倉庫 | ナノ




わたしの家はいわゆる三世帯住宅というやつだ。一世帯はわたしの家、一世帯はわたしのお父さんの親の家、もう一世帯はわたしのお父さんの双子のお兄ちゃんの家。ただ、おじいちゃんとおばあちゃんは既に他界しているので実質住むのは彼らの息子の世帯だ。 家の前の表札にはでかでかと “鉢屋”とかかれ、郵便物は一括でポストに。お母さんが誰が誰の物かを仕分けしてからようやく宛名の人物の元へ届く。

そして何故か玄関は1つ。三世帯あるんだから各々1つずつつければいいのに、「こっちの方が交流深まるじゃない」「ねえ」と高校時代同級生だったらしいわたしと向こうのお母さんは言う。

「ねーちゃん邪魔」とわたしを目の前に顔を歪めるのは3つ下の弟で現在中ニ。色々多感な時期だと思う。ほんと色々。先日、無性に紙の辞書が恋しくなり弟の部屋で探していたとき俗に言うエロ本が数冊出てきたときは、ああもうそんな年か、としみじみ思ったものである。ちなみに弟は巨乳好きのようだ。牛乳片手に「ねーちゃんほんと邪魔」と足を蹴られたのでそろそろ退散することにする。昔はもっとお姉ちゃんに優しかったのにこれが反抗期ってやつか、とかつては同じ家に暮らしていた向こうの鉢屋さん家の長女(現在は上京して専門学生してる)百合ちゃんに電話で相談したら「そんなの甘い甘い、これからもっとひどいのくるから喧嘩になったら口で捩じ伏せなさい」と同じ姉としてのお導きを頂いたのでありがたく実践させて頂くことにする。幸い鉢屋家の女は百合ちゃん含め皆弁が立つのでね!まあこの家で誰が1番強いかっていったら亡くなったばあちゃんがそりゃもう断トツだった。笑顔で心臓に弾丸級の暴言を撃ち込み、だけど人を立てるところじゃちゃんと立てるばあちゃんの口のうまさはそりゃもう天下一品文句のつけようがなし。そして小さい頃からばあちゃんに育てられた百合ちゃんとわたしにもその血は受け継がれているわけで。だけど今じゃばあちゃんも他界し、ばあちゃんに次いで主力だった百合ちゃんも出ていったため、わたしが次期主将という立場かな、うん。主将って何部だよって話だけれども。
そんなことを考えながら夕方靴下だけ脱ぎ制服は脱がずにソファに座って雑誌を眺めていると「ただいまー」だの「お邪魔しまーす」だのの声で一気に玄関が騒がしくなった。あ、帰ってきた、と雑誌を置き、居間の真隣にある玄関に顔だけ出し「おかえり」と言うと「おう」と返ってくる。こいつは向こうの鉢屋さんちの長男坊で三郎。百合ちゃんの弟。ちなみにあたしと同い年。 友達を連れて来たらしいので友達の方を見ると 竹谷 久々知 雷蔵 勘ちゃん とおなじみのメンバーで「いらっしゃい」と声をかけると「あ、名前 と全員が手を振る。奴らとは三郎が仲がいいことに加え同じ学校なことも手伝って、割と気心の知れた関係になっていた。たんたんと階段を上がる三郎に「ねえ、わたしも一緒に遊んでいい?」と訊ねると少し考える素振りを見せた後に「………どーぞ」と言われたので最後尾でついていった。まだ弟以外には誰も帰ってきてなかったので少しさびしかったのだ。





「名前、はしたない」三郎の部屋に到着し、彼のベッドに寝転んで雑誌を読んでいたところで雷蔵に脚を叩かれた(相変わらず容赦ないですね雷蔵さん)。あまりの叩きっぷりにいつまでたっても痛みが取れない太ももをさすりながら姿勢を正すと よろしいとでも言わんばかりに雷蔵が笑顔で頷いた。なんか雷蔵姑みたいだ。
「そういえばさあ」また雷蔵に怒られるといけないので無意識に寝転んでしまうベッドから降り三郎の隣に腰掛けると ふと思い出したことがあったので口に出す。

