東堂とルームシェア | ナノ




翌日の土曜日、東堂さんと不動産屋を何件かはしごしたのだがどうにも目ぼしい物件が見つからなかった。東堂さんはともかくわたしは高望みもしていられないのだが、どうにもしっくりくるところが見つからず東堂さんの「無理に今決めなくても良い」という一言に甘えることにした。

「そういえば春瀬さん」
「ん?」
「これから生活していくなら色々入用の物があるんじゃないのか?」

東堂さんの言葉にはっとする。家を探すことに夢中になっていたが家が見つかっても見つからなくても服やら下着やら買い直さなきゃならないものはたくさんあるのだった。思わず東堂さんの顔を見ると、すっかり忘れていたわたしの顔を見て呆れたように溜息をつく。

「心配になるぞ、色々と」
「……お手数お掛けして大変申し訳ないのですが、この近辺にあるショッピングモールに案内して頂くことは可能でしょうか?」

何だか悔しかったので精一杯の丁寧さで一番近いイオンとかに連れてってくれと言ってみる。すると返ってきたのは「何か気持ち悪い」の悲しい一言だった。心配になると言うのでちょっとは出来るぞというところをまずは言葉遣いから表していこうとしたのだが東堂さん的にNGだったようだ。
そしてそれらを揃えるお金はあるのか、と東堂さんは常にわたしの考えの一歩先に居た。今月はまだ始まったばかりだから口座にお金は残ってるが、それを使ってしまうと後が苦しいのでお母さんに連絡して別で用意して貰わなければならない。
お母さんに自宅が火事で焼けたことを報告したのは昨日のことで物凄く心配されたが、部屋が見つかるまでは友人のリカの家にお世話になると伝えると一先ずは落ち着いてくれた。
その後リカも物凄く大まかに事情を説明して、口裏合わせをお願いしてあるため暫くはそれで乗り切れそうだ。リカから月曜日質問攻めにあうことはほぼ間違い無いだろうけどね!






ショッピングモールで買い物も済ませ、東堂宅へ帰宅すると一日も過ごしていないのに帰ってきたなあという気分になる。なんて言うか、安心感ってやつだ。
買い物した物をどさどさ纏めて床に置く。量販店で着回し出来そうな物を何点か買って、後は実家に残っている物を送ってもらうことにした。
男の人で女の子の買い物に付き合うのを嫌がる人が多い中、東堂さんは率先して付き合ってくれていた。服を選んでいる最中も「春瀬さんにはこっちの色の方が似合うと思う」と意見してくれたりして、ついでに言えばあれはいいのかこれはいいのかと色々気を回してくれたおかげでとてもスムーズに買い物を終わらせることが出来た。
そんな東堂さんも流石に下着売り場には入れなかったようで、一緒に選んでくれてもいいよと冗談半分に提案してみたが普通に却下されてしまった。わたしの前で大人の余裕を崩さないことが多い東堂さんが珍しく少し赤くなっているのが面白くて、東堂さんは何色の下着が好きなの?やらTバックは好き?やら質問攻めにしていたらショッピングモールの中で小さい子のごとく怒られる羽目になってしまった。この件に関しては完全に自業自得なのでちょっと反省している。でも「俺の好みなんざいいからさっさと行って買って来い!」と怒る東堂さんの顔は相変わらず赤くて、それはちょっと可愛かったな。

「ねえ東堂さん」
「ん?」
「わたし引き続きお客さん用のお布団使っていいの?」
「ああ。っていうかそれしか無いだろう?」
「いや、東堂さんのベッドで二人で寝るって選択肢もあるよ?」
「……お前自分で言ってて本当に実行したら気まずいって自覚はあるんだろ」
「……もしも実際やったら気まずいどころの騒ぎじゃないよね」

また照れてくれるかなって思って言ってみた、と懺悔すると大人をからかうなって言ってるだろと頬をつねられた。東堂さん、慣れてきたのか段々容赦が無くなってきた気がする。


140710


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