東堂とルームシェア | ナノ




東堂さんちに居候、じゃなくて東堂さんとルームシェアを始めて三日目。今日は一限から授業があるのでせっせと早起きしたのだが、同じく仕事の東堂さんはわたしより先に起きていた。眠い目を擦りながら、台所に立つ東堂さんにおはようと朝の挨拶をすると東堂さんからもおはようと返って来る。

「東堂さん何作ってるの?朝ごはん?」
「ああ。簡単な物だがな」

卵焼きとウインナーに、白いご飯と昨日の残りのお味噌汁。春瀬さんの分もあるから早く顔を洗って来いと言われ慌てて洗面所へ向かう。この三日で分かったが、東堂さんは朝食はしっかり取る派のようだ。片付けが面倒くさいのと朝から何かを作る気になれなくて、朝は買ってきた既製品かそれが無い時は朝ごはん抜きのわたしとは大違いである。
大急ぎで顔を洗って、化粧水、乳液と基礎化粧品だけを付けて戻ると既に卵焼きとウインナーはお皿に盛りつけられていた。

「わーい、おいしそう!」
「あ、食べる前にいいか?」
「うん?」
「これ」

差し出されたのは鍵だった。じっと見つめたが、ごく普通の鍵だ。

「うちの合鍵だ」
「えっ!」
「お互い帰る時間も違うし、無いと不便だろう」

さっき気付いて引き出しの奥に仕舞い込んでいたのを発掘してくれたらしい。
お礼を言って鍵を受け取ると、持っていくのを忘れないように鞄の中のポケットに入れる。今日は授業が終わった後のバイトまでの暇な時間、この鍵に付けるストラップでも買いに行こう。

「よく考えたら携帯の番号も交換して無いな」
「あっ、ほんとだ!」

東堂さんに言われて気付く。この土日は二日共東堂さんと行動していて携帯で連絡を取るという必要性を感じなかった為にすっかり忘れていた。
赤外線が付いていないので口頭で番号を聞いてそれをスマートフォンに入力していく。
名前を入れる時にお互いどういう字を書くか分からなくて、そこで初めて響きだけ知っていた東堂さんの名前が漢字とイコールで結びついた。
東堂尽八。何だか四字熟語みたいだ。

「今日は何時に帰る?」
「今日は3時間だけだけどバイトして帰るから夜の8時くらい」
「じゃあ多分同じくらいだな」

ようやく朝ごはんを食べ始めながらそんな確認をして、朝のニュース番組を見ていると時間はあっという間に過ぎて行ってしまう。
月曜日は朝礼があるから少し早めに出勤すると言う東堂さんを見送って、わたしも着替えて簡単に化粧をし始める。
部屋を出る時に早速貰った合鍵を使おうと思ったが、東堂さんにオートロックだから鍵は閉めなくても勝手に閉まると言われたことを思い出して再び鞄に仕舞い込んだ。今日帰ってきた時がこの鍵のデビュー戦である。















大学に行ってからは案の定リカからの質問攻めである。
この前電話した時に、火事に遭ってなんやかんや住む場所は確保したんだけどお母さんが心配するからリカの家に居候していることになっているとこれ以上無いってぐらいに簡潔に話したのだがそれでは足りなかったようだ。

「お母さんが心配するってことは住む場所って新しく借りた訳じゃないんでしょ?」
「うん、まあね」
「もしかして彼氏の家って聞こうとしたけどアンタ彼氏居たっけ?」
「去年伊藤くんと別れたきりだよ」
「だよねえ、わたし聞いてないもん」

っていうか聞くの面倒だからさっさと説明してよ、と言うリカに口裏を合わせて貰う以上ちゃんと説明しておかないのもどうかと思うので正直に話すことにした。
説明し終えた後のリカの眉間には皺が寄っていて、顔にハッキリ「それって大丈夫なの」と書かれているし実際に口に出して言われた。

「その人いくつって言ったっけ?」
「25歳」
「家に置く代わりに身体求められたりとかしてない?」
「いや、そういうこと出来る人じゃないっていうか……」
「騙してるだけかもよ?」
「そもそも嘘付ける人じゃないと思うんだよなあ」

自称美形なんだけど実際美形だし、女の人には困って無さそうだからそういう性的欲求を満たそうとしてるとはとても思えないのだ。ドラマのキスシーンですらちょっと赤くなってたし。

「一緒に暮らして三日目なんだけど、面倒見がすごく良いの。お母さんみたい。だから放り出せなかったんじゃないかって」
「……まあアンタがそこまで言うならいいけどお」

ちょっとでも危ないと思ったらすぐ逃げるのよ!と渋々納得したらしいリカに、何かあった時はリカと彼氏の愛の巣に避難させてもらうからと言うと、その時は彼氏追い出すからいつでも来なさいと頼もしいお返事だ。絶賛同棲中のリカとその彼氏のお世話になるのは申し訳無いので、さっさと部屋を見つけないとなあと思う反面ちょっと東堂さんとの生活を気に入っている自分が居ることに気付いた。


140714


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