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学園都市には様々な能力者がいる。わたしが所属する霧ヶ丘女学院には空間移動系能力の中でもトップクラスの実力を誇る『座標移動』の結標淡希お姉さまや自分の意思と無関係に、吸血鬼を食虫植物のごとく誘い出し、自身の血を吸った吸血鬼を無差別に灰に帰してしまう『吸血殺し』姫神秋沙など数々の特異な能力者がいたが、その中でも特に異質なのがお姉さまと同じく一応は空間移動系能力に分類される『異界送り』だ。自分だけの現実(パーソナルリアリティ)にどんな数値を入力しているのかは知らないが、彼女は自分の意思でその名の通りあらゆるものを異界に送ることができる。異界と言っても自身が作り出した空間で、彼女はそこに様々な物をため込んでいる。ドラえもんの四次元ポケットみたいな能力だといつか彼女は言っていた。空間移動系能力者だが自身の転移が出来ないためレベル4止まりだが、金髪の髪に真っ赤な唇、まるでおとぎ話に出てくるお姫様のような容姿をした彼女は常盤台の精神操作系のレベル5に次いでたいそう性格が悪く、「電子革命なんて言っても大したことないのねえ」とわたしに『異界送り』を発動させた。普段人間の転移は極力しないと言っている彼女だがわたしに相当むかついたらしい。

「レベル4って言ってもピンからキリまでいるわよね、同じレベル4でもわたしとあなたじゃこんなに違う。そうねえ、特別にわたしの能力の真髄、見せてあげようかしら?」

最後に聞いたやつの言葉がそれだった。お前の能力はドラえもんじゃないのかと思ったがどうやら違ったらしい。見たことのないこの場所はまさに異界。彼女の作り出した空間には様々なものが飛び交っているそうなので、どこかの部屋のようなこの場所から見てもここは彼女の作り出した空間でもなさそうだ。くそ、あの女、ちょっとわたしが情報を盗んだだけでこれとは。わたしは学園都市に帰れるんだろうなと悪態をつきながら部屋を見回していると、

「え?」

一人の男性と目が合った。しかもわたしが大分見上げる形で、なにこれこの人どんだけ背高いんだと思っていると「君、どこから入ったの?」とお兄さんは首を傾げる。金髪に小奇麗な顔をしたでかい人は「あーあ、もうここ使えなくなっちゃうじゃん、結構気に入ってたのに」と言って、手元にあったフォークを投げた。お兄さんは平然とした顔をしていたが、わたしを殺す気だった。何でこんなやばい人の家に送られなきゃいけないんだ。あの女今度あったら覚えとけよと悪態をつきながらもわたしはその場を動かなかった。するり、とフォークはわたしの体を突き抜ける。的確に心臓が狙われたそれはわたしを通り越してフローリングにものすごい勢いでめり込んでいた。軽く投げただけに見えたんだけどなんでこんなことになっちゃってるのか。まさか一方通行のようにベクトル操作の能力なのか。だったら勝ち目ないぞこれ、と目の前の金髪お兄さんを見るとお兄さんはわたしを見て少し驚いたような表情をしていた。

「君、念能力者なの?」
「ん?念?」

なんだろうか念って。眉をひそめたわたしはとりあえず相手の機嫌を損ねないうちに「念ではないですけど一応大能力者ってやつに分類されてます」と言えば今度は相手が「何それ」と言うので、もしかしたら学園都市の人ではないのだろうかと能力者の階級の話をしてやれば「それは念能力とは違う物なの?」と聞かれたのだがそもそもわたしは念能力が何か分からない。そこで、ああそういえばあの女に文字通り異界送りにされたんだったと思い出した。この世界にも能力者はいるらしいがどうやら勝手が違うらしい。わたしに興味を持ったお兄さんはひとまずわたしを殺そうとするのをやめてくれたらしい。よかった、基本的に物理攻撃はわたしの能力によって無効化できるが得体の知れない何かで攻撃されたりお兄さんの能力がベクトル操作だった場合わたしに勝ち目はないからだ。ほうっと溜息を吐いて座ったわたしに「その学園都市ってところは君みたいに小さい子でも能力開発を受けるんだ」と言うのでそりゃあなたみたいにでかい人から見たらわたしは小さいですけどと思いながら「小さいって言ってももう高校生ですよ」と返す。

