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「ねえ麦野」
「あん?」
「あんたとわたしは学園都市の闇にいるじゃない」
「それが?」
「わたしは攻撃能力を持たないから第一線には立たないけどさ、麦野はその能力で何人も殺してきたわけでしょ?どんな気持ち?」
「……急にどうしたのよアンタ」
「なんとなく気になったのよ、このままいけばきっとわたしもいつか誰か殺すから。というかわたしの情報によって色んな人が殺されてるから間接的にはもうたくさん殺してるんだけど」
「……どんな気持ちも何もないわよ、こんな能力持ったから、なんて考えたこともないし、むかついら殺すし」
「ある意味第2位に似てる>
「あ?」
「なんでもない」

あは、と笑ったら麦野は何を思うでもなく「まあ、アンタにはわかんない気持ちだと思うわよ。あたしと違ってプライドが高いわけでも戦闘に特化した能力でもないから直接的に殺す機会なんて回ってこないでしょ」と言うのでそれはそうなんだけど、と濁した。

目的の為なら手段を選ばないし、邪魔な人間がいたならそれは一人残らず殺すよ。

旅団って人も殺すの、と尋ねたときに返ってきたシャルの答えに昔麦野と話していたことを思い出した。あの研究以来そこそこ連絡も取るようになった麦野は今どうしているのだろうか。ロシアから帰ってきて、アイテムを再結成したと聞いたがわたしが知る情報はそこまでだ。「ふうん」と興味なさげに返すと「聞いた割に反応薄いなあ」とシャルが言う。ちなみにクロロは今お風呂だ。

「間接的に人を殺すのは慣れてるのだけど、やっぱり直接的にとなると違うんだよね」
「間接的にってのは?」
「わたしが流した情報でってこと」
「ああ、情報機関にいたって言ってたもんね」
「友達、とは違うんだけど仕事仲間みたいな女の子はアンタにはそんな直接的な機会回ってこないからその気持ちは分からないって言ってた」
「ふうん、……殺してみたいの?」
「違うけど、どんな気持ちなのかって思っただけ」

彼女はむかついたら殺すって言ってたけど、と口にすれば「旅団の男もそんなやつばっかだよ」とシャルは笑っていた。なるほど、麦野がこちらに来ていたならまだ見ぬ彼らと意気投合したのかもしれない。あるいは同族嫌悪か。

「名前のいた世界ではそんなに頻繁に殺したり殺されたりがあったの?」
「一部だけだよ。表向きは平和なんだけど、裏はもうすっごいドロドロしてる。前は組織ごとの抗争とかあって超バイオレンス。その組織にいるのも大抵がレベル4以上の実力者だったからやっぱり能力を持ってたっていいことなんてないように思えるんだよね」
「能力のおかげで自分の身を守れるとしても?」
「上には上がいるって話だよ。その能力で目立った動きをすれば必ず他の組織に潰されるし。第1位にかなう能力者なんていないしね」
「第1位?」
「一方通行って言うの。あらゆる”向き”を操作する能力。自分に受けた衝撃の向きも全部操作するの。だから彼には誰一人として傷を負わせることは出来ない。わたしの電子操作能力も彼の圧倒的な力に負けて終わり」
「そいつと対峙したことあるんだ?」
「とある実験でね、わたしみたいな何かを操作する能力と一方通行のベクトル操作のどっちの力が優先されるのかって」
「結局電子化した電子を乗っ取られて終わりだったんだ」
「そう。第1位は伊達じゃないよね」

ふう、と息を吐いてソファに持たれる。結局わたしは別の世界に来ても同じことしか出来ないのか、と思った。情報を与えるしか出来なくて、実際に行動するのはわたしではないのだ。いつだって椅子に座って高見の見物しかしないわたし。もっと戦闘向きの能力だったら彼らの気持ちが分かったのだろうか。それともレベル4なんて力を持たなかったら、わたしは幸せに生きていけたのだろうか。しかし麦野と浜面を見ていると、レベル5だとかレベル0だとか、関係ないように思ってしまう。闇にいる人間は能力があろうがなかろうがそこに吸い寄せられるのだ。そしてわたしもそちら側の人間で、それは紛れもない事実である。

「……今、何考えてる?」
「わたしはどこに行ってもおんなじことしか出来ないんだなって思ってた」
「間接的に人を殺すってやつ?」
「そう」
「適材適所ってやつだと思うよ。俺も直接殺すより間接的に殺す方が多いし」
「でも、シャルと違ってわたしは直接殺したことがないでしょう?直接殺す度胸も無い癖にそういうことばっかりしてていいのかなって思う」

シャルはわたしを膝の間に座らせて抱きしめてくれた。顎をわたしの頭に乗せながら、「名前が与えた情報で死ぬ人もいるだろうけど、救われる人もいると思うよ」と言った。それはわたしに情報を求めた人ということだろうか。唸るわたしに「少なくても俺は名前の能力で大分楽させてもらってるけどね」と言ったシャル。シャルの仕事を助けたことが見知らぬ人を殺す結果になったとしても、自分の能力を肯定されるというのはなかなか嬉しいものだった。

「あんまりややこしく考えることないんじゃない?いつか名前が直接的に殺したときに分かることだけど、どちらにせよあんまり変わらないから」

だから今は何も考えないで俺に従ってね。顔は見えないけどきっといつものような笑顔を浮かべているのだろう。わかった、と頷くと同時にクロロさんがお風呂から上がってきたようだった。クロロさんは向かいのリビングに腰をかけて、持参したのであろう本を読み始めたので「じゃあ俺らもお風呂いこうか」とそのまま脇をかかえられて風呂場に向かおうとしたら「……待て」クロロさんが本から顔を上げてこちらをじっと見ていた。

「俺らってことは、お前らいつも二人で入っているのか」
「そうだけど」
「……それでいいのか?」
「何が?」
「いくら小さくなってるとはいえ元は16歳の子だぞ」
「別に俺ロリコンでもなんでもないし、名前一人で入らせると小さいのに慣れてないせいかシャンプー目に入って痛いって言うし」
「わたしも体も小さいことだし別に気にしないからいいかなって思ってたんだけど」

お互い気にしないからいいかなって思ってたんだけどと言うシャルに「……いや駄目だろう」クロロさんはお父さんか何かだろうか。
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