで自分の研究所に隠してたわけだけど、量産計画に加担してた誰もそれに気付かなかったらしくて新しいミサカ7777号が生まれちゃったのね。ミサカの代わりに殺されてくれたのはその新7777号で、ミサカエックスは7777号という幸運ナンバーに違わぬラッキーを発揮して未だ生き続けてるってこと。で、ミサカがここにいる理由はミサカエックスがミサカ7777号だったとバレて処分するために学園都市に追われているのを何とかするためにミサカエックスを造った研究者、ミサカは博士って呼んでる、が自分の作り出した異次元空間を使ってあらゆるものを出し入れできるっていう学園都市の中でも異質な能力を持った『異界送り』に依頼してミサカを異次元空間に匿ってもらってたわけだけど、ミサカはその異次元空間の中で声を聴いたのね。だからその声のする方に歩いて行ったら、落ちて、それで今に至る」

今の説明で分かった?と聞く彼女に大体、と返すと「物分りの良い人で良かった!」とミサカエックスは笑う。エックスの部分はファミリーネームでもなんでもなくただの検体番号代わりでイカイオクリではなく『異界送り』というわけだ。疑問は解消された。どうしよう、さっくり殺しちゃおっかなとも思ったが新たな疑問が浮かんできたためちょっと保留する。

「君の生みの親の能力っていうのは一体?」

「『超電磁砲』、通称レールガンって呼ばれる発電能力だよ。ちなみにミサカっていうのはお姉さま(オリジナル)の苗字、ファミリーネームの御坂から来てる」

「クローンってことは君も発電能力なんだ?」

「うん、でもミサカは強能力者(レベル3)で“日常生活に活用可能で、便利と感じる”程度だから『欠陥電気』、レディオノイズって呼ばれてる」

電子ロックを解除できるぐらいなんだよねー、と話す彼女は

「ヒソカが殺そうと思えばミサカのことすぐ殺せると思うよ。ちょっとバチバチってするけど」

ヒソカがミサカのこと殺したいなら殺しても構わないよ、どうせ殺される運命だったし、ミサカのラッキーもここまでだったってことで

全てを悟ったような目でボクの目を見ていた。

「ボクがキミのこと殺そうとしてたこと分かってたんだ?」

「ミサカ、危機管理能力は恐ろしく欠如してるけどさ、ミサカのこと殺そうとしてるんだなっていうのは漠然と分かっちゃうの」

もう10031回も殺されてきたから。困ったように笑った彼女を彼女の言うとおり殺してやってもよかった。でも、殺していいよって言われて殺すのは何か釈然としない。ボク、天邪鬼なんだよねえ。

「んー、やっぱ殺すのやめたって言われたら嬉しい?」

「わかんない。ヒソカに殺されなくてもここに居たら他の誰かに殺されるかもしれないし、だからどっちでもいい」

「感情プログラムほんとにインストールされてるの?ロボットみたいだね、キミ」

まるでイルミみたいだ。最もかつて人形みたいだと思ったイルミと違ってこちらは本当に人形であるのだけど。

「失礼しちゃう、他の個体見て見た方がいいよ。全員目は死んでるしプログラム通りにしかしゃべれないからいかにこのミサカが人間らしいかよく分かるよ!」

ミサカ心外、と頬をふくらました彼女はイルミよりも表情豊かだった。そしてこのミサカエックスという個体に少し興味が湧いたのも事実だった。ボクが調教したら、もう少し人間らしくなるのだろうか。ボクが殺すと言ったら泣いてやめてと言うぐらいにはしてやりたいな。
120101

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