倉庫 | ナノ

ピンポーン、とチャイムが鳴った。名前出て、と言われたので大人しく玄関に言って鍵を開ける。小さい体を懸命に使ってドアを開くと、じっとこちらを見る視線に気づいたので上を向く。黒い髪のイケメン。シャルが昨日言っていた特徴と一致する。

「クロロさんですか」
「ああ。君は?」
「……シャルナーク風に言うペットです」

少々不満げに言えばああお前がとでも言いたげな視線を寄越された。多少の失礼はシャルで慣れていたので「ここで話すのもあれですからどうぞお上がりください」とスリッパを出すと少し驚きながらもクロロさんは家に上がってくれた。


部屋に通せばシャルはわたしのお気に入りのソファに座っていたため、どいてという顔をすればおいでおいでと手招きをするため大人しく側に寄ったら抱きかかえられてシャルの膝の上に座らされた。やつの子供扱いにはもう慣れていたため何も言わずにじっとしていたら、「それが例のペットか」とクロロさんは向かいのソファに座った。こっそりとシャルに「わたしは子供らしくしてた方がいいの?」と聞いたら「ああうん、じゃあそれで」と返ってきた。どっちでもよかったようだがそうしていた方が面白そうというシャルの意見により子供らしくすることにした。

「見たところ念能力者ではないみたいだが」
「念能力者じゃないんだけど、面白い能力持っててね」
にっこり笑うシャル。シャルのその言葉に興味を示したらしいクロロさんは「ほう」と言ってわたしを見る。わたしはシャルの言うとおり子供らしくにこっとクロロさんに笑いかけた。わたしを膝からおろし立たせたシャルは、キッチンからフォークを取り出してきた。

「それじゃあ、名前はここに立って。いつもの手品ごっこをしようね」とわたしの頭を撫でる。わたしはあどけない笑顔で「うん!クロロさんがお客さんね!」とアホらしいやり取りに付き合ってやる。フォークということはあれか、初対面のときの。あれからまだ二日しか経ってないなんて嘘のようだと思いながらフォークを待つ。ほどなくしてわたしの心臓目がけてきたフォークはあのときと同じようにわたしをすり抜けて床にめり込む。びっくりしたような顔をするクロロさんに、フォークを抜きながら「だいせいこうだよ、シャル」と言えば「そうだね」と撫でられる。子供らしくするのも意外と疲れるな、と思いながらソファに戻ると、「その女は霊か何かなのか?」とクロロさん。

「違うよ」
「わたし幽霊じゃないよ、ちゃんと足もあるし」
「じゃあ体を透過させる能力か?」
「ちょっと近い」
「体を空気にする能力」
「ううん」
「多分このまま行っても答えに辿り着くのは先になりそうだから答え言っていい?」
「いや待て
「団長さんは負けず嫌いなんだね」

でもわたしこのまま待つの嫌だから答え言うよ、と言えば仕方ないようにクロロさんは溜息をついた。

「電子革命」
「は?」
「わたしの能力名、デンシ・メイクス・レボリューション」
「……なんでデンシだけそのままなんだ?」
「エレクトロンの語呂が気に入らないんだって」

わたしの代わりに答えたシャルに怪訝な顔をするクロロさん。いや、今はそんな細かいとこにつっこんでる場合ではないんですよクロロさん。

「つまり、体を電子にする能力ってことか?」
「そんなもんじゃないです、触れた物を電子に変換して操る能力です」

原則わたし以外の動物は電子化できませんけど。そう付け加えればシャルが「便利な能力でしょ」と言う。確かに、と頷くクロロさんだがシャルがクロロさんにわたしの情報を話してどうしたいのかはいまいち分からなかった。

「俺のヘルプとして色々やらせてるんだけど別にいいよね?」
「旅団の情報が外に漏れないならとやかく言うつもりはないが……大丈夫なのか?」
「ああ、その点は大丈夫だよ。見た目以上に賢い子だから」

ねえ、と笑うシャルにわたしも笑い返す。わたし以上にシャルが賢いことを知っているわたしだ。幻影旅団の情報(と言っても大して持っていないけれど)を売ろうなどとは考えていない。というか一応シャルはこの世界で生きていくために必要な人間なので裏切るような真似は出来ない。

「情報収集なら俺より早いよ、それを取捨選択する知識がまだ足りないから色々教えてはいるけど」
「お前以上とはよっぽどだな」
「なんか電子の流れを感じ取るとか言ってた、文字はまだよく分かってないみたいなんだけど文字とは別の関連性で拾ってきてるからたまにすごい情報も混ざってるし有料の情報も問題なく盗んでこれる」

