倉庫 | ナノ

「どうする、一緒にお風呂入る?」
「……遠慮します」
「でも昨日シャンプー目に入って痛かったんでしょ?」
「……」
「俺が洗ってあげるよ。大丈夫、幼女相手に発情したりしないから」

ね、と手を差し出すシャル。確かに昨日シャンプーは痛かった。痛かったがだからと言ってこの男と入るわけにもいかない。ふるふると首を振って抵抗するが「強情だなあ」と困った顔をする割に全然困ってなさそうなシャルはわたしの脇腹を抱えて風呂場まで連れて行ってしまった。なんてこと!あれこれ言いながらシャルから逃れようとしたが、結局はお風呂場まで連れて行かれてしまった。全身を電子化すれば逃れられることは逃れられるのだがこの全身電子化は結構体力を消耗するのでこれだけの為に疲労困憊になるのは納得がいかなかった。仕方なく服を脱ぐ。どうせ幼女の体だし、シャルもロリコンじゃないみたいだし思い切りよく脱いで、それでも一応申し訳程度にバスタオルを巻いてお風呂に入れば同じく腰にバスタオルを巻いたシャルがやってきてシャワーの蛇口を捻る。こちらに向かってジャバッと出てきた程よい温度のお湯に反射的に目をつぶり椅子に腰かけると万遍なくわたしにお湯をかけたあと「目瞑っててね」とシャンプーでわしゃわしゃしはじめる。あ、意外と上手いと思いながら大人しく目を瞑っていたらしばらくした後もう一度お湯が降ってきた。



一通り洗い終えた後で(さすがに体は自分で洗った)お湯につかり、「そういえば団長さんってどんな人なの?」先ほど言っていた団長について聞けば「団長?うーん……どんな人かって言われると、変わった人としか言いようがないかな」首を捻りながらそう言うので「シャルに変わってるって言われるって相当だよね」シャルもキャラが濃いけれどそれ以上ってことかと呆れてしまう。おそるべし幻影旅団。
「失礼だなあ」
「わたしの経験上強すぎる人には性格破綻者が多いんだよね、学園都市のレベル5の面々なんて大抵気違いだから幻影旅団もそんな感じなんだねきっと」
「レベル5って7人しかいないっていう例の?」
「そう」

第1位は2万人のクローンを殺して前人未到のレベル6になる計画に参加してたし、第4位は自分が気に入らないからって仲間の胴体まっぷたつにした女だし、と情報部門にいれば嫌ってほどレベル5達の狂った行動を知ることになり全く嫌になる。ちなみにその第4位『原子崩し』麦野沈利とは一度実験でご一緒したことがある。電子を波と粒子のどちらでもない状態に固定して自在に操る麦野の能力と触れたものを電子に変換し操作するわたしの能力の相互作用的な実験だったのだが、思い出すだけで身震いする。わたしが原則触れないと能力発動できないのをいいことにちょっと麦野の原子崩し浴びてみてと言い切った研究者どもをぶん殴りたくなった。壁もコンクリートも何もかもを粉砕する麦野の能力を浴びるなんてとんだ自殺行為である。まあこの実験(というか麦野)のおかげでわたしは唯一とも取れる攻撃手段を手に入れたので結果オーライと言いたいところだが死にかけたことは事実なのでやっぱりあの研究者は一回殴らないと気がすまないよね。汎用性の高い能力故に様々な研究に参加させられたことを思い出し、学園都市から逃げられたということに関してはもしかしたらよかったのかも、と顔を半分沈めてぶくぶくやってみる。いやでも『異界送り』のあの女には絶対感謝してやらない。

「ずいぶんと怖い顔してるみたいだけど」
「わたしはここに送られてきてもしかしたらよかったのかもしれないと思ったけどこんな体になったこと件もあるから絶対あの女には感謝しないって思ってた」
「名前ってずいぶん素直だよね」
「なんで?」
「何聞いても誤魔化さないから」

いい子いい子とわたしを撫でるシャルに、人によりけりだけどなあと思った。わたしがシャルに誤魔化さず、包み隠さず話してしまうのは相手がシャルだからだと思う。出会って二日しか経っていないけど、何故か側にいると安心するのだった。
111230

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