「そういえば、明日はどうするんだ?」 発泡酒を一口飲んで、おっさんのような声を出しながらぼーっとしていた東堂さんだがふと思い出したようにそう質問してくる。明日は一応不動産屋さんに行ってすぐに借りられるところが無いか聞いてみるつもりだ。未成年の契約には親の同意書が必要な為、借りるまでに少し時間が掛かるかもしれないがそれまでは当面友人宅に厄介になるか漫画喫茶の二択である。そう告げると東堂さんは眉を寄せて難しい顔をする。 「友達の家はともかく漫画喫茶は危ないだろう」 「……性犯罪的な話?」 「……性犯罪的な話も盗難的な話もだ」 「確かに誰でも入れるようなとこで寝泊まりするのは危ないかも」 でもホテル泊まれる余裕も無いんだよなあ。とりあえず友人に都合を聞いてみて、無理そうなら危ないけど漫画喫茶かな。そんな結論を出したわたしに東堂さんは気に食わないような顔をする。 「だってお金無いんだもん!それに家借りるまでのちょっとの間だしさ」 「そのちょっとの間で何かあったら俺の後味が悪いんだよ」 「えっ、何?心配してくれてんの?」 「最初会った時から心配してやってるだろう」 「確かに」 言われて思い出してみたが、初対面で赤の他人のわたしに東堂さんはめちゃくちゃ親切にしてくれていた。それにしても東堂さんがあまりに話しやすいから忘れていたが、よく考えたらわたしと東堂さんはまだ出会って3時間程しか経っていないのだった。 明日は土曜日で休みの為、深夜番組を見ながらスルメちょうだいと東堂さんのスルメを奪う。酒のつまみならぬカルピスのつまみになったスルメを咀嚼しながら「部屋決まるまで東堂さんちの子にしてくれてもいいよ」と切り出してみる。半分冗談で半分本気の発言である。 冷静に考えてこんな見知らぬ小娘にそこまでしてやる義理は無いので当然答えはノーだろうな、と思っているとびっくりすることに数秒後東堂さんが出した答えはイエスだった。 「嘘!」 「嘘じゃない。まあ、条件はあるが」 「いや、条件はともかく本当に良いの?」 「漫画喫茶で寝泊まりして万が一があるよりはマシだからな」 やばい、この人優しすぎる。あまりに優しすぎて何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。これまで話してきて嘘をつけるような人じゃないと思ったのだが、それこそ万が一で悪い人だった時にショックがでかいので一応念の為確認だけはしておこうと思う。 「……もしかしてわたしの身体目当てとかじゃないよね?」 恐る恐る聞いたら怒られた。物凄く怒られた。 「言っとくが俺がお前に手を出したら犯罪だからな!?」 「え、でも歳の差的には5歳だから犯罪って言う程でも無くない!?」 「気持ち的に未成年に手出したら犯罪なんだよ!っていうか春瀬さんは手を出して欲しいのか!?」 「気まずいので出して欲しくないです!」 「よし!じゃあ二度とそのような事は言わないように!」 「はい!」 元気良く返事をしたところでお互い飲み物をぐっと飲んで一息つくことにした。スルメを頬張りながら「よく考えたらいくら切羽詰まってるとは言え、年上の男と暮らすのはちょっと嫌だよなあ」と言い始めた東堂さんにそんなことないよと否定を入れておく。まだ出会って3時間だが東堂さんとの空間は何だか落ち着くというか、そんなに気を張らなくてもいい気がするのだ。そう告げると「何だかんだ年齢言い合った後もタメ口のままだしな」と言われ「あっ、ごめん」と今更謝ったのだが謝ったそれもタメ口であった。 「……敬語の方が良い…ですよね?」 「いや、今更それは落ち着かんからやめてくれ」 「あ、本当?じゃあお言葉に甘えとこ」 東堂さんスルメおいしいと言いながら東堂さんの分のスルメまで奪おうとすると、流石にそれは許されなかったのか「これは俺のだ」としっかりとガードされてしまった。 「そういえばさっき言ってた条件って?」 「ああ、とりあえずは家賃3割負担と、生活費を折半して欲しいのだが」 「それは全然構わないっていうかむしろ家賃は折半じゃなくていいの?」 「流石に学生の子にそこまで言えんだろう」 「……ちなみにその3割の家賃っていくら?」 物凄く高かったらどうしよう、と思ったのだが金額を聞いてみると全然そんなことは無く。前住んでいた部屋よりも当たり前だがうんと安い金額だったので、バイト代もあるし一応仕送りも貰っているので大丈夫だと伝える。 「……実は最近家賃が値上がりしてな」 「あっ、そうなの?」 「ちょっと生活を切り詰めるか引越すか考えていたところだったんだ」 だから部屋はゆっくり決めてくれていいからな!と言った東堂さんに「えっ、じゃあわたしの本拠地ここにするのはアリ?」と今度は完全に冗談で尋ねると「いや、一応不動産屋には行ってくれ。何なら俺も行く」と真面目に答えられたので結局明日は二人で不動産屋に行くことになった。 140709 ×
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