東堂とルームシェア | ナノ




東堂家に居候し始めて一月が経った。時間を見つけては不動産屋に行ってはいるものの中々見つからず、やっぱり東堂さんの言葉に甘えてずるずる生活していた。
下着とか諸々の関係で洗濯物の当番はわたしで、朝ごはんは東堂さん、昼ごはんは各自、晩御飯は早く帰った方で遅くなる時や食べない時は連絡すること、と着々と色々なルールが増えていた。
お互いの予定を書くホワイトボードがいつの間にか設置されていたし、トイレには三角コーナーと生理用品が増えた。
何だかんだリカが散々心配していた男女の何かが起こる気配などまるで無く穏やかに過ごしている。
わたしは東堂さんのことを兄というか最早母親のように思っているし、東堂さんも妹のようにしか思っていない気がするんだよねと何かとわたしと東堂さんの様子を気にするリカに告げるとその度にどうかなあとにやにやするのだ。
一度東堂さんと一緒にスーパーに居たところ、偶然リカに遭遇してからリカは東堂さんのことを気に入ったのかしきりにわたしとどうにかならないかを期待しているようだが、リカが思うようなことには間違い無くならないだろうと自信を持って言える。

今日は金曜日なので、学校が終わったら夜の10時までバイトをして来ると朝に言ったら迎えに行ってやるから終わったら連絡しろと言われたことをいかに忘れないか考えながらいつものコンビニで品出しをしていると、春瀬チャンおつかれと声をかけられる。深夜帯の荒北さんだ。

「荒北さんお疲れ様!っていうか今日ちょっと来るの早くない?」
「今日早く出勤したら退勤時間ちょっと早くしていいよって店長が言ったからネ」
「荒北さん本当よく働くよねえ、今日だって会社あったんでしょ?」
「まあ2年もやってりゃ意外と慣れるもんだぜ」

荒北さんは平日は会社で働いて金曜日と土曜日の夜にこのコンビニで働いている。会社には内緒の副業と言うやつである。学生時代の奨学金と車のローンの返済で生活が厳しいらしく2年前、わたしと同時期からこのコンビニでのバイトを始めたのだ。
荒北さんのシフトは大体夜の10時から翌日の朝6時までなのでわたしが夜10時まで入る日と、土日の朝6時から入る日は入れ違いだが少しだけ時間が被る為こうして話すこともある。
今日は一時間早く来た荒北さんは早速レジの現金を数えるべく奥の方のレジを開きながら「そういえば春瀬チャンさァ」と口を開く。
最近シフトの時間変わったよねェ、と続けた荒北さんの言う通り、前は10時までやっていたが最近8時までで帰ることが多くなっていた。
その理由は東堂さんであり、女の子がそんな暗い中一人で帰ってくるのは危ないだ夜までやって酔っ払いに絡まれたらどうするだと口うるさかった為だ。
女の子がどうたらに関してはもしかしたら実家のお母さんより口うるさいかもしれない。
わたしがバイトで遅くなる度にそんなことを言われ続け、ついに根負けしたわたしは店長に頼みなるべく夜遅くまでのシフトを入れないようにして貰ったのだ。
今日はたまたまわたし以外に入れる人が居なかったのでこの時間まで働いている。
荒北さんには何て説明しようかなあと思ったもののパッと適当な理由を思いつく程頭の回転が良い訳でもないので、事実を交えつつ男の人とルームシェアをしているということを伏せて事情を話し始める。
火事で家が焼けてのくだりでは「マジかよ! ちゃんと保険入ってたァ?」と心配して貰ったがちゃんと保険には入っていたので大丈夫だ。その後一応友達とルームシェアをしていると伝えると「フーン、男?」と核心を付いてくるので違うよと首を振る。

「高校からの友達の女の子」
「ヘェ、彼氏と同棲でも始めたのかと思った」
「いや、残念なことに彼氏は前の伊藤くん以来居ないし……」

荒北さんの会社の人でも紹介して欲しいくらいなんだけど、と続けると荒北さんは少し考えた後「ロクなの居ないから止めといた方がいいぜ」と首を振った。


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