「みんなはエロ本どこに隠してるの?」

何気なく呟いたその言葉に、竹谷はお茶を噴き出し、久々知は煎餅を床に落とし、雷蔵はその場で固まり、……勘ちゃんは依然として笑顔のままだけど、三郎は一瞬動きを止めた後「お前、何だ急に」とあたしの目を見て言うので「いやこないだ弟の部屋で見つけてさ」とこないだ弟の部屋で見つけたエロ本の話をすると「お前思春期の弟の部屋勝手に入んなよ〜」と竹谷に非難され残りの4人もそれに同意する。

「わたし別にエロ本見つけたぐらいじゃ何とも思わないけど」
「いや名前がどう思うかに関係なくこっちは嫌なんだよ」
「何久々知経験談?」
「違うけど」
「つーか久々知もそういうの見るんだね、へえ」
「な、男だったら誰だって見るだろ!」
「いやあ、竹谷とかはエロ本見そうってイメージあるけど久々知とか雷蔵はあんまりなかったからさ、ふうん、と思って」
「俺どんなイメージだよ」
「だって竹谷女体好きそうじゃん」
「女体って」

「でもなんだかんだいって女関係でいったら勘右衛門が1番アレだけどな」
「ちょっと三郎こっち振らないでよ」
「え、何々どういうこと」
「んー、勘右衛門が1番女の体知り尽くしてるってことかな」
「えっ」
「ちょっと三郎、名前固まっちゃったじゃん!」
「大人しそうな顔して結構遊んでるよね勘ちゃん」
「俺こないだ歳上のおねーさんの車で登校してるとこ見た」
「もう、兵助も八左衛門もちょっと黙って!」
「勘右衛門歳上好きだよなー」
「三郎!」
「あと連れて歩いてる人毎回すごい綺麗だよね」
「雷蔵まで!」

周りが段々と爆弾を投下するなか、しばらく勘ちゃんショックから立ち直れなかったわたしはようやく現実を受け入れ「勘ちゃん、大丈夫、私たちまだ友達よ」なんて真顔で彼の手を握りながら言うと「まだって何!?」と少し焦ったような声で勘ちゃんが言う。その様子に笑いながら「冗談だよ」と言うと「名前の真顔とか心臓に悪いから」ってどういう意味だ。


「ねえじゃあさ、三郎も結構遊んでんの?」
「………は?」

勘ちゃんをしばらくいじり倒した後三郎に話を振れば「何でここで俺に来るんだよ」と彼は苦々しい顔をする。ってことは遊んでんの?たまに帰り遅いのはそういうワケなの?この際だから全部聞いちゃえー、と三郎の女関係についてのこれまでの疑問を全部訊ねると「あー、三郎は……ねえ?」「……うん 」とみんな言葉を濁す。えっ何そんなひどいの?

「いや、三郎は一途だよ、こうみえて!」
「そうそう。何年も前から片思いしてんだから!」

わたしの不信な視線に気付いたのか雷蔵と竹谷があわてて喋り出す。片思いって何それ初耳だけど!

「何それ16年一緒に居て初めて聞いた!」
え、誰々?わたし知ってるひと?女子高生特有のノリでにやにやしながら三郎に聞くと「内緒」と三郎は顔を背ける。竹谷たちにも聞いてみたけど彼らは困ったように顔を見合せるだけで口を割ろうとはしない。竹谷たちよりわたしの方がずっと三郎といるのに教えてくれないんだなあ、と男女の壁を感じつつ「もういいもーん」と拗ねた声を出してお菓子取りに行ってくる、と部屋を出る。そのときに一瞬三郎と目が合った気がしたけど知らないフリをして階段を降りた。



110801



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