倉庫 | ナノ

パクノダさん、マチちゃんにシズクちゃんとはたくさんおしゃべりをして、フィンクスには肩車をしてもらって、そのあとクロロさんも含めたみんなでトランプをした。A級犯罪者のくせしてトランプとかやるんだと思ったのは内緒だ。意外と愉快な人たちだった。フェイタンさんはことあるごとにわたしにナイフを投げたが一体何がそんなに気に入らないのか。ナイフを投げるのが趣味なのか。念が籠ってないのが唯一の救いだった。ウボォーさん、フィンクス、フランクリン、フェイタンさんとやった七並べで見事1位になったわたしが「お前ちびの癖になんでそんな小狡いことすんだよ」とフィンクスに言われたが見た目は6歳児でも実際は16歳なのだ。小狡くて結構。学園都市レベル4の脳をナメてもらっては困るとその後の神経衰弱でも類稀なる記憶力を発揮してみたらフェイタンさんにまたナイフを投げられた。シャルが「床が傷つくからやめて!」と怒っていた。ノブナガは「その面子と頭脳戦やって一位でもあんま誇れねーぞ」みたいなこと言っててフィンクスが「お前も似たようなモンだろーが!」って怒って、なんていうかほんとにA級犯罪組織なのかと疑うぐらいだった。オンオフがしっかりしてるんだなきっと。笑いながら二人のやり取りを眺めていたらいつの間にかクロロさんが隣にいた。

「クロロさんもトランプやる?」
「クロロでいい」
「じゃあクロロ。トランプやる?ババ抜き」
「……二人でか?」
「誰か誘おう」

わたしがシズクを誘って、クロロはマチちゃんとシャルを誘っていた。なかなか手ごわそうな面子だ。クロロから時計まわりで始まってわたしは3番目。シズクから引いてシャルに引かせる。しばらく無言で引いては捨て、引いては捨てが続く。シズクは相変わらず表情を変えずに「はい」とカードたちを差し出す。ちょっと迷って真ん中のを引いたらなんとジョーカー。シズクが最初から持っていたものか、はたまた流れ着いたものか。流れ着いたものならみんな無表情すぎて全然わかんなかった。わたしもなんとかポーカーフェイスを保ち適当に手札に加えシャルに差し出す。シャルはジョーカーの右隣を引いて行った。






「……おかしい」

ジョーカー一枚残った手札を見て眉をひそめる。あれから何回、何十回とシャルに手札を引かせたのに一度もババ引かないってどういうことだ。どんな悪運の強さだ。結局シズクから引いてわたしで止まったジョーカーを最初持っていたのはシャルらしい。シズクまで流れたことに全く気付かなかったわたしは目から鱗だった。みなさんポーカーフェイスお上手ですね。もう一回やる?と言ったシズクにわたしは首を振る。この面子に勝てる見込みなどなかったのである。勝てない試合はするなとお姉さまに再三言われてきたのだ。

「というか、ここは誰かの家なの?」
「あれ、言って無かったっけ。俺がたまに使ってる部屋」
「どんだけ部屋持ってんの」

たしか前に旅行と称して別の国に連れて行かれたときもホテルじゃなくてそのたまに使ってる部屋に泊まった記憶がある。「なんかホテルって気置けないからさー」と言うシャル。話を聞けば他のみんなも2つ以上家があるらしい。盗賊って儲かるんだね。

「というかお金余ってるならわたしのお給料上げてよ」
「今いくらなの?」
「時給850ジェニー」
「安っ」
「あんなにこき使われてるくせにこれだけっておかしいと思う!」

はいはい!とここぞとばかりに主張すると「俺子供の教育はしっかりしたい派でさ、あんまり小さいうちからお金たくさん持ってるのってよくないと思う」とまさかの子供扱い。それに対してマチちゃんが頷いているのはシャルと同意見だってことなのだろうか。確かに若いうちからお金を持つとよくないというけれども、労働に見返りが合ってないと思うんだよね。

「その分ほら、衣食住はしっかりしてるじゃん。3食昼寝つきの職場とか今ほとんどないでしょ」

そりゃないだろうけど。このままだと言いくるめられそう、というか自分もまあ確かにと納得しかけているのはシャルの口の上手さだろうか。くそう、と仕方なく主張をやめると「そういえばお前念修行はどうなったんだ」とクロロが口を挟む。あっ、余計なことを!思わず睨むと同時に「それが全然駄目でさー」とシャルが話し始めた。

「あんまり素質ないみたいだよ」
「素質がないというか、元の能力が邪魔してるんじゃないのか?」
「ああ、確かに。念は名前の世界でいう魔術ってやつに似てるらしくてさ、名前みたいな能力者は魔術を使えないらしいから念も使えないのかも」
「魔術は才能無い人間が能力者っていう才能ある人間に追いつくために作られた手段で、能力者とは力のフォーマットが違うから使えないんだって言ってた」
「無理やり使おうとすればどうなるんだ?」
「拒絶反応で最悪死ぬ」
「死なれても困るから強制的に開くのはちょっとリスクが高いんだよねえ」
「そもそも別の世界から来た名前に精孔そのものがあるかすら怪しい話だな」
「でもなんかそれっぽいものは感じるからあるにはあるんだろうけど」

「精孔って本来は長い時間かけて開くものなんでしょ?それを開く過程で体に異常をきたしたら使えないってことだと思うしまあ気長に待ってよ」

ね、と二人を説得しようとすれば「でも俺と一緒に行動するってことはいつ念能力者に狙われるとも限らないから出来るだけ早く覚えて欲しいんだけど」……そこはシャルがなんとかしてほしいんですけど。最初にA級犯罪者なんぞのところに来なければこんな目には遭わなかったのに……。というかそもそもわたしが『異界送り』のデータに手を出したのが悪いと言えば悪いのだけど。うんざりしたような顔をするわたしに「まあ俺にも考えがあるから」と笑ったシャル。その笑顔が何より怖いことは経験上よく分かっていた。
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