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「でね、結局教えてくれなくて」
「いやそれが普通だと思いますよ?」

夜9時50分、近所のコンビニにてバイト中のわたしが同じシフトだった三木ティ(同じ学校の後輩、友達の弟)に 三郎が好きな人教えてくれないんだよ、いとこなのに。と少し愚痴ると 「あんまり詮索しちゃだめですよ」と三木ティは少し困ったような顔をした。

「えー でもさ、竹谷とかは知ってるのに」
「友達といとこはまた違うでしょう」
「いとこって言ってもわたしは三郎のこと友達だと思ってるよ」
「なまえさんはそうでも鉢屋先輩の方は違うかもしれないじゃないですか」
「……そうだけどお」
「人の恋路に首突っ込んでもいいことありませんよ。あ、いらっしゃいませー」

そこまで話したところでレジにお客さんが来たのでこの話はそこで終了とばかりに三木ティが愛想よく笑顔を振り撒く。三木ティがスキャン、わたしが袋詰めをして、ありがとうございましたーとお客さんを見送ると「慣れたもんだよね」と最近研修バッジが取れた三木ティを見て言う。「なまえさんのおかげですよ」と笑いながら言った三木ティに「どこでそんな社交辞令覚えたの」といたずらっぽく返してみれば「社交辞令じゃありませんって」と三木ティは少し慌てたようにそう言った。でもまあ確かに三木ティとはほぼシフトが一緒で、一番一緒に働いていると自信を持って言えるため三木ティの研修バッジが取れたのはわたしの指導のおかげかな、なんてわたしも1年先輩なだけだけど。

「ほんとになまえさんのおかげって思ってますからね」と真剣に言う三木ティに「はいはい」と笑いながら返事をすると「ほんとに分かってます?」と頬を膨らますので「やだ三木ティかわいー」とわたしの背より若干高い位置にある頬をつつくと「なまえさんはほんとに人をからかうのがお好きですよね」不機嫌そうにそう言われた。





わたしと三木ティはもう10年以上の付き合いで、彼の姉とは幼稚園から一緒なためおのずと三木ティとの歴史も深いわけだが、昔はわたしのことを「なまえちゃん」と呼び、わたしとゆき(三木ティの姉)が遊ぶときは決まってわたしたちの後を付いて回っていたのに、中学校に入って以来何故か敬語だしなまえさん呼びだしで少し三木ティとの距離を感じていたのだが、三木ティは特に気にした風もないのでそこに少しむっとする。

「別になまえちゃんでも良いのに」
「え、なんですか急に」

突然そんなことを言ったわたしに三木ティは怪訝な顔でこちらを見た。むっとした顔をしているわたしを見て「ご機嫌ななめですね」。

「中学に入ってからの三木ティに対して不満が多々あります」
「は?」
「突然敬語なとことか、さん付けなこととか」
「今更言いますかそれ」
「今まで言おう言おうと思ってタイミング逃してたんですう」

こうなったら意地でも なまえちゃんと呼ばせてやろうと三木ティを睨むと「何で睨むんですか」と困ったような顔をされたが、「それよりなまえさん帳簿は完成したんですか、2年の帳簿はたしかなまえさんが担当してましたよね?」とすばやく話題を切り替えるあたりやっぱりゆきの弟だなあと思う(逃げるのがうまいって意味ね)。

「……あとは借貸の金額合わない原因探すだけだもーん」とちょっと口をとがらせて報告すると「その作業が1番めんどくさいんでしょう」 はあ。三木ティは溜め息をつくので「バイト中に委員会のことは言わないでよテンション下がるから」、と沈んだ口調で言うと あと5分で上がりですから元気出してください、と言われて時計を見ると確かに9時55分だ。よし、このまま三木ティと喋り倒して終わりかなー なんて思っていたら「このまま話しっぱなしで終わりですかね」と三木ティも同じことを思っていたようでなんだかちょっと嬉しくなる。



ちなみに三木ティとは同じ委員会で、地獄の会計委員会と呼ばれるその委員会は文字通り学園の会計を担当しているのだが、その現委員長の潮江先輩は先輩に対する礼儀やらなんやらにやたら煩い人だった。あと委員会中の私語厳禁と共に会計委員の誰かが何か不始末をやらかせば 文化系の委員会のくせに10kg算盤を持って校庭を何十週と走らされる羽目になる。委員会は文化系でも委員長は体育会系なのだ。っていうか電卓なんて便利なものがあるこのご時世に算盤って何それ室町時代じゃあるまいし。それに10kgってうちの委員長はふざけてるにもほどがある。

「……ねえもしかして三木ティが突然敬語とかになったのって潮江先輩の影響?」
「またその話ですか」
「いや今ふと気付いたのよ」

「あんたが潮江先輩に会ったのって中1だしあの頃からあの人礼儀だなんだ煩かったし」とわたしの見解を伝えると「まあそんなかんじです」と苦笑された。それと同時に「君らもう上がっていいよ、過不足もなかったし」と精算を終えた夜勤帯の人に言われたので二人で退勤登録をしにオーナー室へと歩く。名札をスキャンして勤務時間を打ち込み次のシフトを確認した後「おつかれさまでーす」と挨拶を済ませ更衣室に向かうと「なまえさん先どうぞ」なんて言われたのでお言葉に甘えて先に着替えることにする(更衣室といっても1人用の狭い空間なのだ)。制服を脱いで上着だけ羽織ると「三木ティどーぞ」と三木ティに場所を譲り、三木ティが着替えている間、「三木ティ次木曜日?」「そうです。なまえさんもですよね?」「うん」などと話してれば三木ティも着替え終わったようで二人で帰路についた(ちなみに三木ティんちとうちは向かいのため徒歩10秒超ご近所。コンビニも歩いて5分ぐらいなので普通にご近所。)

「姉さん寝てるかな」
「ゆき寝るの超早いよね」
「でも僕がバイトの日は起きててくれるんですよ」
「やだ超弟思い」

ゆきやっさしー、と軽口を叩きながら三木ティと帰ると5分なんてあっという間で、すぐに家が見えてきた。

「じゃあね、三木ティまた明日委員会で!」

そう言って家の前で手を振ると はい、また明日と三木ティも手を振る。明日からはなまえちゃんって呼ばないと返事しないからねー、などと言いながら玄関に逃げ込むと は!え、ちょっと!?と焦ったような声が玄関ごしに聞こえてきて玄関で1人笑ってしまった。かわいいなあ三木ティ。そんなわたしを「何笑ってんだよ」と呆れた顔で出迎えたのは三郎で、「いつもお出迎えどーもー」と三郎の頭を撫でる。わたしが夜のバイトから帰ると、三郎はいつも玄関で出迎えてくれる。夕御飯も終わりみんなそれぞれの部屋に戻っている筈なのに、三郎だけはいつもわざわざ玄関まで来てわたしに「おかえり」と言ってくれて、それがいつもすごく嬉しくて安心するのだ。「いつもありがとね、三郎」と彼の手を握りながら言うと「別に」とそっけない態度を取るが多分照れているのだろう。その様子がかわいくて「あはは」と笑っているとバシ、と頭をはたかれた。
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