それを知ったシャルに莫大な量の情報検索をかけさせられたことは今でも忘れない。学園都市でさえこんな働かせ方はしなかったぞと思うぐらいだ。まあ、片っ端から拾っていくのはわたしだが、取捨選択するのはシャルなのでそれはそれでシャルも大変だったとは思うが何をそんなに調べることがあるのか。そんなことを考えていたらクロロさんと話していたシャルが「あ、そういえば俺用事があったんだった。申し訳ないけどちょっと二人で留守番してて」と瞬く間に家から出て行ってしまったので残されたわたしたちは唖然としてシャルの出て行った家で留守番する羽目になってしまった。気まずい空気が部屋中に流れる。シャルという味方がいない中で子供らしい演技を続けなければならないというのか。シャルナークさんってばなんてSなのと思いながら「クロロさんは旅団のボスなんだよね?」と尋ねれば、「……ああ、他言すれば伝えた相手ごと消すからな」と返ってきた。子供相手に何て物騒なことを。しってるよと笑顔で返す(ちょっと顔ひきつったかもしれない)。

「旅団が盗むものはクロロさんが決めてるの?」
「そうだな、俺が気に入ったもの品についてシャルが調べて、盗みに行く場所の下見を団員のうちの誰かがして、それで決行だ」
「ふうん、クロロさんはどんなものを気に入るの?宝石とか絵とか?」
「ただ高価なだけの品には興味がないが……曰くつきの品とか」
「触ると死ぬとかそういうの?」
「ああ」
「変な趣味だね」
「よく言われる」
少し笑ったクロロさんに、子供らしさを求めて思ったことをポンポン言ってたけど大丈夫かなという不安は解消されたわけだが、それっきりの会話が無くなってしまって非常に気まずい。どこへ行ったというんだシャルナーク。早く帰ってこいシャルナーク。

「……わたしお茶いれる?それともコーヒーいれる?」

どうしようか迷った末、お茶かコーヒーでも入れて気まずさを紛らわそうとしたのだが、「……一人で淹れられるのか?」というクロロさんの言葉でああそうだわたし今小さかったんだと思いだしてずしんと気分が沈んだ。

「……」
「……」
「……あの、」
「俺も手伝うから何がどこにあるのか教えてくれ」

手伝ってもらっていいですかと言う前にクロロさんは動いていた。意外と子供に優しい。大きくうなずいたわたしがキッチンまで案内して「ここにコーヒー、ここにお茶が入ってる。ポッドはこっち。インスタントでもいい?」尋ねる。というかインスタントしか場所知らない。頷いたクロロさんが「俺はコーヒーだがお前はどっちがいい」と言うので「わたしもコーヒー」と言えばちょっと驚いた顔で「飲めるのか」と聞いてきた。残念ながら見た目は子供頭脳は大人の名探偵コナン状態なので味覚は大人のままだ。はっきり頷いたわたしにそうか、と言ったクロロさんはさっさと準備を始めてしまった。客にコーヒーを用意させるなんて前代未聞だが、カップを二つ持ったクロロさんと共にソファまで戻ると「そういえば砂糖とか良かったか」と聞かれる。クロロさんが何も入れてないところを見ると彼はブラック派のようだ。問題なくわたしもブラック派だったため「だいじょうぶ」と言うと「お前ほんとに子供か?」などと尋ねられたため飲んでたコーヒーを噴き出しそうになった。どう応えていいか分からずに、というかシャルはいつになったらネタばらしするんだと考えてたら「ただいまー」と声がした。シャルだった。コーヒーを置いて、シャルの元まで走っていく。玄関で靴を脱いでいたシャルに「どこ言ってたの!」と言えば「え?買い物」……別にさっき行かなくてもよかったんじゃないのそれ。言われてみれば確かにシャルの手には近所のスーパーの買い物袋があった。

「さっきクロロさんにほんとに子供かって言われたんだけどこれいつネタばらしするの?」
「ああ、どうしようね、考えてなかった」
まあいいんじゃない?もうしても、というシャルと一緒にクロロさんの元に行けば彼は優雅にコーヒーを飲んでいた。

「団長、名前団長の言うとおり子供じゃないよ」
「……冗談のつもりだったんだがほんとに子供じゃなかったのか」
「ほんとは16歳の女子高生」

なんか知らないけど縮んだんだってと適当に説明したシャルは「団長今日泊まってきなよ、夕飯作るし」と食材と共にキッチンに消えて行った。再び気まずい空気が流れた。
111230

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