「え?」
「え?」

すると信じられないものを見たかのような顔をするので、わたしも怪訝な顔をしてしまう。いやいや、確かに平均よりは少し背は低いけどそんなに驚かなくてもいいと思うんだけど。もしかしたらこの人巨人族の人なの?わたしは巨人族が生活する世界に飛ばされたの?いやでも巨人だったらもっと一回り二回りでかい気もするんだけど。でも机や椅子とかも妙に高いしやっぱりそうなのかも。自分なりに納得してお兄さんは巨人族か何かですか?と尋ねようとしたわたしだが、その前に目に入れた電源の入ってないテレビに映る自分の姿に唖然とした。え、わたしなんでこんなに小さくなってんの。ぱっかりと口をあけて驚くわたし。

「……なんでわたし小さくなってんの?」

思わずテレビに向かって話しかければ「さあ?」と上から返事が返ってくる。『異界送り』、通称トリップ・イン・パラレルワールドなんてふざけた名前の能力者をぶん殴りたくなった。何が、どうして。テレビから目を離さないわたしに「とりあえず状況を説明してよ」とお兄さんが声をかける。こうしていても埒が明かないことは明らかだったので仕方なく学園都市やわたしをここに送り込みやがった能力についても話すことにした。







わたしの持つ情報を話した後、今度はこちらがどういう世界なのか知りたいと言えば彼は快く教えてくれたが、なんだか笑顔が胡散臭すぎてその情報が確かかは信じられない。シャルナークさんという男はこちらでいう能力者にあたるらしい。精孔と物を開いてオーラと言う物を扱うというところは自分の中に流れる生命エネルギーを操る魔術に似ていると思った。科学サイドの女子高生だがこの能力のおかげで上層部から情報管理部門を任されていたため魔術サイドのことにも知識はある。魔術についても話してみたらシャルナークさんは「ああ、確かに念能力と少し似てるかもね」と言った。

「ところで、君の能力がなんなのか聞いてもいい?」
「別にかまいませんよ。学園都市には知れ渡ってる能力ですので」
「……異界の地について状況がよく分からないのに手の内をさらしちゃってもいいわけ?」

「大丈夫ですよ、能力の一部しか話しませんし」

それに、能力について話さない方が今危険だと判断してますのでと言ってやれば「外見に似合わず賢いね」とシャルナークさんは笑った。元の姿のときも散々見た目がアホっぽそうとは言われてきたので小さくなればなおのことだろう。特に何の反応も返さずに「わたしの能力名は電子革命、デンシ・メイクス・レボリューション」

「‥‥なんでデンシだけそのままなのか聞いてもいい?」
「エレクトロンってちょっと長いじゃないですか」
「ああ、うん」

略してD.M.Revolutionと言いたいとこだったが異界の相手にこのネタが通じるかどうか分からないのでやめておいた。この略称で呼んで欲しいがために自分でつけた能力名だったのだが誰一人呼んでくれずそのまま「デンシカクメイ」やら「デンシヘンカン」やらで呼ぶのは不満中の不満だがまあそれは置いといて。

「簡単に言えば触れた物質を電子に変換して操作する能力です、自分以外の動物は原則電子化できませんけどそれ以外なら多分電子に変換できます」
「へえ、だからさっきフォークがすり抜けたんだ?」
「はい。と言っても自分が何をしてなくてもある一定以上の衝撃を受けると衝撃を受けた部分が電子化するように設定してあります」

これは学園都市第1位一方通行の演算パターンを植え付けられた結果得た能力だ。人はこれを反射と呼ぶ。

「結構便利な能力だね」
「そうですね、汎用性は結構高いですよ」

それでもレベル4止まりなのは自分の体の質量を超える電子を操れないからだけど、その弱点は今は言わないでおく。それにしてもこんなに小さくなっては出来ることは限られてきそうだ。

「……その力、俺のために使ってみる気はない?」
「え?」
「見返りとしては、そうだな、この世界の衣食住の手配をしてあげる」
「はあ」

突然そう持ちかけてきたシャルナークさんだが、悪い話ではないと思う。大抵が電子化された学園都市みたいな場所ではお金などなくても能力でどうとでも生きていけるのだがこの世界がどうかは分からない。素直にうなずいておきたいところだが……、この胡散臭い笑顔を前に首を縦に振るのは少し怖い。

「どう?悪い条件じゃないと思うんだけど」
「いや、そうなんですけど……わたしの能力を使って一体何をしたいんですか?」
「そんなに大したことじゃないよ、情報を探ってほしいだけ」

最近忙しくてそっちにかけられる時間が減ってきたからお願いしたいんだけど、どう?こて、とかわいらしく首を傾げるシャルナークさんにそれくらいなら、と頷いたわたしは後で後悔する羽目になる。
111229

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