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機会は突然やってきた。

「なんか旅団のみんなが名前に会いたがってる」

だから明日お出かけしようか。にこーっと笑ったシャルに悪い予感しかしなかった。嫌だとは言いたくても言えない。わたしの行動権はシャルが握っているのである。ここで過ごしてすでに3か月たち、シャルが旅団の仕事に行くこともたびたび会った。

「多分団長あたりが言ったんだろうけどみんな名前に興味持ったみたいでさー、めんどくさいよねー」

めんどくさい、とはわたしの説明とお出かけであろう。3か月過ごして気付いたのはわたしと同じくこの男がインドアであることだった。

「思えばシャルもそのA級犯罪組織の一員なんだよね」
「何突然」
「なんでこう、わたしの周りにはいつも強い人しかいないのかって」

向こうでは学園都市第4位の麦野しかり、レベル5に近いとされる淡希お姉さましかり、こちらではA級犯罪組織ときた。

「引き寄せてんじゃない?そういう人を」
「体質かな」
「かもね」

はは、と笑ったシャルはわたし用に寝室から布団を引っ張りだしてきていた。最初、ベッド使う?と聞いてきたシャルにソファが気に入ってるからソファでいいと言ったっきりわたしの寝床はこのソファである。ソファの癖に寝心地抜群なので大した問題もない。じゃあ俺はそろそろ寝るねと言ったシャルはおやすみ、と寝室へ行ってしまった。さてわたしも寝ようとリモコンで電気を消して布団をかぶる。会っていきなり殺されそうにならないことを祈りながら明日のことを考えていたらあっという間に意識は途絶えた。






「苗字名前って言います。名前がファーストネームです。よろしく」

次の日、どこかの家のようなところに集まった旅団と思わしきメンバーに挨拶する。隣にシャルがいると分かりつつも、長年闇の中で活動してきたら彼らがどの程度の実力者か分かってしまう。ほんとにレベル5の連中がたくさんいるみたい、と思っているとどこからかナイフが飛んできた。何か気に入らないことでもあったのだろうかと思いながらナイフが通り抜けるのを待つ。ナイフが地面にカッ!と刺さったのを見て「このガキ何者ね」と言ったのは黒くて小っちゃい人だった。

「ちょっとフェイタン、やめてよねそういうの」と言ったシャルは呆れたような顔をしていた。

「シャル、幽霊の女の子捕まえたの?」

いつかのクロロさんと同じことを言ったのはメガネの女の子だ。

「幽霊じゃないけど、まあそんなようなもの。あ、念での攻撃はやめてあげてね」

何がそんなようなものだ。説明がめんどくさくなったらしい。まあ念での攻撃を禁止してくれたのは助かるけど。

この世界の何も手を加えてない通常のものだと通常通り電子化できるが念が入ったものは電子化できないと分かったのはつい先日だ。遊びに来たクロロさんが「そういえば念が混ざっても彼女の能力は通常通り働くのか?」と聞いたのが始まりだった。ためしにクロロさんが念を込めながらナイフを指先に触れさせると、通常なら電子化する筈のわたしの体は電子化せず血が流れた。血なんか流れたの久しぶりだとちょっと感動しながらもクロロさんが持つナイフに触れて電子化しようとして失敗したことから念が入ったものにわたしの力は働かないことが分かった。というか原則わたしの力はわたしがよく分かっていないものには働かない。わたし以外の動物が電子化できないのも動物の仕組みが複雑でわたしが理解しきれていないのが原因だ。魔術の方には、わたしが魔術が何たるか分かっているためにきちんと働くが、念については念が何か分かってないため働かないのだと思うと説明したところ「じゃあ念覚えてみればいいじゃん」とシャルが言ったことが始まりで精孔を開く修行から初めているが成果はあまり芳しくない。脳開発を受けた人間が魔術を使えないのと同じものかなと考えているが出来たら出来たで能力者が魔術を使用したときのように血管と言う血管から血が噴き出るのではないかと不安になってしまう。シャルやクロロさんが言うに念が何か知るには念を使ってみるのが一番みたいなことを言っていたけどふつうに口頭で詳しく説明してくれるだけで仕組みは理解できるのだと思うんだよね。多分二人とも面白そうだからわたしに念覚えさせようとしてるだけだと思う。あーやだやだと座って旅団のみんなを眺めていると、多くく胸の開いた服を着たグラマラスなお姉さんがこちらにやってきて、「私はパクノダよ、よろしく。名前の歳はいくつ?」と尋ねるので咄嗟にシャルを見ると「いいよ、好きにして」と言ったため正直に「16歳」と答えるとパクノダさんは少し驚いたような顔をしながら「そんな姿なのもあなたの能力?」と尋ねる。わたしは首を振った。

「あなたの記憶を少し覗かせてもらってもいいかしら?シャルが言うには遠いところから来たというけど」
「学園都市というところです。記憶の方はどうぞお好きに」

見られて困る記憶もない。頷くとパクノダさんはじゃあ少し失礼するわ、とわたしの手を握る。それが記憶を見るために必要な条件なのだろうか。

「……研究所のような場面がたくさんあるけど、これは一体?」
「そのまま研究所です。わたしの能力の研究をされてました」
「随分と……大変な目に遭っているわね」
「有益だと判断された能力者っていうのは大抵そうなんだと思います」
「確かにあなたの能力は便利そうね」
「ええ、便利だと思います」
「たびたび出てくる長い髪の女の子は友達?」
「……何か光線みたいなのぶっ放して高笑いしてました?」
「してたわ」
「友達というか仕事仲間です」
「じゃあ赤い髪の、物体移動能力の女の子は?」
「学校の、先輩でわたしにとてもよくしてくれてた人です」
「一番新しい記憶の、金髪の女の子のおかげであなたはここまで飛ばされてきたのね」

そう言ってパクノダさんは手を離した。あなたは小さくなってもあまり変わらないわね、というのは容姿の話だろうか。わたしの記憶を覗いたということは鏡などに映る自分の記憶で元のわたしも見たということだろう。「いいなあ、パクノダ」と言ったシャルに「あら、結構悲惨な目に遭ってきたみたいよ」とパクノダさんはわたしを撫でながらそう言った。悲惨と言えば悲惨なのだが、わたしよりももっと悲惨な目に遭っている人もいる。五体満足でいられるだけわたしはマシな方だと思うのだ。
111230

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